52 / 96
越前の土地柄6
しおりを挟む
「多分そう謂う処も似てるさかいなあ」
「それって、高村が大場さんに俺のことを耳に入れたん?」
「そうや、大場さんは普通免許があれば体力が落ちても何とか喰っていけるちゅうってなあ」
そうか大場さんもひょっとしたら厳しい環境の中で育って来たのかも知れないと思ってふと目の前の展示物を見た。そこにはミニチュアのように質素な町並みの展示に眼をやると、さっきの朝倉家の豪華な館とこちらの質素な町並みを見比べた。瓦屋根の館の中央には花壇があり、鮮やかな花を愛でていたのに比べて、町民の板葺きの屋根には捲《めく》れないように重し代わりに無数の石が乗せてあった。時代こそ違えども身につまされるミニチュアの光景だ。
「大場さんは生まれはどこなんだ」
「飛騨地方で、それも出稼ぎに行くしか生計が立たない奥飛騨でひっそりとした温泉街の旅館業ぐらいで、耕す田畑も少ないから食い扶持を減らすために福井へ出て来て運送屋で働いていたところを祖父が我が家へ住み込みでお抱えの運転手として雇ったが、かなりまめな人で送迎が終わって手空きになると庭の手入れを始めて今では庭師か運転手か分からないぐらい丹精にあの庭を育てているんだ」
「じゃあ大場さんもおじいさんには世話になってるんだなあ」
「ああ、祖父は人を見る目と女にはまめだったんだ」
高村からそんな大場さんの話を聞いてから、一階の総合案内で会うとさっきより又印象が深まった。
三人は遺跡博物館を出ると、建物こそ少ないが現場で実際に再現された場所へ行った。朝倉の館跡と区画整理された武家屋敷や、町並みの一部が復元された跡を、散策するように見て回った。
「ここら一帯は信長の焼き討ちに遭ってからはずっと何もない空間で全部田畑だったんですよ、だから綺麗にそのまま土の下に眠っていたのを掘り起こして再現しましたから電柱一本もない、本当にあの当時の物以外は何も此処には存在しませんから」
と大場さんは発掘現場に向かって両腕を広げて披露する後ろ姿は、再現された夢の跡に向かって虚しく何かを心の中で叫んでいるようだ。
「それって、高村が大場さんに俺のことを耳に入れたん?」
「そうや、大場さんは普通免許があれば体力が落ちても何とか喰っていけるちゅうってなあ」
そうか大場さんもひょっとしたら厳しい環境の中で育って来たのかも知れないと思ってふと目の前の展示物を見た。そこにはミニチュアのように質素な町並みの展示に眼をやると、さっきの朝倉家の豪華な館とこちらの質素な町並みを見比べた。瓦屋根の館の中央には花壇があり、鮮やかな花を愛でていたのに比べて、町民の板葺きの屋根には捲《めく》れないように重し代わりに無数の石が乗せてあった。時代こそ違えども身につまされるミニチュアの光景だ。
「大場さんは生まれはどこなんだ」
「飛騨地方で、それも出稼ぎに行くしか生計が立たない奥飛騨でひっそりとした温泉街の旅館業ぐらいで、耕す田畑も少ないから食い扶持を減らすために福井へ出て来て運送屋で働いていたところを祖父が我が家へ住み込みでお抱えの運転手として雇ったが、かなりまめな人で送迎が終わって手空きになると庭の手入れを始めて今では庭師か運転手か分からないぐらい丹精にあの庭を育てているんだ」
「じゃあ大場さんもおじいさんには世話になってるんだなあ」
「ああ、祖父は人を見る目と女にはまめだったんだ」
高村からそんな大場さんの話を聞いてから、一階の総合案内で会うとさっきより又印象が深まった。
三人は遺跡博物館を出ると、建物こそ少ないが現場で実際に再現された場所へ行った。朝倉の館跡と区画整理された武家屋敷や、町並みの一部が復元された跡を、散策するように見て回った。
「ここら一帯は信長の焼き討ちに遭ってからはずっと何もない空間で全部田畑だったんですよ、だから綺麗にそのまま土の下に眠っていたのを掘り起こして再現しましたから電柱一本もない、本当にあの当時の物以外は何も此処には存在しませんから」
と大場さんは発掘現場に向かって両腕を広げて披露する後ろ姿は、再現された夢の跡に向かって虚しく何かを心の中で叫んでいるようだ。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる