辿り着けない世界

和之

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釣りの成果3

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 屋敷へ帰ると今日は高村がもう帰っていて、夕食には顔を出した。こうしてみんなが顔を揃えるのは坂部が着いたあの日以来だ。あの日に見た同じ顔ぶれが揃ったが、それぞれの顔から受ける印象が今では大きく変わってしまった。あの日は穏やかに見えた人たちが、今は様々な思惑に絡まれているのが判る。直視しにくい人も居るが同じ目を合わすのにもドキドキしてしまう人も出来てしまった。その人はあの日と同じく隣に座っているが、彼女の確信的な言葉を引き出さないと告白出来そうにない。高村はとみると、今日はこの夕食に間に合わせて帰って来た。
 高村家は対外的には祖父が倒れたあと、利忠さんが会社を引き継いでなんともないが、家の中は祖父が掻き回したお陰で混沌としていた。その中に家族でもない大場さんは一歩退いて俯瞰して高村家の誰にも偏らずに内情を見られる唯一の存在だ。その大場さんが典子さんに対して少しでも肩入れしすれば、あの迫害者をほっとけない裕介がのめり込むのも無理もなかった。あとはどれだけのめり込んでいるのか直接高村に聞くしかないが、その高村は向かい隣で大場さんと話し込んでいた。
 ここに居る人々は遺訓に縛られている。それを抹殺するか続けるかで、この二つの命題に翻弄され続けた祖父利恒は亡くなった。
 祖父がいる間は実行力が伴わない父にすれば、自分の考えが間違っているか正しかの判断は二の次で、自分は見てるだけで良かった。だが祖父亡き後は、自分の考えが即高村家の行く末に直結すれば、慎重にならざるを得ない。しかし優柔不断と見られたくない彼は、まだ影響力が残っている祖母の、袖の下に隠れているようにも見えた。一家の長たる者がそれでどうすると、これに裕介は不満だった。夕食が並べられたテーブルの向こうで、裕介は敵意を持って父を見ていた。隣の大場さんは良いとしても、反対隣にいる典子さんの身の上を思うと、高村の敵意は益々燃え上がるがのに、今は何に揺れているのか動こうともしなかった。
 ヤレヤレ高村の奴め、気持ちだけなら何とでも云える、と坂部は今日釣った鮎に舌鼓を打っていた。
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