振り向けば君がいた

和之

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第三十七話-2

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 母と三人で食卓を囲んだ。一人暮らしだった母には毎日が結構愉しいらしい。だが娘がこのまま此処に長く居着くとは考えてないらしい。もっと東に有る便利さを極度に追求した大都会より京都が生にあっているらしい。訊けば戻りたいと娘は言っていた。だからあんたたち二人はいつまでもこんなところにくすぶる事はないのよ、と始まったばかりの新生活に水を差すような事を言って来る。
「あんたたち二人を見ていると危なっかしくて見てられないわよ」
 計画性のない二人の行き当たりばったりの生活を呆れていた。
「一生懸命やってるんだから母さん少しは黙ってて」
  慎二には長く生き別れた親子とは思えぬほど、希美子の人馴れした柔軟性には驚かされる。深山と付き合うのもそうだし、慎二とも気軽になるのに時間がかから無かった。心のガードは人一倍に堅いが一旦相手を認めると、打ち解けやすく染まりやすいのもこの人の特徴でもある。希美子は燻《くすぶ》り続ける時間は長いが、燃えると突き進む情熱型で、そこには一切の打算も挟まない盲目の恋だった。
 ハイハイと母は食卓の後片づけを始める。手伝うわと希美子も流しへ運んで一緒に食器を洗い出した。慎二はテレビを付けた。丹後の漁港から岸壁に打ち寄せる白波を掻き分け、上下に揺られて次々と出て行く蟹漁の船が映し出されている。
「慎二さんはあんな船に乗りたいとは思わないよね」
 いつのまにか希美子も居間に来ている。洗い物が終わったらしい。
「結構風があるのにゆくんだね」
「まだましなほうですよ真冬になればもっと荒れるわよ」
 お母さんがみかんを持って来て食べ始めた。
「お母さん、慎二さんどうかしら」
「船に乗るって言うの?」
「稼ぎがいいらしいの」
「誰に訊いたの」
「旅館にお魚を卸している魚屋さん。冬の間だけでも船に乗ってくれる人いないかって頼まれたみたい」
「お金に困ってるの」
「そうじゃないけどこの人が働いてる時はじっくり絵が描けないでしよう。描くだけじゃいいけど物語の構想を練るのに静かな時間が要るの、そうでしょう慎二さん」
「じっと集中するのにそう云う時間を持てればいいんだけどだから今は目一杯働いて蓄えているんです」
 

 
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