異世界イケメン王子に転生した腐女子は、男が少数の世界で嘆き奔走す 〜そして自由気ままなBL生活を過ごしている内に『聖王』と呼ばれる………え?

ゆうらしあ

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第2章 夜会がある様です。

第13話 母上との邂逅

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 フアラ・アルザ・ファテル。
 ファテル王国の第一王妃にして、ファテル王国の頭脳。頭脳明晰、八面玲瓏《はちめんれいろう》、眉目秀麗。

 今のファテル王国があるのも、まとめ役であるビクター、それを上手く支えるフアラ。この2人があってこそだった。
 しかし、身体が弱く、あまり表には出られないが為に頻繁に活躍する事はなく、世界屈指の頭脳を持ちながらも、"最弱国"に甘んじているらしい。

 真実かどうかは分からないが。

(そんな人が何で此処に…)

 カーシュはマアトの事を話しながら、椅子に座ってマアトをあやしているフアラを見て思う。

「へ~、ラルがこの子の卵をね~」
「アウ!」
「あら! 元気なお返事ね~! えらい! えらい!!」

 もうマアトを手懐けているあたり、流石はファテル王国の第一王妃と言った所だろうか。

「母上…母上は…」
「何でこの子が亜種なのに嫌わないのかって?」
「え、あ…はい…」

 マアトを可愛がる姿を怪訝に見てたカーシュが質問しようとすると、先を完璧に読まれた返答にカーシュは唯々呆然とした。

「ふふっ、何で分かったのって思ってる顔ね? 私の子供なんだからそんなの当たり前に分かるわよ」
「そ、そう言うものですか?」
「えぇ、そう言うものなの」

 フアラは少し頬を膨らませながら応える。
 母親らしくない、何処か子供らしい表情だ。

「それで何でこの子を嫌わないかって話だったわよね?」
「はい」
「そんなの決まってるじゃない」

 カーシュが返事をすると、フアラは食い気味で応えた。



「我が子が愛情をたっぷり持って育てて行くと決めたら、応援するのが母親ってものなのだから」



 カーシュはそれを噛み締める様に目を閉じる。そして間を置いた後、吹き出して笑った。

「あら、私は何もおかしい事言ってないわよ?」
「そうなんだけど…ごめん。凄いなあって思って」


 何か勝負をしていた訳ではない。
 しかし、"やられた"。そう思う程にカーシュの中ではフアラの言葉が心に刺さっていた。

 何があっても貴方の味方であり続ける、そう言われたと錯覚する言葉を言われた。


 華珠は親の言う通りに生きていた。女子校に入った方が安全だから、飲食店でバイトをすれば後々役に立つ等。
 自分から率先して何かをやるという事がなかった。

 それがカーシュになってからは変わり始めている。

(カーシュの記憶に引っ張られてる? それとも引っ込み思案だったのを同情して?)

 前世との自分の記憶に懐かしみながら疑問を抱いていると、フアラは片眉を上げて、興味深げにカーシュを見つめる。

「ふーん…まぁ良いわ。それよりカーシュ、最近会えてなかったでしょ? 少しお話しましょう?」

 フアラは今自分が座っている真っ白なベンチの隣を勧め、カーシュはそれにおずおずと少し間を空けて座った。

「さ、ママに教えてくれる?」

 * * *

「へー…こんな短期間にそんな事があったのね。楽しくはやってるの?」
「…はい」
「なら良かった」

 カーシュが話したのは、大まかに悩みについてだった。
 最近魔法の先生が付いたが授業が受けれてない事、マアトが産まれたは良いが外で遊ぶ場所に困っている等々。

 世間話というよりは、ちょっとした相談をしていた。

(この異世界に来て色々あったけど…あるとしたら悩みしかないんだよね…)

 今や5歳の王子、カーシュの前世とはやる事が大いに変わっていた。

「1人で全部抱え込もうとしない事」
「え」
「アドバイス」

 フアラはそう言って人差し指を立てて笑った後、カーシュへと一段と近づいた。

「それにしてもカーシュ……貴方…」

 何処か訝しげな表情。
 それにカーシュは体を硬直させる。

(も、もしかして前の私と別人だってのがバレて…!?)

 フアラの明晰な頭脳ならあり得ない事ではない。

 そう考えていたカーシュであったがーー。

「何でそんなにキッチリとした話し方にしたの!? 前みたいな可愛い話し方はどうしたの!?」
「…へ?」

 予想外の答えにカーシュは目を丸くする。
 泣きじゃくりカーシュに抱きつくその姿は、先程と打って変わって子供の様。

「私の事を母上なんて呼ぶし、それに僕じゃなくて私になってるし! ママは悲しい!!」

(よ、良かった…取り敢えずはバレてなさそう…)

 カーシュは抱きつくフアラを押し退けると、ベンチから立ち上がる。

「わ、私だって成長するのです」
「え~! 私の前だけでも前のカーシュで居てよ~!」

 何処か甘える様なその姿は今のマアトを彷彿とさせる可愛さだ。
 ハッキリ言って、息子が可愛いままでいて欲しいのは母親としては当たり前の反応なのかもしれない。

 華珠自身、子供が居たとしたらずっと可愛いままでいて欲しい、グレるのはもっての他だと思っていた程だ。

 カーシュが少し呆れながらフアラを見ていると、カーシュはふと思う。

(此処に来た時……親の印象悪かったんだけど…別に悪くないよね? それどころか凄く良く感じるんだけど…?)

 カーシュの記憶では、両親は自分を自分の子ではないと言う風に思ってた筈だ。

(それなのに何で…?)

「アウアウッ!!」

 そんな時、マアトが自分も遊んでと言わんばかりに飛びつく。

「あら、マアトちゃんも一緒に遊びたくなっちゃった?」
「アウッ!」

 フアラは「おいしょ」と声を出しながら立ち上がると、マアトに触れる。

「母上」
「んー? どうしたの?」
「今日はここまでにしましょう」
「…そうね、そうしましょうか」

 カーシュがそう提案すると、フアラは微笑み肯定する。

「また遊びに来ます」

 あまりボロを出さないように、慎重に言葉を選びながらマアトを抱くと、カーシュは足早にそこを後にした。



 そして、カーシュが緑のアーチを潜り、曲がって姿が見えなくなるとーー。

「"サー"」
「はっ」

 何も音を立てず、真っ黒な装束を見に纏った者がフアラの背後に1人現れる。

「カーシュの事を1度調べて貰える? 何か悪い病気にでも罹ってしまったのかもしれないわ。成長したと言ってもあんなハキハキと喋る子じゃなかったし、私の身体を思って気遣いまで…まだ5歳なのにあんな…まるで本当に別人になったみたい…」
「……どれ程に致しましょう?」
「分かってるでしょ? 徹底的にお願い」
「御意に」

 真っ黒な装束を着た者、"サー"は頭を下げると、消える様にしてそこから移動する。

 フアラはサーに命令すると、また近くにあったベンチへと座り込んで綺麗な青空を見上げた。

「ふぅー…」

 フアラはカーシュのあまりの変わり様に、内心、とても驚いていた。
 華珠がカーシュになる前までは、カーシュはフアラに怯えながら接していた。
 数週間会わないだけでは簡単に人の本質的な部分は変わらない。

 それなのに、あれだけの変わり様。会ってない期間どんな事があったのか聞いたが、これだと言う事は聞けなかった。

(成長してたとしたら良い事だけど…もし、私の子に手を出した子が居るとしたら……)

「それなりの報復をさせて貰わないとね」

 その獰猛な笑みは、先程の一児の母親の顔ではないーー。


 王妃である時の一面だった。
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