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第5章 なんでもない!
第49話 2人の後夜祭
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「悪い事をしたと思っています。本当です」
「本当に悪い事をしたと思っていますか? 誠意が感じられないんですけど?」
美術室の床は今の季節と比べると冷たく、冷や汗をかいていた俺の膝とおでこが更に冷えていくのが分かる今日この頃。
何故俺が美術室に居たのか、それは数分前に遡るのだが簡単な話。
葵達がジュースを買っている間に、俺が美術室へ来て鉢合わせた。俺は部外者だから通報されるのもマズイと隠れる、出るタイミングを失う……それでこの惨状である。
「お、お前…これ以上俺に何を求めるんだよ?」
「………骨」
「待って!! 待って待って!! 今何やら不安な単語が聞こえたんですが!?」
俺が悲鳴の様な反論をすると、葵は大きく溜息をついて椅子へと座った。
「…来てたんですね?」
葵が穏やかに眉を八の字に変えてるのを見ると、どうやら許して貰った様である。
俺は立ち上がると、葵の近くの椅子へと座った。
「1度来ておいた方が良いかなって思ってな」
「…随分急ですね?」
「まぁ…その、色々思う所があって……その、何だ……」
あぁ…なんて言えば良いんだ?
来たは良いものの、何を話したら良いのか分からない。考えてなかったというのが正しいが…
「文化祭、どうだった?」
俺が普通な質問を投げ掛けると、葵は少しジッと俺の顔を見た後に虚空を見上げ、目を閉じながら答えた。
「楽しかったですよ? 色々な事はありましたけど充実してました」
「充実、か?」
「……はい。まだ一年生の内でこんな経験が出来たのは良かったと思います。将来何をするにしても」
「へぇ……」
凄い。
俺は率直にそう思った。あの時の俺はそんな感想が持てた覚えがない。それなのに葵は……
「次は私の質問です。何で貴方はあの時、断固して文化祭に来なかったんですか?」
葵は世理に向き直り、問い掛ける。
「……もうこれ以上、葵達の文化祭に参加するのは良くないと思ったからだ」
「何でですか?」
「……今の文化祭は葵達がやるべきだ。俺が入っていい訳じゃない。神輿でも手を出し過ぎた。だからもうこれ以上は居られない。そう思ったんだ」
言った。言ってしまった。
これを聞いて、葵はどんな事を思うだろうか。最初は正しい事だと思っていたのに、今となっては馬鹿の様に思える。
葵は、俺の言葉を飲み込んだかの様に深く、深く間をおいて言った。
「そうですか」
一言。
それに俺は思わず目を見開いて葵を見た。
「何ですか?」
「いや…それだけか?」
それが俺の今の疑問だった。
俺はてっきり馬鹿にされるものだと思っていた。愚かな質問だ、とかそう言うのを言われるものだと思っていた。
それなのにーー
「どう言う意味の問いか分かりませんが……人の性格は十人十色。その人によって気になる事は違いますし、悩む事も十人十色だと私は思っています。別になんでそんな事でとかは思ったりしませんよ」
葵は哀愁漂わせながら笑った。
俺は、葵はまだ高校生なんだから自然と子供だと思い込んでいた。俺が高校生の時なんて自分の事ばかりで、他の人を思いやる気持ちなんて全然なかったから。
でも違った。
葵は、人を思いやる気持ちを持っている。
俺とは違ったって事。
「はは…」
「…………私…昔から人と仲良くするの怖いんです」
俺が自虐気味に笑っていると、突然葵が口に出す。
「…怖い?」
「はい。仲良くなる事自体が怖い訳じゃありません………出会いもあれば別れも来ます。仲良く笑い合う事もありますけど、相手を傷つけてしまう事もあります。私にとって仲良くなるのは、それなりに覚悟がいる事なんです」
そう言う葵は、俺にとってとても子供じみている様に見えた。小さな子供が、涙目で訴えかけているかの様な……
ポン ポン
「え……」
世理は、優しく、赤ん坊の頭を撫でるかの様に葵の頭を撫でた。
それに葵は、目を見開いて世理を見上げた。
「あ…わ、悪い!」
世理は葵の頭から素早く手を離し、飛び退いた。
「い、いえ…」
気まずい、だが、少し心地良い様な空気が辺りに満ち、静寂が続く。
自分の顔が熱くなっているのを感じて、自然と言葉が詰まる。
そんな中ーー
ヒューッ パンッ
と、美術室の目の前で火の花が咲いた。
「あ…お、終わりみたいですね」
後夜祭の終わりの花火が打ち上げられ、葵は立ち上がる。
「ん、あぁ……行くか?」
「…はい」
世理の問い掛けに小さく頷き、葵は後を追う様に、美術室を出る。
決して、人は相手の感情を正確に読み解く事は出来ない。
それはーー
(あ、あれ? 私なんで…)
(何で俺…)
自分の心も同じ。
「本当に悪い事をしたと思っていますか? 誠意が感じられないんですけど?」
美術室の床は今の季節と比べると冷たく、冷や汗をかいていた俺の膝とおでこが更に冷えていくのが分かる今日この頃。
何故俺が美術室に居たのか、それは数分前に遡るのだが簡単な話。
葵達がジュースを買っている間に、俺が美術室へ来て鉢合わせた。俺は部外者だから通報されるのもマズイと隠れる、出るタイミングを失う……それでこの惨状である。
「お、お前…これ以上俺に何を求めるんだよ?」
「………骨」
「待って!! 待って待って!! 今何やら不安な単語が聞こえたんですが!?」
俺が悲鳴の様な反論をすると、葵は大きく溜息をついて椅子へと座った。
「…来てたんですね?」
葵が穏やかに眉を八の字に変えてるのを見ると、どうやら許して貰った様である。
俺は立ち上がると、葵の近くの椅子へと座った。
「1度来ておいた方が良いかなって思ってな」
「…随分急ですね?」
「まぁ…その、色々思う所があって……その、何だ……」
あぁ…なんて言えば良いんだ?
来たは良いものの、何を話したら良いのか分からない。考えてなかったというのが正しいが…
「文化祭、どうだった?」
俺が普通な質問を投げ掛けると、葵は少しジッと俺の顔を見た後に虚空を見上げ、目を閉じながら答えた。
「楽しかったですよ? 色々な事はありましたけど充実してました」
「充実、か?」
「……はい。まだ一年生の内でこんな経験が出来たのは良かったと思います。将来何をするにしても」
「へぇ……」
凄い。
俺は率直にそう思った。あの時の俺はそんな感想が持てた覚えがない。それなのに葵は……
「次は私の質問です。何で貴方はあの時、断固して文化祭に来なかったんですか?」
葵は世理に向き直り、問い掛ける。
「……もうこれ以上、葵達の文化祭に参加するのは良くないと思ったからだ」
「何でですか?」
「……今の文化祭は葵達がやるべきだ。俺が入っていい訳じゃない。神輿でも手を出し過ぎた。だからもうこれ以上は居られない。そう思ったんだ」
言った。言ってしまった。
これを聞いて、葵はどんな事を思うだろうか。最初は正しい事だと思っていたのに、今となっては馬鹿の様に思える。
葵は、俺の言葉を飲み込んだかの様に深く、深く間をおいて言った。
「そうですか」
一言。
それに俺は思わず目を見開いて葵を見た。
「何ですか?」
「いや…それだけか?」
それが俺の今の疑問だった。
俺はてっきり馬鹿にされるものだと思っていた。愚かな質問だ、とかそう言うのを言われるものだと思っていた。
それなのにーー
「どう言う意味の問いか分かりませんが……人の性格は十人十色。その人によって気になる事は違いますし、悩む事も十人十色だと私は思っています。別になんでそんな事でとかは思ったりしませんよ」
葵は哀愁漂わせながら笑った。
俺は、葵はまだ高校生なんだから自然と子供だと思い込んでいた。俺が高校生の時なんて自分の事ばかりで、他の人を思いやる気持ちなんて全然なかったから。
でも違った。
葵は、人を思いやる気持ちを持っている。
俺とは違ったって事。
「はは…」
「…………私…昔から人と仲良くするの怖いんです」
俺が自虐気味に笑っていると、突然葵が口に出す。
「…怖い?」
「はい。仲良くなる事自体が怖い訳じゃありません………出会いもあれば別れも来ます。仲良く笑い合う事もありますけど、相手を傷つけてしまう事もあります。私にとって仲良くなるのは、それなりに覚悟がいる事なんです」
そう言う葵は、俺にとってとても子供じみている様に見えた。小さな子供が、涙目で訴えかけているかの様な……
ポン ポン
「え……」
世理は、優しく、赤ん坊の頭を撫でるかの様に葵の頭を撫でた。
それに葵は、目を見開いて世理を見上げた。
「あ…わ、悪い!」
世理は葵の頭から素早く手を離し、飛び退いた。
「い、いえ…」
気まずい、だが、少し心地良い様な空気が辺りに満ち、静寂が続く。
自分の顔が熱くなっているのを感じて、自然と言葉が詰まる。
そんな中ーー
ヒューッ パンッ
と、美術室の目の前で火の花が咲いた。
「あ…お、終わりみたいですね」
後夜祭の終わりの花火が打ち上げられ、葵は立ち上がる。
「ん、あぁ……行くか?」
「…はい」
世理の問い掛けに小さく頷き、葵は後を追う様に、美術室を出る。
決して、人は相手の感情を正確に読み解く事は出来ない。
それはーー
(あ、あれ? 私なんで…)
(何で俺…)
自分の心も同じ。
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