振り向けば君がいた

和之

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第十八 話

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 丁度此の時「希美ちゃん本宅でおばさんが待ってるから早く食事に行こう」と陽子が夕食に誘いに来た。その前に深山が誘いに来た事を二人はすっかり忘れていた。
「何してるの早く早く!」ともたつく希美子を陽子は急かした。後ろ髪を引かれる様に希美子は立ち上がった。希美子の手招きで彼も後に続いた。陽子と希美子はそのまま路地を並んで先を行った。後に続く感動の余韻に浸るアルピニストは無言で下山道を歩いた。本宅の食卓に着くと先に行った二人が配膳をしている。
 通いで昼と夕方の賄いをするおばさんは、みんなの夕食が終わると、今日のお勤めが終わる。だから野村は遅れた事を詫びて食べ始めた。陽子と希美子は後はやるのでと帰宅を勧めたが、おばさんは二人にも食事を促した。二人が揃って夕食を始めた頃には、野村は肉じゃがの半分を平らげていた。     
 夕食も忘れて二人とも何を仕事場で喋ってたの、と食べ始めると、陽子が箸と茶碗を持ったまま訊いてくる。仕事の話なのと希美子は誤魔化した。
「嘘ばっかり。呼びに行った深山さんからそんな話は聞いてないよ」
「アラッ、深山さんナンテ?」
 ここでもまだ惚けている。
「知らない! でも不機嫌だった、どうしたの? 」
 二人の会話の間で、野村は黙々とご飯を掻き込んでいた。
 そんなに慌てなくても、と云うおばさんの言葉を耳に挟んだ希美子は。 
「良く噛んで食べるのよ」
 と巧く陽子の話を逸らした。
「希美ちゃんお母さんみたい」 
 釣られて 陽子は意味もなく言った。おばさんもそやなぁと笑っている。
 三人の話よりさっきの仕事場での告白で、頭の中が真っ白な野村は、何を食べたかも分からずに食べ終わった。
 食事が終わるとおばさんがいいのよ、と言うのも聞かず二人はさっさと片付けに掛かった。流しで三人が食器を洗うのを尻目に、希美子のドジしない様にと云う視線に送られて野村は向かいの寮に戻った。

 
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