振り向けば君がいた

和之

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第二十四話-2

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柏木と希美子とのあいだで今日、野村を引き合わせたのは、基本的には同じ動機で友禅の工房に入った者同士の探究心と好奇心が占めていた。
「あたしが言い出した手前断れなくて・・・。でもあなたもいい刺激になったんじゃないの」ともう話題が変わっていた。郷里の駅前で人目も気にせず泣き崩れた彼女の姿と、目の前の希美子とが相反して立っていた。だがどっちも世間から溢れた女心として片隅に取って置くべきなのか。彼女の穏やかな笑顔からは読み取れなかった。立ち止まらず彼女はめまぐるしく話題を変えては急き立てた。
「これで何か吹っ切れたものはなかったの?」
 柏木さんに会わせたのは中途半端な考えを振り払うのが、希美子の目的だとこれでハッキリした。
「何に?」
「そうじゃないんだけど、もうじれったいわね何かしたいものはないの」
「絵かなぁ」
「それじゃ今描いてるわね」
「あういうものじゃなくて絵にストーリを付けてる物語調の絵、昔紙芝居があると拍子木を叩いておじさんが回っていた。こう云う絵も有るんだと感心してた」
「それよ、じゃあ漫画でも描いてみたら」
 何でもいい引き寄せた物は鷲掴みにしなければ前が見えて来ない。
「漫画!あの雑誌の、なんだか安っぽい気がするんだけど」
「それはさまざまで格調高いものもあるでしょう」
「あったっけ」
「それは内容次第でしょう訴えるものがあれば絵も生きてくると思わない?」
「それはどうだろう」
「本当にじれったい何もしないことが一番良くないのよ。慎二《しんじ》さんあなた磨かないと錆び付くわよそしたらそれであなたもわたしも終わるのよ」
 この言葉の重みから逃《のが》れるように彼女また戯けて笑って見せた。二人は暗い夜道から人と車が激しく行き交い賑わいを見せる通りに出た。
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