辿り着けない世界

和之

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高村の噂5

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「そう言う訳やさかい小石川さんなら向こうもご近所の手前、困るけれどあたしが高村さんとお友達になっても問題はないでしょう」
「それで今日、呼び止めたのは俺とどう言う関係があるんだ」
 これは今一度、和久井佳乃子の気を惹くチャンスだが、何かが邪魔をしてこんな言葉が喉元を我が物顔で通り過ぎてしまった。矢張りこの場は高村を思う気持ちが勝《まさ》ったようだ。
「だから高村さんとお友達になれば私もあなたともっと深く付き合えるでしょう」
 そのように言われると、また未練がましい気持ちが紆余曲折してくる。これが最初に高村に指摘された幼い頃の愛情の欠如から来ているのかと思うと情けなくなった。
「だからあなたと高村さんの結び付きを私はもっと協力して上げたいの」
 それは余計なお世話だと云いたいが、なぜかその言葉は込み上がってこない。それどころかある程度の満足感さえ伝わって来た。これではハッキリさせたくないのか、そこが煮え切らないまま時間だけが通り過ぎてゆく歯がゆさから適当に突き放してしまった。
「僕に協力を仰ぐより直接高村に云えば良いんじゃないですか」
「此の前はあたしの名前を出しただけで彼は走って逃げた人をどうやって話せるのよ。あなたが余計な事を言わなければ聞いてもらえたのに」
 和久井は自分の素行を差し置いて、それじゃあこうなった責任は俺にあると言わんばかりだ。まああんな壺を相手の身なりで勝手に値段を付けて売り付ける女に云っても無意味だ。
「もう話はこれで終わりだ」
「それでいいの、小石川さんからもっと高村さんの事を訊かなくてもいいの」
「ああ、直接高村に訊けばいいんだ。その方が此の人よりもっと詳しい事が解ってくるからさ」
 と云いながらも腰は重たかったが、和久井の媚びを帯びたような顔を見て、高村と同じように急に飛び上がるようにして店を出た。
 

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