振り向けば君がいた

和之

文字の大きさ
7 / 83

第七話

しおりを挟む
  第七話

 ちょっとこの仕事に慣れた頃に希美子と深山さんが睦夫さんと雅美ちゃん、陽子ちゃんを誘って休日の夕方から野村の歓迎会を催してくれた。
 深山さんだけが得意先の用件を済ませてから来る事になっている。五人は一緒のバスで三条木屋町の居酒屋へ行った。 
 白井くんも誘う予定だったが彼は十八で酒も弱く、音楽に酒は無用と云うのも彼の持論だった。野村も未成年だが彼は限りなく二十歳に近い未成年で実際後少しだった。だから歓迎会と成人式がごっちゃになっている。
 店は陽がまだ浅いのか客も疎らだった。まず野村がビールの味見で始まった。一同注目の中で野村が一口飲んで大丈夫となってから乾杯になった。先に始めてくれと云う深山の伝言で五人は飲み食いを始めて一息ついたところで、この場に居合わせない深山の話から始まる。
「希美ちゃんは深山さんのどこが気に入ったん」
 先ずはこのテーマについて、陽子の兄貴分の雅美が切り出した。
「今更何を急に言いだすんや」と睦夫さんが遮った。
 別に気にしてないからと睦夫さんの配慮を断ってから。
「そう言われても困るけど自分の描いてるタイプ、性格に近いから」と希美子は言いだした。
「それって愛情はどうなん、好みのタイプでもどうしても一緒になれないって事あるでしょう」
 雅美がまた突っ込んで来る。此の二人は別に仲が悪い訳じゃなくて、雅美は理屈っぽいのだ。陽子が来るまではそんな彼女に希美子は良き話し相手だった。
「それは最初からタイプでなかったんじゃない。だから愛情が持てる性格ってあるでしょう」
「フーン、深山さんがそうなのか」
「でもまだ解らないの、でも悪い人じゃないから」
 宴が始まってから主に喋ってるのはこの二人だ。
「根っから悪い人なんていないんじゃないの」
「雅美ちゃんやけにからむんやなぁ」
 からかってる雅美は口は悪いが根がないから、睦夫も程ほどにしときと遠回しに言っている。
「それよりビールの味はどうや?」
「コカコーラーから砂糖を抜いて渋みを入れた様なもんやなあ」
「まだ子供みたいな事云ってるんやなぁ」
 雅美がお姉さんぶって言った。
「みんなええ歳してるからなあ」
「睦夫さんええ歳ってなによ、野村くんと二つか三つしか違わへん」
「雅美ちゃんは四つ違うんちゃう」
「厳密には三つ半やそれに彼ももうすぐ二十歳やないの、で仕事はどう慣れた、向かいのお姉さんに指導してもらってんでしょう」
「ちょっと雅美ちゃんお姉さんはないでしょう」
  彼女達はそうよと言いながらも、呑むより食べる方が主体だった。
「ねぇ陽子ちゃん食べてないでなんか言ってよ」
 希美子は陽子が野村の事を聞きたがっていると今度は野村に話しを向けた。
「最近はこの人、あたしにあなたの事ばかり訊くのよ昨日もそうなんだから」
「別に頼んだ訳じゃないよ新しい人が来ればどんな人か知りたい、好奇心の一種だよ」
 陽子は野村の手前ちょっとムキになって否定した。
「そうかしら新人さんが来ても関心なければ知らん顔してるくせに」
「そんな事ないよね、野村くんと一緒にこないだギターをちょっと聴いたよね」
「陽子はあたしが練習してるときに勝手によっただけじゃん」
 と雅美は片棒を担がされたくないと妹分を突き放した。
「そんなことはない!」と今度は陽子か意地になった。
「あたしも一度雅美ちゃんのギター聴いてみたい」
 とムキになる陽子に希美子がさりげなく収まる様に喋り掛ける。
「希美ちゃんは深山さんの言う事を聞いていたらええんちゃうの」
 そこで睦夫さんが適当な言葉で収めに乗り出したが「希美ちゃんはそんな一方的に言う人じゃない」と今度は急に野村が騒ぎ立てて希美子を援護するとそれには睦夫さんも驚いた。
「何もそんなつもりで言うたんちゃうがなぁ」
「そんなことはない!」と言った後で野村も困惑して来る。
 引っ込みがつかなくなった睦夫も困りはてた。いつもと違う様子に希美子は戸惑った。その沈黙の中で、入り口で店員とやりとりする深山の姿が見えて、みんなの関心がやって来る深山に移った。
 カウンターは一人客ばかりで座敷もまだ半分空いている。だから深山も店員の案内を待たずに簡単に見つけられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...