振り向けば君がいた

和之

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第四十話-

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 その日の野村は夕食を無言で摂って、さっさと二階の部屋へ閉じこもった。いつもと違う野村に希美子も二階へ続いた。
「今日はどうしたのご機嫌悪いわね、お父さんとあれほど上手くやってと言っていたのにひと騒動起こしたの」
「親父とは仲良くやって来た!」
 長い沈黙のあと今日初めて希美子と交わした最初の言葉が此の無愛想な一言だ。
「そんな言い方ないでしょ、何を怒ってるのよ」
 希美子が初めて知る、慎二のこれが怒らずにいられないと云うすごい剣幕に唖然とする。以前に一度だけ直ぐに訳を言ってたしなめた事があった。その時には彼女は泣き出してから直ぐに笑い出して誤魔化していた。今度も察しの良い希美子がとぼけていると見て彼は口走った。
「今朝の電車の中から天橋立駅のホームに男と一緒にいる君を見た」
「なーんだそんな事なの焼き餅焼いてるのね」
 彼女は笑って言った。
「笑い事じゃない!どう云う事だ!」
 希美子は真顔に戻った。
「あの人は三日前から泊まって居るお客さんで貴島さんと言って学校の新米先生、自称歴史家、決して悪い人じゃないのよ」
「ウソをつけ!名前なんかどうでもいい、だったらなんであんなに寄り添ってる」            
「話を最後まで聴いて、丁度あなたが実家へ帰った日から泊まってるお客さんなの。それからずーとあたしがお世話していて、あの人は仕事を忘れさせるぐらいすごく話が上手で、今朝帰ると云っていて、あの日偶然出勤する途中で出会ってしまったの。味土野《みどの》へ行きたかったけどバスがなくてとうとう行かれなかったって残念がってたからつい言っちゃったの。貴島さんもそうだけど大都会の若い人は最近免許取らない人が多くて、だから今度いつ来られるか分からないから気の毒になってレンタカー借りてくれるんだったら案内したげるって言ってしまったの、そしたら貴島さん帰りの指定席をキャンセルして頼まれたの、成り行きでそうなっちゃって悪いと思ってるけど」
「なんで旅館を休んでまで案内したんだ!」
「だってあの人、非常勤の先生でたまたま空いたからで明日からまた授業がはじまるの、キチッと行ってないと常勤になれないのと云うことは帰りはきつい夜の強行軍を覚悟してキャンセルしてくれたのを途中で言い出したあたしがやっぱり出来ないって言える訳ないでしょう」
「余計なこと言わんでいいのに……」
  伏し目になって云う慎二の口調は落ち着いてきたが、眉間の皺はまだ変わらなかった。

 
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