辿り着けない世界

和之

文字の大きさ
上 下
78 / 102

祖父の臨終2

しおりを挟む
「それで思うんですけれど、さっき茶室でおばあちゃんから聞けなかった話が出来るでしょう」
 なるほど、これがさっき千里さんが言っていた筒抜けって言う奴か。
「でも肝心な典子さんに関しては全て美津枝さんが押さえているみたいよ」
「そうか、ところで美紗和さんお茶は?」
「そんなの遣るわけないでしょう」
「どうして」
「そんな辛気くさいのは苦手なのよね」
 此処が千里さんの言《ゆ》う大雑把でサッパリした処か。
「それは此の家の古臭い仕来りが合わないからか」
「まあそれもあるけれど、基本的には女性には押し付けられる事はない。要するに長男だけが押し付けられる。だから姉妹にはかなり自由奔放なの、長男のお嫁さん以外はね」
「そうですか? 千里さんを見ているとそれはあまり当てはまらない気がするけど……」
「遺訓なんて跡取りの長男が居なければ続けられないのよ。昔と違って一人の女性しか居なければね。まあ、昔の大名のように多くの側室が居れば話は別だけれど、直系で三代も続けばしょうがないかと祖父の利恒さんは何処かで見切りを付けたのかも知れないわね」
「それは本当ですか」
「あたしが高校生の時にはそんな噂も影で囁かれていたみたい。でも四代目の利貞ちゃんが生まれるとおじいちゃんはガラッと人が変わったみたいにまた頑張りだしたの」
「その矢先に亡くなれば本人にすれば死んでも死にきれないほど悔やまれるのに動脈硬化で心不全なんて、なんでもっと摂生をしなかったんだろう。でも突然すぎる死ですね」
「そうね、倒れてからその晩には亡くなったのですから余りにも呆気なく過ぎた。特に大事な局面だけに周りからも同情の声も上がったけれど病気でも癌でもなく七十そこそこで死ぬなんて、まあ考えられないわね。それは裕介もよく言ってた」
「原因が判らなければ落ち着く処は脳梗塞から来る心不全なんて、何処にでもある死亡診断書でしょ」
 前兆がなくて急に倒れれば病名なんて後から何とでも付けられる。そう考えればキリがなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

【完結】元お義父様が謝りに来ました。 「婚約破棄にした息子を許して欲しい」って…。

BBやっこ
恋愛
婚約はお父様の親友同士の約束だった。 だから、生まれた時から婚約者だったし。成長を共にしたようなもの。仲もほどほどに良かった。そんな私達も学園に入学して、色んな人と交流する中。彼は変わったわ。 女学生と腕を組んでいたという、噂とか。婚約破棄、婚約者はにないと言っている。噂よね? けど、噂が本当ではなくても、真にうけて行動する人もいる。やり方は選べた筈なのに。

処理中です...