辿り着けない世界

和之

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九頭竜川5

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 それじゃあ無機質な人になると言われた。だからおじいちゃんは会社経営で展望がなければ、こうして九頭竜川で無心で鮎釣りをしていた。
「それは大場さんも同じなのよ」
「でもあの人は毎日気分転換を図る必要はないでしょう」
「アッ、あなたの鮎は流されてるわよ」
 どうやらもう此奴はギブアップのようだ。
「こんな場合はどうするんだ」
「釣ったばかりの元気な鮎に取り替えて上げるのだけれど」
 おとりは大概二匹有れば、あとは次々と取れた元気な鮎に取り替えて、増やしてゆくらしい。だがまだ一匹も釣れてない。それでも鮎を疲れさせないように泳がすコツさえ掴めば、大場さんの手を煩わす必要がない。それでおじいさんの話を聞ける。
「大体岩場に付いた苔を囓り取るから、それらしい石の処へ常に泳がしていれば大場さんも気にしないから話し相手になるわよ、で何を訊くの」
「矢っ張り伯母さんをどうしてあれだけ気に掛けていたのか、そしてその娘さんの典子さんも気になるなあ」
 今朝出掛けに見付けて、それで典子さんに声を掛けようとした。
「だいたい典子さんは家事以外は奥の部屋にいるんですか」
「台所の隣に休憩室が有るからそこにいるわよ」
「今朝はいつもああして池の鯉に餌をやってるんですか」
「おじいちゃんが良く会社へ出掛ける前にやっててたまに大場さんもやってたのよそれを今は彼女がやってるの」
「じゃあ大場さんも鯉に餌をやる事もあるんですか」
「あの人は運転する集中力をほぐす意味合いが強いみたい」
 車の運転が取り立ての坂部さんは、いつも緊張の連続だけど、馴れると暇な時間が出来る。するとつまらないことをやりたくなるらしい。

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