Koruseit world online〜魔力特化した私は体力10しかありません。なので幻術使ってどうにかしたいと思います〜

ゆうらしあ

文字の大きさ
上 下
34 / 57
第2章.幻想

32.情報

しおりを挟む
『で、どうなの? いい感じなの?』

 電話の向こうの弘子は声色だけでもわかるぐらいノリノリだ。涼香はため息混じりに言葉を返す。

「いや、だからさ……友達だって言ってんじゃん」

 何回言わせれば気がすむのだろうか。
 一昨日はメールで、昨日は会って直接、そして今電話で確認を取られている。お見合いおばさんのしつこい勧誘を受けているようで涼香は額に手を当ててもう一度大きく息を吐く。

『だって、こんなに会うなんて今までないでしょ?』

「それは──なんでもない」

 弘子には言えない。お互い自分に振り向かないだろうと分かっているから一緒にいられる……だなんて。

『とにかく、すぐに言いなさいよ。ね?』

 弘子は母親のようだ。適当に相槌を打ち電話を切る。

 ベッドに横になると大輝の切なそうな顔を思い出した

 大輝くんは……どんな人を愛したんだろう……。

 涼香は少し過去の女性が気になった。あの大輝の想い人だ、きっと見た目も心もきれいで素敵な人なんだろう。

 でも、振られちゃったんだよな……。

 詳しくは聞けない。だって、自分だってまだ軽く人に言えない。

 涼香は携帯電話を手に取ると大輝にメールを送る。

──明日仕事終わりに飲み行かない?

 すぐに返信が来た。

──了解。どこ行く?

──大輝くんが言ってた韓国料理の店はどう?

──OK。また連絡する


 短いやり取りを終え携帯電話を置く。そのまま涼香は眠りについた。




 その店は平日にもかかわらず大盛況だった。韓国人の店主が作るチゲ鍋や、海鮮チヂミが絶品らしい。二人掛けの狭い席に座ると慣れたように大輝が注文していく。

「やっぱ混んでたか……荷物、下に置いて」

「あぁ、ありがとう」

 二人は互いにビールを傾けた。

「お疲れさん」
「お疲れ!」

 ぐいっと飲むと一気に背筋が伸びた気がする。一日の終わりを感じてしまう。
 運ばれてきた料理はどれも最高に美味しかった。辛いのに旨味があってすっかり気に入ってしまった。上機嫌で頬張っていると大輝が涼香の顔をじっと見つめていた。

「うん?」

「……美味しそうに食べるよな……いや、美味しいけど」

 そういうとチヂミを飲み込んですぐの私の口元に次のチヂミを差し出す。一瞬躊躇うもそのまま凄い勢いでかぶりつくと大輝が満面の笑みでそれを見ている。
 まるで餌付けだ。

 少し恥ずかしくて顔が熱くなるが、大輝はお構いなしなようだ。誤魔化すようにビールも飲んでいると、横を通りかかった人影が立ち止まる。

「……涼香?」

「え……あ──武、人」

 そこには二年前よりも髪が短くなり爽やかな香りを伴った元彼の林 武人はやし たけとが涼香を見下ろしていた。

 大輝は二人の様子からなんとなく察しがついたのか気まずそうに横を向きビールを飲む。

「元気、そうだな……」

「あ、武人も……」

「彼氏?」

武人が大輝の方を一瞬見る。大輝はニコッと微笑んでいる。

「俺は涼香ちゃんの友達ですよ」

「あ……そうなんですね」

 武人はなぜか表情を緩める。彼氏か彼氏じゃないかを気にする立場にもないはずだが、明らかに大輝を見る目が優しくなったのに気付く。

 奥の席で武人を呼ぶ声が聞こえると慌ててポケットからボールペンを出しそこにあった紙ナプキンに電話番号を記入する。

「ごめん、よかったら連絡して? じゃ──」

 そのまま幻のように武人が店の奥へと消えた……。

 なんだったんだ、今のは。

 机に置かれた見慣れたはずの武人の字が別人のように見える。

「……よかったじゃん、今の人、二年前の人でしょ? やり直したい感じ出してたけど。俺の事も気になってたみたいだし」

「え? あ……いや、そうだけど。違うよ、だって……私捨てられ──」

「ずっと忘れられなかったんだろ? 素直になれって……チャンスだろ?」

 大輝の顔は真剣そのものだった。やり直せばいい──そう言ってるようだ。

「……まだいいよ──会えたら……」

「え?」

 大輝がまたあの時みたいに俯いて遠い目をしている。

「涼香ちゃんは、こうしてまだ会える。憎んでいても、愛していても……俺は違う」

 心臓が痛くなる。
 大輝の心が痛みで悲鳴を上げているのが聞こえる。まさか、まさか──。

「俺の彼女はもう、この世にいない──会いたくても、会えない。嫌いにもなれない──忘れられない」

 大輝の顔が苦しげに歪むのを見て私の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。泣くつもりなんてなかった。きっとこれは大輝の涙だ。

 どうして彼が私と同じだと似ていると思ったのだろう。愛している人の死を体験し、愛する気持ちをぶつける矛先を失った彼の心は、私の悲しみを優に超えている。

 彼の心は深く深く、囚われたままだ──。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

とある会社の秘密の研修

廣瀬純一
SF
男女の性別を入れ替えて研修を行う会社の話

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...