振り向けば君がいた

和之

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第二十九話-2

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 野村は早速に翌日には中本を就職祝いだと誘った。また一杯やるのかと中本は応じたが会って見るとそんな雰囲気は微塵にもなかった。
「どうしたんや神妙な顔付きやなあ、辞めたん後悔してるんか」
「そうじゃない独立する」
 中本はハァと素っ頓狂な声を上げた。此処じゃ前の会社の者と出会すからと白川通に出てタクシーに乗った。偉い張り込んだなあと思いながら中本も乗り込んだ。
 行き先が河原町と聞いてまた呑むのかと言うと野村はアッサリ否定した。
「一寸会って漫画の創作の話をしてもらいたいんだ」
「お前本気か」と懲りない奴だと云う顔をするが、腹をくくった顔付きに中本は訳を訊いた。希美子との道行きを説明すると、知ってるのは深山さんだけかと訊いて来る。
「陽子と雅美と云う子が詳しく知ってる、後は知らない」
 なんだぁそれは、と中本は首を傾げたが、あの会社に居れば多分に陽子ちゃんがその内にお前の耳に入れるだろうと省いた。
「それでその希美子さんの為に独立するのか。俺が十年掛かっても出来ないことをお前、今からやるのか」
「十年と云ってもそれは気の持ちようや、気分次第で達成できる」
 何も知らんと分かり切った事を言うなあーと中本はそんな顔付きをした。
「会えば判る彼女はその十年をあっさりと埋めてくれる。それだけの魅力がある人だ。だから険しくても掛け値なしに説明してくれ。彼女は母の様な優しさであらゆる物を救済してくれる」
 それじゃあ観音菩薩じゃあないかと中本は笑った。

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