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第2章 キメラ狩りへ

第34話 取引

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「…探す? あの人居なくなったんですか?」

 サーラ様。あの好奇心旺盛そうな者の事だ。あの夜の時だって無防備にも、酔っ払い男に着いて行く所だった。もしかしたら危ない連中に捕まってるかもと心配になっているのだろう。なくはない。

「はい…実はここ数時間、私はお嬢様の下を離れて行動したのですが、宿に戻って来てみるとお嬢様は何処にも居なく…もう何時間も探してはいるのですが…」
「…」

 この人も中々の実力者。それでも見つからないとなれば。俺でも見つけられるか分からない。でも頼むなら…

「分かりました…」
「本当ですか!!」
「ただし…その頼み、ただでやる気はない」

 俺が丁寧な言葉遣いをやめて言うと、トマスは少しピクッと反応を示す。

「ハッキリ言ってこの頼まれ事は、俺がやるメリットがない。しかも冒険者ギルドの様な団体が間を取り持ってくれる訳でもない」
「…」

 トマスは俺の発言に対して何も反応を示さず、ジッと聞いていた。言葉遣いを雑にして動揺するかと思ったが…少し身体を震わせた後は真剣に此方の話を聞いている。
 トマスは恐らく貴族であるサーラに使えている執事と言った所だろう。と言う事は貴族の筈。それにも関わらず、普通の貴族では出来ない精神を持っている。

 これで怒ってくれたら、それを口実に断っても良かったんだけど…そうも行かなそうだ。

 ゼルはトマスの鋭い眼差しから、どれだけサーラを心配している事が分かった。

(しかし、やるからには…)

「それに本当に攫われたとは断言は出来ないだろう? そんなのに時間を割きたくない」
「…つまり?」
「ただでやるのは割に合わないって言ったろ? 1000万ゴールドでどうだ?」
「い、1000万!?」

 俺は法外な値段を提示した。此処で優しくでもしたら、また手を貸して欲しいと言われかねない。今はこっちが上だと示す。

「それぐらいでないと受ける事は出来ないな」
「…ふぅ…流石にそれはぼったくり過ぎはしないでしょうか?」

 強気な態度で話すが、トマスは大きく息を吐いて気持ちを沈め、冷静に対処した。

「じゃあこれは無かったことに…」

 その態度を見たゼルは片手を振りながら、踵を返す。

「…待って下さい」
「…」

 ゼルは大人しく足を止め、半身だけ振り返る。

「今すぐには決められません。サーラ様とご一緒に
「今すぐだ」
「……ハッキリ言って私達はその金額を払う事が出来ません。まず、そんな大金を主人が居ない時に払う約束をする者は居ません」

 …もっともだ。そんな者居たら直ぐに主人に家族諸共処刑されるぐらいの失態だ。でも、それだと今此処では決められないって言ってると同義。

(…帰るか)

「なので、それ相応の報酬、でどうでしょうか?」

 俺が宿に足を進めようとした瞬間、トマスは言ってきた。

「相応の報酬?」

 俺はトマスの方をもう一度振り返り、聞いた。

「はい。私が貴方の働き具合を見て決める。それでどうでしょうか?」

 トマスは笑顔で此方に問いかける。先程まで無表情で対応していたが…俺が食いついたのを良い事に余裕を見せて来たのかもしれない。

 だが、それ相応の報酬か…。

「俺が貴方が思っている以上の成果を出せば?」
「言いましたよね。相応の報酬を出すと…この老骨の身を売ってでも払いましょう」

 トマスは浅くお辞儀をする。

 ハッキリ言って売るまでしなくても良いけど…まぁ…貸しを作っただけでも良しとするか。

 ゼルは右手をトマスへと伸ばす。

「覚悟しておけよ?」
「ははっ、お手柔らかにお願いします」

 そう言って2人は握手した。



 これが後に、国を左右する程の取引を為す事になるのは誰も知らない。
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