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第2章 夜会がある様です。

第16話 周辺諸国について

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 アイリス王妃と会った翌日、カーシュは図書館へとやって来て居た。

「おはようございます殿下、今日はどの様な御用件ですか?」

 王立図書館の司書アルネが、図書館へとやって来たカーシュへと笑顔で出迎える。

「またアルネに聞きたい事があってね、知ってる限りで良いんだけど…」
「何でもお答えします!!」
「そ、そう? じゃあ、周辺の国について知ってる事があったら教えてくれるかな?」
「お任せ下さい!!」

 アルネはそう言うと、小走りで図書館の奥へと消えて行った。

 何故カーシュが周辺諸国の事について知りたいと思ったのか、それには訳がある。

 それは今朝のラルとの会話まで遡る。

 * * *

「…暇だなー」

 それは早朝、朝食を食べ終わった後にラルが食器を片付けている時だった。

「暇、ですか?」
「うん…流石にマアトと部屋で遊ぶのもネタ切れというか…他の事をしたいかも」

 マアトが産まれてからというもの、カーシュは1日の大半をマアトと一緒に遊んで暮らしていた。

「でも、マアトの毛色は変わって少しは外に出れる様になったではありませんか?」
「それでもいつ解けるかは分からないんだ。外で遊ぶのは極力控えたい」

 未だに毛色は灰色のままだ。これがいつ解けるのか、ちゃんと判断してからじゃないといけない。

「そうですね…なら周辺諸国の事を調べてみたらいかがでしょうか?」
「周辺諸国? 何故?」
「何れはマアトの毛色がどの程度で変わるか分かる筈…なら、それまでに周りの国を調べておいて、行きたい所の調査をしてみたらどうでしょう?」

 その言葉は、カーシュの心を惹いた。
 平民として行くなら、自由に行動して、色々なものの観光が出来たりするだろう。
 だが、王子として隣国に行くのでは訳が違う。色々な挨拶回りとかがあるだろうし、気を張って疲れそうだ。

 カーシュは「うーん」と唸り声を上げる。

「隣国では武闘大会なる物が行われるそうですよ?」
「…別に武闘に興味がある訳じゃ
「魔道大会もありますよ?」
「ちょっと図書館に行ってくる。マアトのお世話よろしく」

 * * *

 それなら他国でもその様な素晴らしいイベントがあるのではないか? という邪な思いから情報収集をしに来たのだった。

(まだ寝てたマアトはラルに任せて来たし…私は男が集まるイベントを調べる…最高の時間ね)

 本来なら自分でコソコソと調べたい所だが、まだ文字も読めないカーシュにとって情報収集とは、外国語を何の勉強もなしに翻訳するぐらい難しい事。

 知識豊富そうなアルネに頼る他なかったのだ。

「お待たせしました!」


 ドスンッ


「えっと、この本は?」
「殿下が周辺諸国について知りたいと言う事でしたので、出来る限り隅々までお教えしようと思いまして!」
「い、いや、簡単でいいから」
「そ、そうですか…」

 何冊も本を持って来たアルネは、見るからにションボリとすると、咳払いをして話し出す。

「で、では気を取り直して! まずファテル王国は東西南北4つの国に囲まれる形で立地しています」

 そう言うとアルネは一枚の紙をテーブルに広げた。

「北には地獄の寒さを乗り越えた勇ましい騎士団と魔法師団を持つ『ウェルチ王国』。東には豊かな自然と共に育んだ身体はユー大陸随一と言われる『ノルク王国』。南にはユー大陸唯一と言われる騎士育成学校があり、多くの騎士を抱え込んでいる『サラシア王国』。西にはユー大陸唯一の魔法使い育成学校があり、多くの魔法使いを手元に置く『パルージャ王国』。どれもユー大陸の中でも強国ですね…」

 アルネは1人苦笑いを浮かべる。

「…この中で強い順となると、アルネはどう考えている?」
「そうですね…私の見解で良いのであれば、攻め落とすとしたら東、南、北、西の順番が良いと思われます」
「…ん?」
「まずは食糧が豊富でありながら戦力はイマイチのノルク王国から攻め落とすべきかと。その次は戦力を見てサラシア、環境を見てウェルチ、最後に多くの魔法使いが在籍しているパルージャになると思います」
「待て待て」
「? 何か不備がありましたでしょうか?」
「いや、何で攻め落とす事が前提に話が進んでいる?」

 そう言うと、アルネは不思議そうに首を傾げた。

「偉大な殿下の事なので、攻め落とすのかな、と…」

 どういう思考回路をしているのだろう。
 カーシュは本気でそう思った。強い国の順番を聞いて、何故攻め落とす順番を答えられるのか。

「純粋な疑問だから…攻め落とさないから…」
「…そうですか」
「何で残念そうなのかはあえて聞かないけど……それよりもその国で行われる祭りとかって無いの?」
「そうですねー…」

 カーシュは、昼まで周辺諸国の国について、アルネに教えて貰うのだった。
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