久々に実家に帰ったら、俺にはライオンの様に凶暴な義妹が出来ていました。父「ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^」俺「◯ね」

ゆうらしあ

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第1章 最低です

第1話 帰国

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 季節は春から夏へ変わる、6月下旬。

 ジリジリとした太陽の光が降り注ぐ今日。

「日本ってこんなに暑かったっけ…」

 俺、神原《かんばら》 世理《より》は日本へと降り立っていた。

 日本には約2年ぶりの帰国である。大学に入ってからは制作課題や何やらでロンドンから離れる事はできなかったが、今年は違う…ちゃんと地道に課題を進めた。

 折角頑張ったんだ、ゆっくりしよう。

 世理は落ち着いた様子で、空港の前から歩き出した。



「ふぅ…久々の我が家だな」

 空港からタクシーで1時間弱。世理は都心でも裕福な者が住む区画へ来ていた。

 俺の親父は有名な画家で、個展や展覧会を何度も開いている。大体開けば1日で5000人は固いらしい。

 中々の大物だ。

 そのお陰もあって親父は、この良い所に1人で住んでいる。

 一昨年までは一緒に暮らしていた事が、とても懐かしく感じるな。

 世理はしみじみしながら玄関の扉に鍵を差し込んだ。

 ガチャ

「ただいまー」

 …

 俺の声だけが響き渡り、何の返事もない。

 居ないのか、珍しい。親父ならいつも部屋で絵描いてると思ったんだが…。

 世理は靴を脱いで、家へと入る。持ってきたキャリーバッグは持ってたウェットティッシュでタイヤを拭いた後、家へと上げる。

 まぁ、帰ってくる事何も親父に伝えてないから居なくてもしょうがないか。

 世理は2階にある自分の部屋へと向かう。

「おー、変わってない」

 部屋の広さは10畳。高校の時と変わらずに物が設置されていた。窓際にはブルーのセミダブルのベッド。その横には沢山の漫画やラノベが詰まった本棚。真ん中に置かれたガラス張りのテーブル。その下には長方形の黒いラグが置いてある。勿論、その脇には2人ぐらい座れるグレーのソファ。

 部屋の雰囲気は、中学生の時にごちゃ混ぜスタイルからモダンスタイルに仕上げた。懐かしい。

 世理は隅にキャリーバッグを置くと、ベッドに寝転がる。

「ふぅー…」

 落ち着くな…場所が変わるだけでこんなに気持ちが変わるんだな。

 ロンドンにいた時は周りに負けない様、ずっと焦っていた…。

 あそこは最高の環境と同時に最悪な環境でもある所だ。授業のレベルはとんでもなく高い。だがそれと同時に努力を怠った瞬間、置いて行かれる。食べ物も、慣れない海外の料理で落ち着かなかった。

 まぁ、選んだのは俺だし。昔の俺と比べたら、とても成長できた。後悔はない。

 ただゆっくりは出来なかった。それだけだ。

 世理は天井にあるシミを数えるが如く、呆ける。


 ……久々にこんなゆっくりしてるけど、ボーッとしてるのも暇なもんだな。

 無性に何かやる事はないかと世理は、下へと降りて行く。

 そしてリビングの扉を開ける。

「ここは…少し変わったか?」

 周りを見渡すと、前までは親父が無駄な物は置きたくないと、必要最低限な物しか置いてなかった殺風景な部屋が、観葉植物、ぬいぐるみ等が置かれたりと、何というか華やかさが増えていた。

 親父もこの2年で変わったって事か。

 1人でそう納得すると、俺はキッチンへと足を向ける。

 キッチンもリビングと同じで、何か全部とまでは行かないが、ピンクい。

 ……親父、そっちの趣味に走ってんのかな。自分の親ながら変な人だとは思ってたけど…ここまでとは。

 少し絶望しながら、冷蔵庫を開く。中には俺が昔冷蔵庫の中に常備させていた物が揃っていた。

 食料はちゃんと買ってあるな………はっ!!

 食料を見て俺はある名案を思いつく。

 親父が帰ってくるまでに飯でも作ってやるか?  1人の息子がサプライズで帰ってきて、料理を作って待ってたら最高だろ!

 幸いまだ時間は5時。2時間もあれば相応の物が作れるだろ。

 世理は冷蔵庫を開きながら、あれよこれよと食料を出して行く。

 これと、これ。あとこれもだな。

「…よしっ! じゃあ早速取り掛かりますか!」

 タンタンと包丁から小気味いい音を鳴らし、野菜を切って行く。

 ふふっ、親父の目が丸くなるのが目に浮かぶな。

 世理は少し恥ずかしげにニヤけながら、調理を進めて行く。

 しかし、この時の世理は知らなかった。



 親父の目が丸くなるのではなく、それを通り超え、目が飛び出るぐらいに驚くのが自分だと言う事に。



「おっ、もう7時か。そろそろ来るな」

 そう思った世理は調理した物を、ドンドンと皿へと乗せて行く。

「俺の昔からの得意料理、カレーライスをここに召喚!! ハッハッハッハッハッハッ!!」

 俺は高笑いしながらも、サラダをテーブルの上に乗せる。

 この俺が作るカレーライスは俺の好物でありながら、親父の好物でもある。俺が作ったオリジナルのルーに、野菜をニンニクで炒め、それと一緒に肉をコトコト煮込んでいく。美味しくない訳がない。

「さっさと来いってんだよな~親父の奴。俺も腹減ったよ」

 そう思っていると、玄関の扉が開く音がした。

 お! 帰ってきたな!!

 世理は電気を消して息を殺し、気配をなるべく悟られない様にする。

 帰るって言うの面倒くさくて言わなかったけど…一応サプライズって事でいいよな? 明るく行くぞ…。

 リビングの扉の取っ手が下に沈み込む。

 今だ…!

 世理は大きく息を吸い込む。

 ガチャ パッ

 扉を開くと同時に、横にある電気をつける。

 そして…

「サプラーイ……ズ?」
「え?」

「え?」

 そこに居たのは親父ではなく、制服姿の女子高生。髪はショートカットに切り揃えられていて、身長は小さく、容姿も幼い。しかしスタイルは抜群で、出ている所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。そして目尻が下がっている事から、彼女からは物静かそうな雰囲気が醸し出されていた。

 まぁ端的に言うと…おっとり美人というやつだ。

 2人とも疑問の声をあげ、静止する。

 そして数秒後…動き出す。

「ど、ど、泥棒!!!」

 バキッ!!

「どぅるふっ!?!」

 俺の顔面にグーパンがこれ以上ない程に綺麗に決まり、口からは今まで出した事のない様な声が出てしまう。

 先に意識を取り戻したのは、俺の事を即座に泥棒と認識した女子高生の方だった。





 これは後に分かる事だが、この女子高生は親父の再婚相手の娘さんだった。

『ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^』

 親父からこんなメールが送られてきてて俺は、いつの間に再婚したんだよ! 言えよ!!

 そう思った。

 しかし、

 俺もそう言えば帰ってくるのを面倒くさがって言わなかった。

 だから色々考慮して、この一言だけ返してやった。

『◯ね』

 この親父あって、この俺ありだった。
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