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第1章 この国、最悪
第7話 王と魔法師団副団長 ビクター
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そこはビクターの自室。
中はスッキリとしており、必要なものしか置いていない。
窓際にはビクターの執務机と椅子、中央には少し高級感があるテーブルにソファが2つ、壁際にはティーカップ等が置かれていた。
応接室から移動したビクターは、息子の成長ぶりの感動を落ち着かせる為、紅茶を飲もうとしていた。
トントントンッ
「む、入れ」
しかし、そこで扉が突然ノックされ、ビクターは訝しげな視線を扉に向けながらそれを許可する。
(こんな良い気持ちの時に…何の用だ?)
そう思っていると、入って来たのは汗だくのアルドだった。
「失礼します」
「何だアルドか。もう指導は終わったのか?」
そう問い掛けると、アルドは顔を伏せたままビクターへと近づき、跪いた。
「……何があった?」
「魔力通しを行った所、カーシュ殿下には魔法使いの才能がない事が判明致しました…! 申し訳ありません、王の期待に沿えず…」
申し訳なさでいっぱいの様な顔をしている。
「申し訳ありません…」
"魔法使いの才能がない"…魔法師団副団長のアルドが言うのだ。それは本当の事なのだろう。
「別に謝る事はない。魔法使いにしたくて私がお前に頼んだ訳ではないしな」
そう言うと、ビクターは2つのカップに紅茶を入れ、アルドへ差し出す。
「…いただきます」
「あぁ、座ってくれ」
2人はソファに対面に座ると、静かに紅茶を啜った。
「美味しいです」
「それは良かった」
アルドが落ち着きを取り戻した所で、ビクターは口を開く。
「別に私はカーシュに魔法使いの才能がなかったとしても問題ない」
「で、ですが…魔法使いにしたくて私に頼んだのでは…」
「カーシュが魔法の教師をつけて欲しいと言ったからお前を付けただけの事。多くは望まんよ」
魔法使いは男の中でもなれない者はいる。
10人に1人は出来ないと言われており、結構な確率だ。
「…そう言って頂けるとありがたいです」
「才能など、アルドがどうにか出来る物でもあるまい」
2人は笑い合い、また紅茶で喉を潤す。
「して、アルドよ」
「はい、何でしょうか」
「その魔力通しと言うのは何であったか…私も昔にやった事はあったのだが…」
ビクターもカーシュと同じ魔法使いの才能がなかったものだった。
「魔力通しは、その者に簡単に魔素の存在を教える事が出来るものです。教える事で自身の中の魔素を理解し、魔法として行使する事が出来る。そう言うものですが…カーシュ殿下には魔素器官がないのか、私が魔力をカーシュ殿下に渡した所、返ってこなかったのです」
「返ってこなかった?」
「はい。本来なら魔素器官に魔力が溜まり、それが溢れて私に返ってくる筈なのですが…」
「ふむ…それは確かなのか?」
魔素器官は男なら誰にでもある物。
ビクターでさえ、魔素器官は存在するが、それが小さいというだけ。
「はい…10歳程になれば自然と魔素を取り込む様になるので…それまではハッキリと言えませんが…」
(魔素器官が存在しない、か…)
ビクターは小さく息を吐き、微笑んだ。
「だからと言って私達の息子には変わりない、か」
「…王よ」
それにアルドは、眉を八の字にしてビクターを見つめた。
「…よし! いつまでもこれだと家臣にも愛想を尽かされてしまうな」
その視線に気づき、勢いよく立ち上がると、ビクターは力こぶを作って元気な姿をアルドに見せる。
「それで1つご提案なのですが…」
「ん? 何だ?」
「私の様な魔法師団の者ではなく、騎士団の者にカーシュ殿下のご指導をされたらどうでしょうか?」
「…ほう? 確かに…魔素器官がない者は身体能力の振れ幅が大きいと言うしな。よし、時が来たらカーシュを騎士団の方に預けてみるか」
ビクターは頷きながら、またカップに紅茶を淹れるのであった。
中はスッキリとしており、必要なものしか置いていない。
窓際にはビクターの執務机と椅子、中央には少し高級感があるテーブルにソファが2つ、壁際にはティーカップ等が置かれていた。
応接室から移動したビクターは、息子の成長ぶりの感動を落ち着かせる為、紅茶を飲もうとしていた。
トントントンッ
「む、入れ」
しかし、そこで扉が突然ノックされ、ビクターは訝しげな視線を扉に向けながらそれを許可する。
(こんな良い気持ちの時に…何の用だ?)
そう思っていると、入って来たのは汗だくのアルドだった。
「失礼します」
「何だアルドか。もう指導は終わったのか?」
そう問い掛けると、アルドは顔を伏せたままビクターへと近づき、跪いた。
「……何があった?」
「魔力通しを行った所、カーシュ殿下には魔法使いの才能がない事が判明致しました…! 申し訳ありません、王の期待に沿えず…」
申し訳なさでいっぱいの様な顔をしている。
「申し訳ありません…」
"魔法使いの才能がない"…魔法師団副団長のアルドが言うのだ。それは本当の事なのだろう。
「別に謝る事はない。魔法使いにしたくて私がお前に頼んだ訳ではないしな」
そう言うと、ビクターは2つのカップに紅茶を入れ、アルドへ差し出す。
「…いただきます」
「あぁ、座ってくれ」
2人はソファに対面に座ると、静かに紅茶を啜った。
「美味しいです」
「それは良かった」
アルドが落ち着きを取り戻した所で、ビクターは口を開く。
「別に私はカーシュに魔法使いの才能がなかったとしても問題ない」
「で、ですが…魔法使いにしたくて私に頼んだのでは…」
「カーシュが魔法の教師をつけて欲しいと言ったからお前を付けただけの事。多くは望まんよ」
魔法使いは男の中でもなれない者はいる。
10人に1人は出来ないと言われており、結構な確率だ。
「…そう言って頂けるとありがたいです」
「才能など、アルドがどうにか出来る物でもあるまい」
2人は笑い合い、また紅茶で喉を潤す。
「して、アルドよ」
「はい、何でしょうか」
「その魔力通しと言うのは何であったか…私も昔にやった事はあったのだが…」
ビクターもカーシュと同じ魔法使いの才能がなかったものだった。
「魔力通しは、その者に簡単に魔素の存在を教える事が出来るものです。教える事で自身の中の魔素を理解し、魔法として行使する事が出来る。そう言うものですが…カーシュ殿下には魔素器官がないのか、私が魔力をカーシュ殿下に渡した所、返ってこなかったのです」
「返ってこなかった?」
「はい。本来なら魔素器官に魔力が溜まり、それが溢れて私に返ってくる筈なのですが…」
「ふむ…それは確かなのか?」
魔素器官は男なら誰にでもある物。
ビクターでさえ、魔素器官は存在するが、それが小さいというだけ。
「はい…10歳程になれば自然と魔素を取り込む様になるので…それまではハッキリと言えませんが…」
(魔素器官が存在しない、か…)
ビクターは小さく息を吐き、微笑んだ。
「だからと言って私達の息子には変わりない、か」
「…王よ」
それにアルドは、眉を八の字にしてビクターを見つめた。
「…よし! いつまでもこれだと家臣にも愛想を尽かされてしまうな」
その視線に気づき、勢いよく立ち上がると、ビクターは力こぶを作って元気な姿をアルドに見せる。
「それで1つご提案なのですが…」
「ん? 何だ?」
「私の様な魔法師団の者ではなく、騎士団の者にカーシュ殿下のご指導をされたらどうでしょうか?」
「…ほう? 確かに…魔素器官がない者は身体能力の振れ幅が大きいと言うしな。よし、時が来たらカーシュを騎士団の方に預けてみるか」
ビクターは頷きながら、またカップに紅茶を淹れるのであった。
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