辿り着けない世界

和之

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美酒に酔うのは誰か3

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「もうッ、こんな時こそ翔樹さん、あなたが二人に寄り添わなくてどうするのよ」
「そう言われても、俺は身内じゃないから。そこへいくと美紗和さんが適任でしょう」
「それはさっきも言ったでしょう。幼いときから知りすぎているあたしよりも可怪《おか》しな友情で結ばれている人が適任なのよ、猶予は一日、今から二十四時間寝ずの番ね」
「それは、ちょっと厳しいでしょう」
「何言ってるのよ。いつも好きなだけ寝ていられるくせに、たまには家族全員の世話を焼く千里さんの苦労も知らないで」
「別に、あたしはこれから此の家の家事を支えるけれど、典子さんは中途半端な存在で今まで過ごされて、あたしならとっくに切れているわよ」
 でも明日はその典子さんをバックアップするから大変と先に部屋を出た。これからだと言わんばかりに、美紗和さんは呑み続けている。
「ねえ、大学では裕介とどんな話をしていたの」
 和久井との一件から恋の話になり、男女関係の超えられぬ一線を、三十八度線に例えるまで飛躍してしまった。
「あれで高村とは面白い奴だと共鳴し、それからよく付き合った」
「弟の話だと、苦労人だと聞かされたけど……」
 若狭の田舎は狭い家に六人兄弟と両親だから、此処の高村とは雲泥の差で、それで悩みだらけだ。
「それが実際に此処に来て、高村との悩みの違いに驚いた」
「どう驚いたの ?」
「悩みの基準が違うんだ」
 おかしな事を言う人だと、美紗和さんには笑われてしまった。これでは貧困家庭の実状を知らない彼女に、その違いをどう説明していいか迷った。
「美紗和さんは、同郷の福井県に生まれて関西で活躍した江戸時代の作家近松門左衛門は知ってるでしょう」
「まあ大学では身近な存在として取り上げているけれど……」
 心中が有名だが、貧困家庭に育った坂部には理解しがたいが、高村は陶酔していた。
「同じ心中でも、要するに明日の米もない生活に行き詰まるのでなく、許されぬ恋から生きるのに行き詰まり、未来を違える話ですよ」
 死を求めて行き着く先は同じでも、その道行きは小作人と資産家と謂う境遇の違いだった。
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