海に乗せた秋の風

晴蔵

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出会いと四季

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 私たちが出会ったのは、出会いの季節とも言われる春。桜が満開で、学びの門を元に潜った。
 たまたま隣に居たのが貴女だった、私はきっと貴女でなくとも話しかけていたけど、今では八重でなければダメだと思う。
 あの時から貴女は静かで、無邪気で元気な私とは正反対…例えるなら月と太陽、水と炎、白と赤だ。
 けれどもお互いお花が大好きだった。桜の前で一緒に写真を撮り、たんぽぽを髪飾りにして綿毛を吹いた。

 夏の季節になればひまわり畑で大はしゃぎした、私がはしゃぎすぎて転んで泥だらけの傷だらけになったのはいい思い出だ。
「あのとき、八重に貼ってもらった絆創膏…すごく優しかったのを覚えてます」
 八重の貼った絆創膏は花柄の可愛らしいものだった、その絆創膏は今でもお気に入りで、怪我をした時には同じ柄ものを貼っている。
「今の私は、昔ほどはしゃげなくなりました」
 なんて言うけど、貴女と会える今日を待ちきれなかった。八重には見えないだろうけど、足の指をぶつけたから花柄の絆創膏を貼っている。

 秋、八重と私の一番大切な季節。この頃に貴女は私に教えてくれた。
「秋が一番好きだ」と、紅葉の隙間から私に教えてくれた。私はたくさん枯葉を踏んで、まだ無邪気だったのを覚えている。そうして、他にも秋のコスモスが1番好きだと貴女は嬉しそうだった。
 あの時の私には、コスモスの魅力が分からなかった。そんな私に貴女は、コスモスの魅力を教えてくれた、色が鮮やかなこと、暑さに強い種もあること。チョコレートの匂いがするものもあると。
 自慢げに話す貴女は、あれが初めてだったかもしれない。

 私が一番好きな季節は冬だった。貴女は苦手と言っていたけど。今では私も、あの時の八重に同意できる。ちっちゃい頃は寒さなんて知らずに、空から降る雪に大喜びして雪だるまをつくり、雪合戦。
 あの頃が無敵で愛おしくなる、子供の純粋さや素直さ、愛嬌…少なくとも私は、無知で純粋、穢れを知らず何があっても誰かに褒められ立ち上がっていたから。

 八重との思い出は、まだまだ数え切れないほど抱えている。その中でいちばんは秋なのだ。初めて、心から楽しそうな貴女を見れたから。
 あの時の貴女は、心の重荷を下ろせていたのだろうか?私は、あの時無自覚に貴女の居場所になっていたのだろうか?今だからこそたくさんの疑問が出てくる。
「…どうなんですか?八重」
 そんな私の声を打ち消すように、秋の風が強く吹いた。
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