久々に実家に帰ったら、俺にはライオンの様に凶暴な義妹が出来ていました。父「ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^」俺「◯ね」

ゆうらしあ

文字の大きさ
39 / 49
第4章 …ありがとう

第39話 家族、そして感謝

しおりを挟む
「あ、兄、だと…?」
「あぁ」

 最近まで俺は気遣い過ぎていた、葵にそう言われたんだ。これぐらい言っても許される…筈だ。

「…」

 葵も此方を見ているだけだ。怒っている様子はない。

「お、お前が兄な訳ないだろ!! 何で神原さんみたいな人の兄が! お前みたいな奴なんだ!!」
「そうは言われてもな…」

 まぁ、血は繋がっていないが、そこまで言うのは俺じゃない気がする。そう言う複雑な家庭環境はクラスメイトである葵が言うべきだ。

 俺がそれに困っているとーー。

「確かに…神原さんのお兄さんにしてはあまり似てないかも…」
「しかもあの寝癖…ヤバッ」

 周囲の者からそんな小声が聞こえてくる。

「ほ、ほら! 皆んなもそう思うよな!」

 それに高波くんも声高らかに叫ぶ。

 確かに。俺と比べるなんて烏滸がましい程に葵は美人だ。そう思われても仕方ないだろう。
 これ以上此処にいても葵の迷惑になるだけだな。早々に退散しよう。

 そう思った時だった。



「それ以上、この人を悪く言うのはやめて下さい」


 俺の後方、毎日聞く何処か凛とした声音。

「この人は…誰にどう言われようと私の家族です。貴方にどうこう言われる筋合いはない筈です」
「か、神原さん?」

 葵はそう言うと、高波君に近づき言った。

「それに…最近私に付き纏って気持ち悪いんでやめて貰って良いですか?」
「おいおいおい……」

 その言葉に俺は思わず口に出し、手を伸ばす。しかし、それに反応した葵が凄い眼光で睨んできて俺は手を引っ込めた。


「…」
「…フラれた」

 友達の言葉、そして葵の突き放した様な口調、皆んなからの痛い視線に高波君はーー。

「っ!! っ!!!?!」


 ダッ タッタッタッタッタッ


 何も言葉を発する事なく教室から出て行った。

 流石に可哀想な気もする…だが、これも経験か。嫌な事を経験して人は成長していくものだぞ。

 俺は去ってた高波君に親指を立てると、眉を吊り上げた葵に引っ張られ教室の外へと出て行くのだった。

 *****

「…お弁当を忘れた私も悪かったですけど……何か弁解はありますか?」
「あ、あれ? …怒ってなかったんじゃないのか?」
「な、何で私も……と言うか世理の妹がまさか葵だったとは…」

 そこは少し埃の被った空き教室。
 そこで俺は椿先生と共に、葵に正座をさせられていた。

「怒ってはないですが…反省はして欲しいです。と言うか、もっと他に渡し方があったと思うんですけど」

 いや…ごもっとも。

「先生は葵と何かあったんですか? まさか先生が素直にこっちに来るとは思ってませんでしたよ?」
「…実は少しな」

 どうやら葵は先生の弱みを握ってるらしい。
 この先生の弱みを握っているのは、とても凄い事だと言って良い。

「先生は何でこの人に制服を着せたんですか? 私の名前を聞いて先生が持って来ても良かったですよね?」
「う、ま、まぁ…」

 これは……亀がウサギに駆けっこで勝つぐらい凄い事だ。

「面白いと思ってやったんですよね? どうせ。これは報告させて頂きますからね」
「ま、待ってくれ!! 慈悲はないのか!?」
「ないです」

 おぉ…まさかこんなに早く天罰が降るとは。神様、葵様、ありがとう。

「そして……貴方」
「は、はいぃ!」
「何でそんな怯えてるんですか…」

 い、いや、だって正座させられてるんだぞ? しかも椿先生でさえも。怖くない訳がない。

「ーーーーう」
「…ん? 何だ? 何か言ったか?」

 俺が心の中で震えていると、葵が小さな声で何か呟いたのに気づく。

 聞くと、葵は顔を顰め、そっぽを向きながら言った。


「だから……ありがとう。お弁当持ってきてくれて」

 それは、感謝の言葉だった。
 前なら絶対言わないであろう言葉。拳が出てもおかしくはなかった場面だ。

 それなのにーー。

「…あぁ、どういたしまして」

 俺は自然と頬を緩ませる。

 やはり少しづつでも家族に近づいてきていると言う事なのだろうか。

 …嬉しいな。



「…それでは貴方はサッサっと帰って下さい。私はこの人とまだお話があるので」

 それから数秒後。葵は視線で、椿先生を制して告げる。

「いやぁ、これは中々面白いものが見れたなぁ…」
「この場面でよくそんな事言えますね…まだ先生正座中ですよ?」
「ふっ、これでへこたれていたら教育者、もとい美術の先生なんてやっていけないさ」

 この図太さ…芸術家ならではなのだろうか。

「へぇ、先生…よくそんな事が言えましたね? まだ余裕がある様で何よりです」
「え、いや、そう言うわけでは

 だけど、その図太さが逆にダメな時もあるよな。

 俺はいち早く空き教室から出ると、背後から聞こえてくる断末魔の様な悲鳴を聞きながら椿先生の無事を祈るのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...