振り向けば君がいた

和之

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第十話~2

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 あいつとは長女の君子さんと駆け落ちした相手で柏木と云う男だ。彼は七年居たが余り絵が得意でなく、今まで外回りを君子さんと掛け持ちしていた。外注も簡単な柄ばかり彼が指導していた。凝った柄のみ深山が出向いて指導していた。それが昨年から深山が柏木の仕事を一手に遣っている。柏木は良いセンスを持っていたが深い洞察力が着物のイメージと合わなかった。それで先生は柏木と君子さんとの仲でも対立した。
「先生も悩んではったんやが得意先と外注の子にも指導出来るのは深山さんしかいいひんさかい、それで野村くんには期待したはるで」
「ぼくより間に黒川さんが居るでしょうあの人を仕込んだらええんちゃいますか」
「野村くん、それ本気で言うてるんか。絵が描けるのと絵心が在るのとはだいぶ違ごて来る、のりちゃんもそう思うやろ」
「うん、まあなぁ」            
「どう違うんです」                   
「粗雑な所、薄々解るやろ。先生も柏木の代わりと思ったがやはり諦めはった。希美ちゃんが来た時もひと騒動起こしよった」
 希美ちゃんは気さくで人懐っこいから直ぐ誰とでも仲良くする。それを良いことに来て直ぐ男子禁制の本宅奥の女子寮にずかずか入ってデートに誘いよった。あんな図々しい人初めてと希美ちゃんから肘鉄喰らわされよった。それから彼女には男はみんな一目置いた。余談だが深山さんも相当悩んで肘鉄覚悟でデート申し込んだらあっさりとオーケーが出たので調子抜けしたらしい。
「そうだったんですか、でも今も良く一緒に出掛けますが仲がイマイチな気がしますね」
「それはお宅が一緒やからとちゃう?」
 とお前がお邪魔虫だと暗に白井が言っている。
「そう言えば野村くんは来たそうそうから彼女と良く話してるなあ、それどころか二人のデートの邪魔してるそうやなぁ」
「人聞きが悪いでっせ、邪魔してませんよ一緒に来ない?って希美ちゃんが誘ってくれて、深山さんいいでしょうって頼んでくれるちゅうからそういう成り行きになるんです」
「希美ちゃんがなぁ。その辺がちょっと解らん」
「睦夫さんとトヨちゃんと似たようなもんですよ」
「わしのと一緒にするな先の事は分からへん、それよりお前どうなんえ雅美ちゃん熱心に通てるがなぁ」
「睦夫さんあの子はギター習いに来てんにゃ一緒にせんとって」
「みんな仲がいいんですね」
「一番ええのが巳絵ちゃんと黒川さんやなぁ寝てはいんけど夫婦みたいな会話しとるで」
「そゃなあのりちゃん、あの二人は更年期過ぎた夫婦みたいやなぁ」
「何ですかそれは」
 野村には理解し難い。
「生活が滲み出て夢がないわなあのりちゃん」
「そやさかいみんな距離を保とうとしてるんちゃうか、やっぱり恋は駆け引きがないと面白ないで」
 そう云う事かと野村は頷き、この辺りは社会経験が豊富な白井に一目置た。 
「のりちゃんはまだ若すぎるから他人ごとみたいに言えるんやで」
 恋の駆け引きは、気持ちの上がり下がりがジェットコスターに似て、天国と地獄が悶々として続く日々だと睦夫さんは言った。
「恋は成り行きと違ゃいまっか」
 睦夫さんの様に粘っこくなく白井はあっさりと躱した。
「二人とも十代やさかいそんこと言えるんやで一遍火付いたらそれどころやないで、なあマスター」
 けったいなところで振られても困ると年季の入ったマスターは奥で笑っていた。
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