辿り着けない世界

和之

文字の大きさ
89 / 196

千里の話1

しおりを挟む
 その日の食卓に鮎は一匹も出ないのに、食卓に来ていない祖母と伯母と大場さんを除くみんなは、別にいつもと変わらず咀嚼していた。勿論大場さんはガレージになっている別宅の二階に住んでる。炊事場もあるからそこで食事もしているが時々招かれている。今日招かなかったのは正解だと、食事の支度をする典子さんと千里さんは笑いを浮かべた。鮎の釣り道具一式を貸した大場さん以外に知っているのは、釣りに行った当人を除けば典子さんと千里さんだけだ。みんなはいつものようにサッサと食事をして部屋へ引き上げた。見れば残った中に美紗和さんはいない。それが何ともやるせない。あれは偶然で、彼女にそんな意図は全くなかったと無言で言っているように感じられた。今は周囲には後片付けをする千里さんと典子さんがいるだけで、坂部は一人食堂で浮いていた。そのうちに典子さんも引き上げると千里さんが「坂部さんの部屋は何もないから退屈でしょう」と隣に座ってくれた。 
「典子さんは今日は早いんですね」
「彼女は子供達の食事をあたしと交代で見てるのよ」
「じゃあそのうちにどっちがお母さんが判らなくなりますね」
「それは無いけど、もうあの二人は姉弟のように遊んでいるわよ」
 それは無くなった祖父、利恒の企みなのか?
「おじいさんは、利貞ちゃんが生まれてからいつ亡くなったんですか」
「一歳になる頃かしら。おじいさんは去年の暮れに亡くなったのですが、その前に利貞ちゃんの一歳の誕生日をおじいちゃんは盛大に祝ったの」
「それは四代目として期待してるんだ」
 脳溢血か、と独り言を呟く坂部に千里も想い出した。
「あたしもそこが引っかかるんですけれど……」
 今更どう引っかかると云うのか訊きたくなる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...