上 下
53 / 67
第4章 お祭り

第53話 メマとしょうた

しおりを挟む
「おれはしょうただ!」


 少し吊り目で短い髪は、近所のガキンチョと呼ばれる様な白のタンクトップに、膝小僧まで出た半ズボンを履いている。
 しょうたは踏ん反り返り、腰に手を当てながら宣言する。それに一瞬ぽかんとするメマ。


「め、メマはメマだよ! よろしくね!」


 しかし、哲平……もとい比奈の指導が良かったのか、「初めて会った相手には自己紹介する事を忘れずに」と言われていた事もあってメマは元気に手を差し出した。


「ん、よろしくな。それでおまえ、なにしてんだ?」
「メマは……おさんぽ」
「ん……? なにかあったのか?」


 事情を聞くと、みるみるとメマの眉尻は下がる。


「おとーちゃんと……けんかしちゃったの」
「けんかしたのか。なら、おれといっしょにはなびみよう!」
「え、」


 唐突に手を引かれ、メマは転びそうになりながらもしょうたと共に走る。


「ど、どこにいくの!?」
「はなびみるためのとくべつなせきとってあるんだ! いっしょにみよう!」


 そう言ってメマ達は観覧席の奥へと入って行く。
 数十分後、着いたのはパイプ椅子が4つ並び、その前には小さな子供用のシートが敷かれている場所だった。
 周囲には少し離れた所に席が作られている。


「ここでみるの?」
「おう! おれひとりだけだったからさ! さいごまでみてけよ!」
「おとーちゃんとかは?」
「とーちゃんはしごと、かーちゃんもしごとでこない! まぁ、まいとしそうだからな。さびしくなんかねーよ!」


 メマはしょうたが言う事をよく理解出来なかった。
 しかし、誰も大人が居ないという事を当たり前だと言っているしょうたに、メマは無意識ながら尊敬の念を抱く。


「すごい……!」
「へへっ……! そうか?」


 恥ずかし気に鼻の下を擦るしょうた。しょうたは機嫌良くメマと話をしながら、メマはしょうたの話に徐々に明るい気持ちになりながら花火が打ち上がるのを待つ。


「あ~、はらへった」
「あ、メマも……」


 待っているとしょうたの腹が鳴り、メマはお腹を抱える。


「よし! じゃあ、なんかうまいのかいにいこう! まだはなびはじまらないし!」


 と言い、2人は屋台通りへと向かうのだった。



「うわ~! すごいひと~!!」
「まだまだじょのくちだぜ!! あ、あれ! うまいぞ!!」


 しょうたはメマの手を引き、屋台を回るのだった。



 __________



「緑色の髪をした女の子ですね……分かりました。私達の方でも探してみます」
「「すみません。よろしくお願いします」」


 俺達は係員の人に礼をすると、2人で中へと入った。


 事情説明や許可を取る為に時間を食い、時刻はもう既に花火の始まる8時の数分前まで迫っていた。


「人だかりが出て来たな、俺はあっちを探すわ」
「私はあっちを探します。見逃さないで下さいね」


 凪さんはそう言うと、走り去って行く。


 さて、気合を入れて探そう。此処にメマはいる筈なんだ。メマの性格からして多分……落ち込んでる、と思う。だから一ヶ所に留まり続けてると思うんだよなぁ。


 つまりーー。


「走り回って探す!」


 原始的だが確実だ!! それにレベルが上がったおかげで、体力もほぼ尽きない!


 俺は観覧席を隈なく探すのだった。


 __________



「これがやきそばだ!」
「やきそば? おいしそう!!」
「へへっ! すごくおいしいぞ!!」


 その頃、焼きそばの屋台の前、丁度2人は仲良く焼きそばを前に目をキラキラとさせていた。


「これはんぶんこしよう!」
「いいの!?」
「そのためにいっしょにきたんだぞ!」


 しょうたのカッコいい一言に、買った焼きそばを2人で分けて食べる。


「おいしい!」
「だべ?」


 メマの嬉しそうに頬を緩めた顔に、自然としょうたも笑顔になる。


「あれはどうだ?」
「チョコバナナ?」
「なんだ、チョコバナナもわからないのか? ほら、バナナにチョコがぬってあるんだ。あまくておいしいぞ!」
「あまいの!?」


 メマは、既に哲平の事を怒っているのも忘れて楽しんでいた。


 しかしーー。


「! にゅう!」
「ん?」


 そこに突然現れたのは、服にジュースの跡が付いている男……クロだった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

処理中です...