辿り着けない世界

和之

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高村の噂4

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 テーブルの前にはまだ余り減ってない珈琲が三つ並んでいる。さっき言った言葉が何処へ消えたのかも解らないぐらいに、快活に隣に居る女と喋り出した。話を盗み聞きするわけではないが、目の前で喋られると自然と否応なく耳に入ってくる。しかもそれが友人の高村に関することなら知らぬ間に自分は耳を欹てて聴いていた。
 話を要約すると高村の家は戦前から続く大地主だったが、戦後の農地改革で田畑の殆どをなくしたが山林だけは残った。戦後の復興期にはその木材が飛ぶように売れて戦前の賑わいを取り戻して、今は静かに越前の山あいに溶け込むように屋敷はある。
「どれぐらい」
 町中でなく山裾に抱かれるように建っているお屋敷ですから敷地はハッキリとした広さは解りませんが、建物は百坪ぐらいだそうだ。
「何で解るの」
 町の工務店が改装を何回か頼まれて伺いました。でもそんな物はどうでも良い、とにかく高校時代、朝はいつも同じ電車に乗り合わせても、高村はいつも空いた席に座ると本を読んでいた。後で気付くと彼のためにいつもその席が空けてある。
「何で」
 解らないけれど田舎の二両編成の電車でも、あたしが乗る頃には結構席は詰まっていた。
 でもそうやって見ているのはあたしだけやない。同じ高校生の中にも何人か他にも居た。もっと居たかもしれないが残りは無関心を装っていた。でも年寄りが席の前に来ると、裕介君は必ず一番に席を譲っていたから、育ちの割には融通の利く子やと傍目には見えていた。
「何で声掛けへんかったん」
「だってみんな同郷の子ばっかりで迂闊に云えん。それで世間の均衡は保たれていたんや」
 あの家には三人子供が居て裕介君は末っ子で上に姉と兄が居るが、男連中はそのお姉さんに夢中になっている。お姉さんも器量良しでみんなほっとかへん。
「そんな一家にみんなは見て見ぬ振りをしてやり過ごしているから、あたしもこれ以上は裕介君には近づけへん」
 と高村の噂話はそこで終わった。

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