振り向けば君がいた

和之

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第三十四話-2

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 希美子にすれば以前に仕事を辞めたことは気にしていないし、実家の状況も伝えた。あとは野村の家族、特に両親に会わせて欲しかった。 
「ねえ京都に戻ったらあなたの実家に行ってみたい、いいでしょう」
 野村は暗い車窓を見ていた。
「もうだんまりばっかり。多分あなたの事だからあたしの事は何も話してないんでしょう、無理ないわね、こうしてからまだ一ヶ月だからしょうがないか」
「そんなことないよ」            
  相変わらず夜の車窓の幽《かす》かな雪景色ばかり見ている。
「この前もあなたは車窓の景色ばかりを見ていたわね、そんなあなたを見ていると信州に行った時に夜空をじっと見ていたあなたを思い出した。あたしこんな寂しそうな人初めて、抱きしめてあげたくなったって言ったでしょう。あの時は運命的なものを感じたのあなたはどうだった」
「いや、ただ菩薩か観音様を見てるようだった」
「冗談っぽいわね肝心な時になるとそんな風にしか話せないのね自己主張の下手な人それでは出世はおぼつかないわね」
「だから君がいるんだ!」
「やっと会話になってきたわね。あなたはお人好しで調子がいいけど一方的に言い出されると何も言い出せないんでしょう。そんな難しい顔してもそうだと顔に描いてるわよ。もう骨の折れる人、この先どうするの車窓の風景になんか答え書いてあるの」
  希美子は戯けて一緒に車窓を覗き込んだ。
「これからどうするの、仕事辞めてしまって。あたしの為って言わないのよ、自分の道は自分で探さなけゃあ誰も手を貸してくれないわよ」   
「そうかも知れないけど……」
 通路を挟んで隣にはお母さんと三つぐらいの女の子が居た。彼女がオモチャにしている小さい人形が飛んで来た。それで二人は隣の存在を知る。彼女は飛んで来た人形をその子供と同じ幼児語であやすようにして返す。それに対して礼を言ったお母さんには大人の対応だった。その切り替えがドラマの役者以上で監督も唸らされる演技に、その一部始終を見ていた野村は呆気に取られた。が暫くして我が身にも初めの頃はこのように、関心を惹いたり突き放したりして使い分けていたのを思い出した。

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