海に乗せた秋の風

晴蔵

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秋は宝箱

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八重は、中学生になった頃私に教えてくれた。その時の悲しげな顔をよく覚えている。
「…夜香、私はどうしたらいい?」
 八重の家は、音楽一家で厳しい教育を受けているということ、自分自身にはまったく音楽の才がないこと、本当は花屋を開きたいという事。
 だから私は、無責任に提案をした。
「なら、一緒にお花屋さんをやろうよ!私達で!」
 あの時の一言が私たちを崩壊させる原因となったのかもしれないと、時々思い出す。「大丈夫」やら「安心して」になんの意味があったのか、そんな無責任な言葉に、逆に八重を追い込む原因となっていたのではないか?
 けれども八重は、私の「花屋を開こう」という提案を飲み込んでくれた。無理だと分かっていても、希望を捨てない顔をして。

 八重との秋の思い出は、どれも深いものばかりだ。短い秋だが、私たちにとっては思い出の宝箱のようなもの。
「ねぇ、コスモス畑に行こうよ」
 それは、私の口から出た貴女を慰める精一杯。もっとなにかしてあげれた様な気がした。貴女を連れて、どこかへ一緒に逃げてしまうのもアリだった。
「…コスモス畑」
 貴女の大好きな花を見せれば、元気を出してくれるかなと、そんな浅い考えをした。心に付いた傷がそんな簡単に癒せるわけないのに、私は自分勝手だったのだ。
 コスモス畑で八重は、コスモスの花言葉を教えてくれた。花言葉は「乙女の真心」「調和」「謙虚」。まるで八重そのものだと思った、コスモスを語る時の八重は楽しそうで自慢げで、とても輝いていた。
 こんな輝かしい八重を忘れたくないと、写真を撮った。夕焼け空と秋、コスモス……そして八重の重なる景色はまるで絵画で、今でも写真に残している。
「…ありがとう、夜香」
 貴女のありがとうを聞いて、とても嬉しくなった。大好き、大好きすぎたのだ、八重の事が。
 感謝の言葉はこんなに人を救うのかと涙を流しそうになった。貴女をちょっとでも元気付けるつもりが、私が元気をもらってしまった。
 八重からは、貰ってばかりだと思った。コスモスの魅力も、花言葉も全部教えてくれた。私はなにか、八重に与えられたのだろうか?
 今できることはこうして貴女に寄り添い、微笑む事だけ。きっと誰かに「そんなの自己満足じゃない?」と言われてしまえば、きっと私は何も言い返せない。

「風が、心地いいですね」
 辺り一面に咲いていた花が風に揺れて、私達に寄り添うようだった。やはり、秋は優しい季節だ。風も花も、味覚も気温も寄り添う。
 足並みを揃えて、落ち葉を踏んで。
「…葉、1枚1枚が私達の思い出ですよね」
 木から落ちた葉を見て、なんとなくそう言ってみせた。
 
 
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