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第2章 キメラ狩りへ

第31話 vsシーバ

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 俺はシーバに矢を射ると同時に、相手との距離を詰める。

「な、何だ!?」
「うわぁっ!?」

 近くには防具を纏った2人がいるが、俺の気配に気付いたシーバよりかは、実力はないと判断した。それに今も何が起こっているか分からないのか、武器も抜かずにアタフタとしている。

 今、何よりも厄介なのは遠距離でも攻撃が可能なシーバ。

 俺は男2人を早々に弓で頭に狙いを定め始末すると、シーバから繰り出される黒いモヤを避けながら接近する。その魔法が当たった壁や地面からはシューッという何かが溶ける様な音が鳴っていた。

(1度でも攻撃に当たったら終わり…毒か?)

 ゼルは接近しながらも冷静に分析する。

「絶視!」

 俺は冷静な分析から、絶視を発動させる事に決め、シーバを見た。

 すると、シーバの身体からは黒い煙が纏われており、手からはそれ以上の黒い煙が溢れる様に流れていた。

 それを見たゼルは直ぐに絶視を解き、一気にスピードを上げて近づいた。

(全部が危険と言う訳じゃない…あの手だけに気をつければいい)

 後3メートル。

 そんな時、シーバは何を思ったのか部屋に入り込んだ。

 何かがあるのかもしれないと感じた俺は少し間を空けて、木製の扉を蹴り飛ばして中に入らず、中を見た。すると中では此方を見ながら笑っているシーバの姿があった。

「何だ? 入って来ないのか?」
「…」

 俺はゆっくりと部屋に足を踏み入れ、身体が全部入ったその瞬間。

 ガァンッ

 と、扉があった所に鉄格子が降りて来た。

 部屋は大きな本棚が多数置かれており、相当な広さを誇っていた。正に図書館の様な場所であった。


「此処を知ったからには逃すわけには行かない…」

 シーバはそう言って、近くにあったレバーの様なものを下ろしていた。

「…逆に言えば、お前も逃げれない状況だが?」

 そう言い返すと、シーバは堪えきれないと言った風に笑う。

「私がお前みたいなガキに負けるとでも?」
「俺みたいなガキをこうまでしないと追い詰められないお前が偉そうにするな」
「ッ!?」

 余裕そうだったシーバは核心を突かれたのか、拳をプルプルと震わせながら此方を睨んだ。

「…随分苦しんで死にたいらしいね。お前の事はさっきの発言を後悔するぐらいゆっくり溶かしてってやるよ」
「安心しろよ、俺はお前を殺す気はない」
「つくづく舐めたガキだね!!」

 シーバは叫んで此方に掌を向けて、黒いモヤを連発した。

 俺はそれを部屋にあった家具等を障害物にして避ける。障害物にした物は、先程と同様音を立てて溶けていく。

「大口を叩いた割に逃げるだけかい!?」

 シーバはさっきの会話で苛立ちが頂点に達しているのか、此方を煽る様にして叫んでいる。


 冷静さが欠ける者が戦闘では死んでいく。

 そんな煽りで怒る者は、素人だ。

 そう、教わった。


 ゼルは忙しなく足を動かし続けて、シーバの攻撃を避ける。

 そしてそれと同時に観察する。

(シーバの一挙手一投足を…)

 どんな事も考えてやらなければ勝てるものも勝てない。例え、力が劣っていたとしてもイレギュラーは起きる。

 そのイレギュラーを意図的に起こしてでも、勝率を高める。

 安全に、慎重に、確実に。

 これがゼルの狩りの仕方だった。


「は…はは! 避けるだけじゃ何もならないだろ!? 攻めてきなよ!?」

 シーバは先程から変わらずにずっと黒いモヤを連発している。
 表情も少し疲れて来ているのか、汗が垂れている。あのモヤを出すのも無限ではない様で息も荒い。

 どう考えてもオーバーペース。

 そして全体的に戦略性に乏しい。服装や身体つきからも戦闘訓練を行った様には見えない。

(…さっきの男達よりも強い気がしたけど気のせいだったのか?)

 ゼルの中で1つの疑問が生まれ、それを確かめる為にゼルは行動を始める。

「はっ!!」

 ゼルは地上の建物に入ってきた時に使った"発勁"を使って近くの本棚の本をシーバに飛ばす。

「ッ!?」

 それに驚いた様な表情を見せたシーバは、真正面に両手のひらを向けて、本を全て溶かした。

「ふ、ふふっ! まさかこれが攻撃って言うじゃない…チッ…」

 シーバは部屋を見渡し、ゼルの姿が見えない事に気づくと、舌打ちをしてキョロキョロと首を動かす。

(よし…1度死角から弓で…)

 ゼルが弓を構えた瞬間、突然黒いモヤが飛んできた。

「ッ!!」
「チッ…当たらなかったか」

 それを転がってギリギリで避け、着ていた浮浪者の服が溶け、黒いモヤが付いた所を千切りゼルは対処する。


(完全に姿は隠した筈…何で…)

 ゼルは訝しげにシーバを見ると、シーバは眉を顰めながら此方に掌を向けた。

「くっ!」

 俺は急いで避ける。

「無駄な事はやめて早く出てきな」

(…何かある、な)

 気配を無くすのには自信がある。

 しかし、最初にシーバは見つけた時と同様見破られた。

「…出るか」

 ゼルは隠れていた物から出て、シーバの目の前に立つ。

「やっと覚悟が出来たか?」
「…」

 このまま長期戦になれば此方が不利になる。
 相手も疲れているだろうが、避ける家具が無くなるのが先だろう。しかも、時間が経てば経つ程囚われている者達が気になる。

「もう良いと思ってな」

 ゼルは表情を変えずにシーバへと近づく。

 相手に読ませるな。顔に出すな。

「何だと…?」
「お前の実力は大体分かった。お前は俺に勝てないよ」

 相手に少しでも…恐れを…動揺を…。

「ふ、ふん!! そんな訳ないだろ!!」

 シーバは少し後ずさる。

 今分かってるのは隠れても仕方ないと言う事。相手は戦闘を得意としていないが、あの黒いモヤが厄介な事。

「万全は喫した」

 俺はそう言って、また障害物がまだ多く残っている方へと駆け出した。

「またそれか!!」

 シーバは呆れた様子でまた黒いモヤを出し、攻撃を始める。

 しかし、その油断が命運を分けた。



「絶視 せん

 ゼルは素早く矢をつがえると、目を見開いて"絶視"を発動させ、矢を放った。

 それはシーバの黒いモヤを避ける様に飛び、シーバの両腕を的確に貫き、壁へと繋ぎ合わせた。
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