勘違い(仮タイトル)

mare

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 連れられ入ったのは、地下へと向かう階段降りた所にある落ち着いた雰囲気のBARだった。


「意外かも。笹山君がこんなお店知ってるなんて」

「意外って……」


 少し拗ねた子供っぽくて思わず吹き出した。


「やっと、笑ってくれましたね。飲んでる時も早く帰りたそうにしてたから」


 早く帰りたいのバレてたのね…。やってしまったわ。

 思わず口ごもる私を年下のくせに余裕な笑みで返され今度はこっちが拗ねてしまう。
 

「最近こういう落ち着いたBARで呑みたくなるようになって」

「なんか、おやじ臭い」

「えっ!寺澤さんそれはないんじゃ……」


 不満を言いつつもおどけて見せる笹山に少し気を許し始めている事に気づかないように蓋をする。
 そうしても締まりきらず、笹山と過ごす他愛もない時間にどこか癒されている自分がいた。



 一杯だけのはずが、楽しくて気が付けば終電に間に合うか間に合わないかの時間になっていた。いつの間にか酔い潰れフラフラの笹山を介抱する羽目になった。お酒が弱かったのか、先ほどの店で飲み過ぎていたのか二杯目を飲むとカウンターに気持ちよさげに突っ伏して寝始めた。さすがに、これはまずいとBARを後にしてどうにかこうにか引きずりながらタクシーを拾ったはいいけど……。


「笹山君。ちょっと!起きて!!帰るわよ」

「んん…」


 呼んでも掠れた返事が返ってくるだけ。しかも妙に色っぽい。そのせいで、胸のあたりがざわざわする。いけないことをしているおじさんになったみたいで落ち着かない。
酔いつぶれるまでの彼は……まぁ、舌っ足らずで甘える様子が可愛かった。
 年下って言うだけでこうも寛容になれるのかと驚く。年下の芸能人にハマる人の気持ちが少しわかった気がした。

 そう、小動物をかわいいと思う気持ちと一緒だ。他意はない。
 ペットよ。うん。ペット。
 昔にしまい込んだ感情とは程遠いものだ…。


「ねぇ、笹山君!家どこなの?ちょっと!起きて!!!」


 揺さぶり、頬をたたくも反応はない。
 ルームミラー越しに見える運転手さんの視線が痛い…。

 これは、もう仕方ないわよね…。

 この行動は正しいと自分に言い聞かせ納得させる。

 仕方ないじゃない?

 こんな状態ので自宅もわからない。そしたら連れて帰るしかないじゃない?

 そうでしょ?

 言い訳か分けを並べるけど、誰に対しての言い訳よ。

 別に、期待しているわけじゃない。
 一晩泊めて朝にはお帰り頂く。ただそれだけ。そうそれだけ。


 どうやっても起きない彼の腕を担ぎながらタクシーから降り自分のマンションへと向かう。


 重い…。

 もう、その辺に転がしておきたくなる。


 なんとか、玄関に入り笹山をリビングまで引きずる。タオルケットをかけ気持ちよさげに眠る顔が憎たらしくもあるけれど、かわいく見える自分にため息が漏れる。


「はぁ…。シャワー浴びよ」


 彼の寝顔を見ていても仕方ない。明日はもっと疲れる要件が待ち構えている。


 サッパリとして、とっとと寝よう。



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