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四方山日記
学校祭開催
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とうとう、学校祭がやってくる。
九月最後の週、一週間ぶっ通しで、執り行われる。その間、授業は休みだ。
学校祭の前日、日曜日ではあるが、特例で学校の使用許可が下りている。最後の仕上げとして、校内にいる生徒は少なくない。俺も高校生活初の日曜出勤を決め込んでいた。
校内の熱気は最高潮に達している。
「結局何部刷ったんだ?」
俺は部誌の入った箱を運んで、階段を上っている最中に、雄清に尋ねた。
「五十部だよ」
結果的に、俺たちは記事を全て期日までに間に合わせることができた。開催前日にしてようやく印刷作業が終了したのを受け取って、今部室に運んでいる次第である。
よっこらせ、と運んできた段ボールを部室の机の上に置き、俺は一息ついた。
「で、結局この部誌って題名なんて言うんだ?」
「おいおい太郎、冗談だろう?」
雄清は心底あきれた様子でそういった。
「いや、だって、編集やら校正やら印刷の申し込みやらは、全部佐藤と綿貫に任せきりだったから」
女子二人、特に佐藤の編集者としての能力は、目覚ましいものがあった。あいつの隠れた才能なのかもしれない。それですっかり俺は、佐藤達に後のことを任せていたのだ。
「まったく」
「俺はちゃんとやることやったぞ」
そう、お前の尻拭いとか尻拭いとか、他には尻拭いとか。拭きすぎて猿の尻みたくなりそう。
「開けてみてごらんよ」
口で言えばいいものを。まあいいさ。
俺は言われたとおりに、段ボールの箱を開けて、部誌の表紙を見てみる。
写実的ではないが、見ればすぐに、上手だと思わせる絵が描かれてあった。紅葉の木と背景に山の絵がある。誰が書いたのだろうか。佐藤だろうか。佐藤は絵がかなりうまかったが。
そして、凝った表紙絵とは、対照的にシンプルな字体で書かれた、俺たちの題名が目に入る。
俺は一人、微笑んだ。なるほどな。
あちこちの山の記事を書き、あらゆるところに顔を突っ込んで記事を書いた。
何十年前もの先輩が、どういう意図を込めてこの題名を書いたのかは分らないが、少なくとも俺たちがこの夏から初秋にかけて行ってきたことは、そのタイトルに則したものだ。
「四方山日記か」
学校祭のオープニングでは生徒会が作成した映画が流されることになった。
映画のエンディングで綿貫はきれいな着物を出てステージに登場し、山岳部の部誌のアピールをした。
雄清は、綿貫の着物姿のグラビア写真を付ければ、完売間違いない、と言ったが俺は反対した。いや、完売するには違いないのだが、我らの部長にそんな真似をさせるわけにはいかないだろう。俺が見る分には構わないが、ほかの奴らに見せるというのはどうも虫が好かん。……じゃなくて、俺たちの部長は見世物ではないのだ。
学校祭。それほど楽しみにしていたはずではなかったのだが、多かれ少なかれ、準備には時間を割いた俺であるので、多少は感慨深いものを覚えた。
とはいっても、ぽつぽつ人が来る山岳部の部室で、部誌を売っていただけなのだが。
けれども、綿貫がちょくちょく俺の事を見に来たので、悪くなかった。いや、かなり満足。文化祭楽しすぎ。
綿貫の宣伝のおかげか知らないが、部員と資料用に残す数部を除き、俺たちの制作した部誌は、文化祭の最終日までには全て、完売した。
体育祭後の後夜祭も終了し、学校祭は全日程を終了した。日が暮れてからの下校ということで、学校から、集団で帰るように、という連絡が生徒に伝えられた。男女で一緒に帰る、大義名分が与えられたわけだ。
雄清なんかは、粋な計らいをするねえ、と言っていたが、学校側の真意は知れない。学生の恋路に大人がおせっかいを焼こうとしているのだとしても、俺には関係ないが。
と思っていたのだが、
「深山さん、一緒に帰りませんか」
キャンプファイアーが消され、生徒もまばらに帰りだしたころに、綿貫に掴りそう言われた。
こいつも案外俗っぽいな、と思いながら、悪い気もしなかったので、了承した。まあ、お祭りなんだ。今日ぐらい。
学校から離れるにつれ、人気も少なくなり、騒がしい声も聞こえなくなった。宵も随分と深まり、ひんやりとした空気が、秋の訪れを感じさせる。
俺たちはほとんど喋らずに、道を歩いていた。それでも気まずくはなかった。心地よい静けさが穏やかな時間を演出する。幼馴染の隣にいる時のような、一種の安心感を感じていた。ただ隣を黙って歩いているだけで満足できた。りりりりり、と名もわからぬ秋の虫の音が、耳に心地よい。
ずっと追い求めていた、俺の安寧の高校生活が、穏やかに時が流れる幸福の時間が、実は、最大の阻害因子だと思っていた、このお嬢様によってもたらされているというのが、何だか可笑《おか》しかった。
最高の快楽に、浸っていたところ、綿貫が俺の名を呼んだ。
「深山さん」
何だ、と俺は答える。いつになく穏やかな返事をした。
「手を繋いでもいいですか?」
しばらく、また無音の時間が流れた。今度は先ほどと違って、気まずかった。明るいところだったならば、俺の顔が紅潮しているのがわかっただろう。そして、綿貫の顔も紅潮しているのが分かっただろう。
若干、間を置いてから、
「いいぞ」
と俺は答えた。
綿貫は躊躇いがちにこちらに手を伸ばし、まず指が触れ、恐る恐る俺の手を握った。
俺も握り返した。
白く小さく、ガラス細工のようだと思っていた、その儚くも美しい、綿貫の手はすべすべしていて、温かかった。
悪くないな。
穏やかな時間はより一層の幸福感を帯びた。
俺は今まで脳内麻薬と言うものが本当に存在するのか懐疑的であったが、どうやら確かに存在するらしい。
好きな女の、手を握っているだけで幸福になれるんだから、俺も俗っぽいな。
だけど、いいか。何せ今日は祭なんだから。
学校を出てからもう三十分は経過していた。学校の最寄りの駅までは、速足で行けば、十分ぐらいだが、どんなにゆっくり歩いても、三十分はかからない。実を言うと、綿貫が遠回りをしているらしいことには、だいぶ前に気付いていたのだが、俺は何も言わなかった。体感的には五分と経過していないような気がしていた。
それでも、どんなに遠回りしても、どんなにゆっくり歩いても、どんなに、この時が永遠に続けばいいと願っても、終わりはやってくる。
プラットフォームの明かりが見えてきた。
「深山さん、名残惜しいですけど、お別れです」
駅舎の前にきた綿貫がそういった。
「ああ」
「……私もそうしたくはないんですが、手を離してもらえますか?」
綿貫は恥ずかしそうにそういった。
離したら消えてなくなってしまうんじゃないかと、妙な考えに囚《とら》われた俺は、その感触が確かなものであると確かめるように、綿貫の手を強く握っていた。そんな俺を見てか、
「私はどこにも行きませんから。また月曜になったら部室で会えますよ」
と綿貫は言った。
俺がゆっくりと手の力を緩めると、綿貫もゆっくりと手を俺の掌《てのひら》から指の先まで滑らせるようにして離した。
「今日は駅まで送ってくださってありがとうございました」
そう言って、綿貫はぺこりと頭を下げる。
こういう時間を永遠に過ごしたかった。けれども、今の俺たちには叶わない願いだ。
綿貫は言うだろう。俺に前を見て歩けと。
それが、俺たちが一緒にいるための条件だから。
けれども、俺は不安だった。
目の前にあるのは、ぼんやりとした存在で、瞬きをしたら消えてしまうようなものなんじゃないかと。
何度横を見ようと思ったか分からない。そこに確かにあると、自分に信じ込ませたいと俺はいつでも思っていた。
けれども、俺たちにはそれが出来ない。
どんなに好きでも、どんなに近くにいても、触れることのできない宝物が、そこにある。
俺はお前が好きだ。そんな言葉が、ともすれば口をついて出ようとするが、何かが俺の意識を後ろに引っ張る。
それは冷静な自分であり、冷めた自分。虚無感に包まれた、どうしようもない自分が、俺の中にある。そんなことを言っても仕方ないのだと、俺に思わせてしまう。心のどこかでは、それはとても大事なことであると思っているのに。
だから、出てくるのは全く違う言葉だ。
「……また、学校で」
「はい、また学校で」
綿貫は改札を抜け、名古屋に向かう電車へと乗った。
発射する電車を見ながら、俺は一人思う。
くだらない俺の人生は、確かに綿貫のおかげで変わって来ているのだろう。
いつからか、生まれて死んでいくという、どうしようもない天則に縛られた人間を見て、俺は一人、鼻を鳴らして笑っていた。
そいういう、生意気で、この世はくだらないという、格好を取っている自分が、嫌いだった。嫌いだったのに、それを治すことができなかった。
この世界には確かに、人間の悪意が存在していて、多かれ少なかれ、俺はその毒気に中てられ、歪んだ思想を持たされた。
萌菜先輩は俺が、どうしようもない世界に絶望しているのだという。
春子先生は、俺が十六にして闇を抱えているという。
俺は自分が嫌いだ。汚い世界が嫌いだ。汚い世界に染められた、弱い自分が大嫌いだ。
こんな自分を照らしたのが、綿貫さやかだった。
この世もまだまだ捨てたものではない。彼女は俺にそう思わせたのだと思う。
俺はお前を離さない。お前は俺の道標だ。
けれど、まだ時ではない。今はまだ。
九月最後の週、一週間ぶっ通しで、執り行われる。その間、授業は休みだ。
学校祭の前日、日曜日ではあるが、特例で学校の使用許可が下りている。最後の仕上げとして、校内にいる生徒は少なくない。俺も高校生活初の日曜出勤を決め込んでいた。
校内の熱気は最高潮に達している。
「結局何部刷ったんだ?」
俺は部誌の入った箱を運んで、階段を上っている最中に、雄清に尋ねた。
「五十部だよ」
結果的に、俺たちは記事を全て期日までに間に合わせることができた。開催前日にしてようやく印刷作業が終了したのを受け取って、今部室に運んでいる次第である。
よっこらせ、と運んできた段ボールを部室の机の上に置き、俺は一息ついた。
「で、結局この部誌って題名なんて言うんだ?」
「おいおい太郎、冗談だろう?」
雄清は心底あきれた様子でそういった。
「いや、だって、編集やら校正やら印刷の申し込みやらは、全部佐藤と綿貫に任せきりだったから」
女子二人、特に佐藤の編集者としての能力は、目覚ましいものがあった。あいつの隠れた才能なのかもしれない。それですっかり俺は、佐藤達に後のことを任せていたのだ。
「まったく」
「俺はちゃんとやることやったぞ」
そう、お前の尻拭いとか尻拭いとか、他には尻拭いとか。拭きすぎて猿の尻みたくなりそう。
「開けてみてごらんよ」
口で言えばいいものを。まあいいさ。
俺は言われたとおりに、段ボールの箱を開けて、部誌の表紙を見てみる。
写実的ではないが、見ればすぐに、上手だと思わせる絵が描かれてあった。紅葉の木と背景に山の絵がある。誰が書いたのだろうか。佐藤だろうか。佐藤は絵がかなりうまかったが。
そして、凝った表紙絵とは、対照的にシンプルな字体で書かれた、俺たちの題名が目に入る。
俺は一人、微笑んだ。なるほどな。
あちこちの山の記事を書き、あらゆるところに顔を突っ込んで記事を書いた。
何十年前もの先輩が、どういう意図を込めてこの題名を書いたのかは分らないが、少なくとも俺たちがこの夏から初秋にかけて行ってきたことは、そのタイトルに則したものだ。
「四方山日記か」
学校祭のオープニングでは生徒会が作成した映画が流されることになった。
映画のエンディングで綿貫はきれいな着物を出てステージに登場し、山岳部の部誌のアピールをした。
雄清は、綿貫の着物姿のグラビア写真を付ければ、完売間違いない、と言ったが俺は反対した。いや、完売するには違いないのだが、我らの部長にそんな真似をさせるわけにはいかないだろう。俺が見る分には構わないが、ほかの奴らに見せるというのはどうも虫が好かん。……じゃなくて、俺たちの部長は見世物ではないのだ。
学校祭。それほど楽しみにしていたはずではなかったのだが、多かれ少なかれ、準備には時間を割いた俺であるので、多少は感慨深いものを覚えた。
とはいっても、ぽつぽつ人が来る山岳部の部室で、部誌を売っていただけなのだが。
けれども、綿貫がちょくちょく俺の事を見に来たので、悪くなかった。いや、かなり満足。文化祭楽しすぎ。
綿貫の宣伝のおかげか知らないが、部員と資料用に残す数部を除き、俺たちの制作した部誌は、文化祭の最終日までには全て、完売した。
体育祭後の後夜祭も終了し、学校祭は全日程を終了した。日が暮れてからの下校ということで、学校から、集団で帰るように、という連絡が生徒に伝えられた。男女で一緒に帰る、大義名分が与えられたわけだ。
雄清なんかは、粋な計らいをするねえ、と言っていたが、学校側の真意は知れない。学生の恋路に大人がおせっかいを焼こうとしているのだとしても、俺には関係ないが。
と思っていたのだが、
「深山さん、一緒に帰りませんか」
キャンプファイアーが消され、生徒もまばらに帰りだしたころに、綿貫に掴りそう言われた。
こいつも案外俗っぽいな、と思いながら、悪い気もしなかったので、了承した。まあ、お祭りなんだ。今日ぐらい。
学校から離れるにつれ、人気も少なくなり、騒がしい声も聞こえなくなった。宵も随分と深まり、ひんやりとした空気が、秋の訪れを感じさせる。
俺たちはほとんど喋らずに、道を歩いていた。それでも気まずくはなかった。心地よい静けさが穏やかな時間を演出する。幼馴染の隣にいる時のような、一種の安心感を感じていた。ただ隣を黙って歩いているだけで満足できた。りりりりり、と名もわからぬ秋の虫の音が、耳に心地よい。
ずっと追い求めていた、俺の安寧の高校生活が、穏やかに時が流れる幸福の時間が、実は、最大の阻害因子だと思っていた、このお嬢様によってもたらされているというのが、何だか可笑《おか》しかった。
最高の快楽に、浸っていたところ、綿貫が俺の名を呼んだ。
「深山さん」
何だ、と俺は答える。いつになく穏やかな返事をした。
「手を繋いでもいいですか?」
しばらく、また無音の時間が流れた。今度は先ほどと違って、気まずかった。明るいところだったならば、俺の顔が紅潮しているのがわかっただろう。そして、綿貫の顔も紅潮しているのが分かっただろう。
若干、間を置いてから、
「いいぞ」
と俺は答えた。
綿貫は躊躇いがちにこちらに手を伸ばし、まず指が触れ、恐る恐る俺の手を握った。
俺も握り返した。
白く小さく、ガラス細工のようだと思っていた、その儚くも美しい、綿貫の手はすべすべしていて、温かかった。
悪くないな。
穏やかな時間はより一層の幸福感を帯びた。
俺は今まで脳内麻薬と言うものが本当に存在するのか懐疑的であったが、どうやら確かに存在するらしい。
好きな女の、手を握っているだけで幸福になれるんだから、俺も俗っぽいな。
だけど、いいか。何せ今日は祭なんだから。
学校を出てからもう三十分は経過していた。学校の最寄りの駅までは、速足で行けば、十分ぐらいだが、どんなにゆっくり歩いても、三十分はかからない。実を言うと、綿貫が遠回りをしているらしいことには、だいぶ前に気付いていたのだが、俺は何も言わなかった。体感的には五分と経過していないような気がしていた。
それでも、どんなに遠回りしても、どんなにゆっくり歩いても、どんなに、この時が永遠に続けばいいと願っても、終わりはやってくる。
プラットフォームの明かりが見えてきた。
「深山さん、名残惜しいですけど、お別れです」
駅舎の前にきた綿貫がそういった。
「ああ」
「……私もそうしたくはないんですが、手を離してもらえますか?」
綿貫は恥ずかしそうにそういった。
離したら消えてなくなってしまうんじゃないかと、妙な考えに囚《とら》われた俺は、その感触が確かなものであると確かめるように、綿貫の手を強く握っていた。そんな俺を見てか、
「私はどこにも行きませんから。また月曜になったら部室で会えますよ」
と綿貫は言った。
俺がゆっくりと手の力を緩めると、綿貫もゆっくりと手を俺の掌《てのひら》から指の先まで滑らせるようにして離した。
「今日は駅まで送ってくださってありがとうございました」
そう言って、綿貫はぺこりと頭を下げる。
こういう時間を永遠に過ごしたかった。けれども、今の俺たちには叶わない願いだ。
綿貫は言うだろう。俺に前を見て歩けと。
それが、俺たちが一緒にいるための条件だから。
けれども、俺は不安だった。
目の前にあるのは、ぼんやりとした存在で、瞬きをしたら消えてしまうようなものなんじゃないかと。
何度横を見ようと思ったか分からない。そこに確かにあると、自分に信じ込ませたいと俺はいつでも思っていた。
けれども、俺たちにはそれが出来ない。
どんなに好きでも、どんなに近くにいても、触れることのできない宝物が、そこにある。
俺はお前が好きだ。そんな言葉が、ともすれば口をついて出ようとするが、何かが俺の意識を後ろに引っ張る。
それは冷静な自分であり、冷めた自分。虚無感に包まれた、どうしようもない自分が、俺の中にある。そんなことを言っても仕方ないのだと、俺に思わせてしまう。心のどこかでは、それはとても大事なことであると思っているのに。
だから、出てくるのは全く違う言葉だ。
「……また、学校で」
「はい、また学校で」
綿貫は改札を抜け、名古屋に向かう電車へと乗った。
発射する電車を見ながら、俺は一人思う。
くだらない俺の人生は、確かに綿貫のおかげで変わって来ているのだろう。
いつからか、生まれて死んでいくという、どうしようもない天則に縛られた人間を見て、俺は一人、鼻を鳴らして笑っていた。
そいういう、生意気で、この世はくだらないという、格好を取っている自分が、嫌いだった。嫌いだったのに、それを治すことができなかった。
この世界には確かに、人間の悪意が存在していて、多かれ少なかれ、俺はその毒気に中てられ、歪んだ思想を持たされた。
萌菜先輩は俺が、どうしようもない世界に絶望しているのだという。
春子先生は、俺が十六にして闇を抱えているという。
俺は自分が嫌いだ。汚い世界が嫌いだ。汚い世界に染められた、弱い自分が大嫌いだ。
こんな自分を照らしたのが、綿貫さやかだった。
この世もまだまだ捨てたものではない。彼女は俺にそう思わせたのだと思う。
俺はお前を離さない。お前は俺の道標だ。
けれど、まだ時ではない。今はまだ。
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