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第4章 …ありがとう
第32話 那由さんと(過去)
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「ん? どうした那由…って世理じゃないか。こんな所で何してる?」
「た、田中先生…実は俺忘れ物しちゃって…」
この時はまだ那由さんも、椿先生も苗字で言っていた筈だ。まだそこまで2人とも深く関わっていなかったから。
「……」
「うっ…」
その時の那由さんは眉間に皺が寄っててとても苦しそうな表情をしていたのを覚えている。
印象的な出会いというのはよく心に残ってる物だ。
あの時の那由さん、怖かったなぁ。
「ん、そうだ那由。お前手始めに世理と話してみろ」
え、はい?
「……何でこんな人と」
「そんな事言うな。お互い良い刺激になると思うぞ?」
こんな人って…というか、お互い? 何を言ってるんだ?
「まぁ、しばらく話してみてみろよ? じゃあ」
田中先生はそう言うと、手を挙げて美術室から出て行った。
残されたのは俺と高橋さんだけ。
「「…」」
…気まずい。
これはアレだ。
話す機会はあったけど、話さずにしばらく経ってしまって、話そうにも話せないでいる状態だ。
「ねぇ、聞いてる?」
「は、はい!?」
すぐ近くで話され、反射的に身を引く。
「名前を聞いてるんだけど…」
「あ、名前…神原世理です。よろしくお願いします」
何だ…名前か。凄く近くで話されてびっくりした。
「顔赤らめてんの…キモッ…」
高橋さんから聞こえてくる小声が心に来るが、俺は平静を装って話す事にした。
「髪ボサボサのド陰キャの人に、そんな事言われるとは思いもしませんでしたよ。コミ症が調子に乗んな」
ーーそう。話そうとはしたんだ。だけどこの時は、父さんの仕事がまだ上手く行って無かった為に俺は少しイライラしてたのかもしれない。
「何を…!!」
「あ、すみません。俺早く帰らないと行けないんで失礼します」
怒る那由さんを尻目に、この時俺は逃げる様に家へと帰った。だってそうだろう。あの時の怒った那由さん…めっちゃ怖かったんだから。
これが俺と那由さんの最悪な出会い、初めての会話だった。
「入りずら…」
そして次の日の放課後、部活の時間に俺は美術室の前で足を止めていた。
高橋さんは一番乗りで美術室に居る事が多い。美術室から1番近い俺の教室からでもだ。だから俺と高橋さんは2人きりになる事が何故か多い。
でも此処に居てもしょうがないし、入るか。
俺が意を決して入る、その時だった。
「ちょっと良い?」
「っ! あ……はい」
後ろから1番聞きたく無い声が聞こえ、俺は息を呑んだ後、嫌々返事を返した。
今日は俺の方が先だったか…。
そんな事を思いながら、俺は高橋さんの後を追った。
「今から2人で出掛けるから、ちゃんと荷物持って」
「え? 部活は行かないんですか?」
昇降口、そこで俺は高橋さんに聞いた。
「私が鍵を取りに行ったら椿先生に買い物して来いって言われたから。しかも貴方と一緒に」
な、なるほど。高橋さんが何で1番最初に居るつて鍵を取りに行くのが高橋さんの役割なのか? それで今日は田中先生に、買い物を頼まれたと。美術部には何かと物が必要だからね。
うん。それで何で俺も?
しかもーー
「此処って…◯タヤですよね?」
「何? 文句ある?」
俺達は物を持って、すぐ近くのツタ◯に来ていた。
「いや…ないです」
俺に反論する勇気はこの時なかった。昨日あんな事を言ってしまった手前、変に言い返すと、また喧嘩になってしまうと考えたからだ。
「そう」
高橋さんはそう言うと、奥へと進んで行く。
此処には文房具と本ぐらいしか無いけど…何を買うんだ?
そう思っていると、高橋さんはある所で足を止めた。
そこはーーー
「この漫画、今日が新刊の発売日だったの。人気の作品だから早めに来ないと発売日は売り切れてしまって…」
高橋さんは少女漫画を手に取っていた。
「何か部の物を買うんじゃなかったんですか?」
「え? 違うわよ? 今日は貴方と買い物に行けって言われたの。それだけ」
え…そうなのか? てかこれは所謂デート…ってやつなのでは?
そう思っていると、また自然と顔が熱くなるのを感じて、俺は頭を振った。
「良かった、今日は買えた…!」
高橋さんは嬉しそうに口角を上げる。
…まぁ、あっちはそうは思ってない様だし、これはただの買い物。ただそれだけだ。
「あれ? その本て…『貴方の花束は枯れる事を知らない』ですよね?」
「え!? 知ってるの!?」
「知ってます知ってます。確かそれって…」
「そう! これって…」
「内容が良いんですよね」
「絵柄が良いのよ!」
「「……え?」」
俺達の間に沈黙が訪れる。
「これは話し合いが必要ね…」
「え?」
そうして俺は高橋さん…いや、那由さんと仲を深めて行った。
「た、田中先生…実は俺忘れ物しちゃって…」
この時はまだ那由さんも、椿先生も苗字で言っていた筈だ。まだそこまで2人とも深く関わっていなかったから。
「……」
「うっ…」
その時の那由さんは眉間に皺が寄っててとても苦しそうな表情をしていたのを覚えている。
印象的な出会いというのはよく心に残ってる物だ。
あの時の那由さん、怖かったなぁ。
「ん、そうだ那由。お前手始めに世理と話してみろ」
え、はい?
「……何でこんな人と」
「そんな事言うな。お互い良い刺激になると思うぞ?」
こんな人って…というか、お互い? 何を言ってるんだ?
「まぁ、しばらく話してみてみろよ? じゃあ」
田中先生はそう言うと、手を挙げて美術室から出て行った。
残されたのは俺と高橋さんだけ。
「「…」」
…気まずい。
これはアレだ。
話す機会はあったけど、話さずにしばらく経ってしまって、話そうにも話せないでいる状態だ。
「ねぇ、聞いてる?」
「は、はい!?」
すぐ近くで話され、反射的に身を引く。
「名前を聞いてるんだけど…」
「あ、名前…神原世理です。よろしくお願いします」
何だ…名前か。凄く近くで話されてびっくりした。
「顔赤らめてんの…キモッ…」
高橋さんから聞こえてくる小声が心に来るが、俺は平静を装って話す事にした。
「髪ボサボサのド陰キャの人に、そんな事言われるとは思いもしませんでしたよ。コミ症が調子に乗んな」
ーーそう。話そうとはしたんだ。だけどこの時は、父さんの仕事がまだ上手く行って無かった為に俺は少しイライラしてたのかもしれない。
「何を…!!」
「あ、すみません。俺早く帰らないと行けないんで失礼します」
怒る那由さんを尻目に、この時俺は逃げる様に家へと帰った。だってそうだろう。あの時の怒った那由さん…めっちゃ怖かったんだから。
これが俺と那由さんの最悪な出会い、初めての会話だった。
「入りずら…」
そして次の日の放課後、部活の時間に俺は美術室の前で足を止めていた。
高橋さんは一番乗りで美術室に居る事が多い。美術室から1番近い俺の教室からでもだ。だから俺と高橋さんは2人きりになる事が何故か多い。
でも此処に居てもしょうがないし、入るか。
俺が意を決して入る、その時だった。
「ちょっと良い?」
「っ! あ……はい」
後ろから1番聞きたく無い声が聞こえ、俺は息を呑んだ後、嫌々返事を返した。
今日は俺の方が先だったか…。
そんな事を思いながら、俺は高橋さんの後を追った。
「今から2人で出掛けるから、ちゃんと荷物持って」
「え? 部活は行かないんですか?」
昇降口、そこで俺は高橋さんに聞いた。
「私が鍵を取りに行ったら椿先生に買い物して来いって言われたから。しかも貴方と一緒に」
な、なるほど。高橋さんが何で1番最初に居るつて鍵を取りに行くのが高橋さんの役割なのか? それで今日は田中先生に、買い物を頼まれたと。美術部には何かと物が必要だからね。
うん。それで何で俺も?
しかもーー
「此処って…◯タヤですよね?」
「何? 文句ある?」
俺達は物を持って、すぐ近くのツタ◯に来ていた。
「いや…ないです」
俺に反論する勇気はこの時なかった。昨日あんな事を言ってしまった手前、変に言い返すと、また喧嘩になってしまうと考えたからだ。
「そう」
高橋さんはそう言うと、奥へと進んで行く。
此処には文房具と本ぐらいしか無いけど…何を買うんだ?
そう思っていると、高橋さんはある所で足を止めた。
そこはーーー
「この漫画、今日が新刊の発売日だったの。人気の作品だから早めに来ないと発売日は売り切れてしまって…」
高橋さんは少女漫画を手に取っていた。
「何か部の物を買うんじゃなかったんですか?」
「え? 違うわよ? 今日は貴方と買い物に行けって言われたの。それだけ」
え…そうなのか? てかこれは所謂デート…ってやつなのでは?
そう思っていると、また自然と顔が熱くなるのを感じて、俺は頭を振った。
「良かった、今日は買えた…!」
高橋さんは嬉しそうに口角を上げる。
…まぁ、あっちはそうは思ってない様だし、これはただの買い物。ただそれだけだ。
「あれ? その本て…『貴方の花束は枯れる事を知らない』ですよね?」
「え!? 知ってるの!?」
「知ってます知ってます。確かそれって…」
「そう! これって…」
「内容が良いんですよね」
「絵柄が良いのよ!」
「「……え?」」
俺達の間に沈黙が訪れる。
「これは話し合いが必要ね…」
「え?」
そうして俺は高橋さん…いや、那由さんと仲を深めて行った。
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