13 / 118
高村の噂4
しおりを挟む
テーブルの前にはまだ余り減ってない珈琲が三つ並んでいる。さっき言った言葉が何処へ消えたのかも解らないぐらいに、快活に隣に居る女と喋り出した。話を盗み聞きするわけではないが、目の前で喋られると自然と否応なく耳に入ってくる。しかもそれが友人の高村に関することなら知らぬ間に自分は耳を欹てて聴いていた。
話を要約すると高村の家は戦前から続く大地主だったが、戦後の農地改革で田畑の殆どをなくしたが山林だけは残った。戦後の復興期にはその木材が飛ぶように売れて戦前の賑わいを取り戻して、今は静かに越前の山あいに溶け込むように屋敷はある。
「どれぐらい」
町中でなく山裾に抱かれるように建っているお屋敷ですから敷地はハッキリとした広さは解りませんが、建物は百坪ぐらいだそうだ。
「何で解るの」
町の工務店が改装を何回か頼まれて伺いました。でもそんな物はどうでも良い、とにかく高校時代、朝はいつも同じ電車に乗り合わせても、高村はいつも空いた席に座ると本を読んでいた。後で気付くと彼のためにいつもその席が空けてある。
「何で」
解らないけれど田舎の二両編成の電車でも、あたしが乗る頃には結構席は詰まっていた。
でもそうやって見ているのはあたしだけやない。同じ高校生の中にも何人か他にも居た。もっと居たかもしれないが残りは無関心を装っていた。でも年寄りが席の前に来ると、裕介君は必ず一番に席を譲っていたから、育ちの割には融通の利く子やと傍目には見えていた。
「何で声掛けへんかったん」
「だってみんな同郷の子ばっかりで迂闊に云えん。それで世間の均衡は保たれていたんや」
あの家には三人子供が居て裕介君は末っ子で上に姉と兄が居るが、男連中はそのお姉さんに夢中になっている。お姉さんも器量良しでみんなほっとかへん。
「そんな一家にみんなは見て見ぬ振りをしてやり過ごしているから、あたしもこれ以上は裕介君には近づけへん」
と高村の噂話はそこで終わった。
話を要約すると高村の家は戦前から続く大地主だったが、戦後の農地改革で田畑の殆どをなくしたが山林だけは残った。戦後の復興期にはその木材が飛ぶように売れて戦前の賑わいを取り戻して、今は静かに越前の山あいに溶け込むように屋敷はある。
「どれぐらい」
町中でなく山裾に抱かれるように建っているお屋敷ですから敷地はハッキリとした広さは解りませんが、建物は百坪ぐらいだそうだ。
「何で解るの」
町の工務店が改装を何回か頼まれて伺いました。でもそんな物はどうでも良い、とにかく高校時代、朝はいつも同じ電車に乗り合わせても、高村はいつも空いた席に座ると本を読んでいた。後で気付くと彼のためにいつもその席が空けてある。
「何で」
解らないけれど田舎の二両編成の電車でも、あたしが乗る頃には結構席は詰まっていた。
でもそうやって見ているのはあたしだけやない。同じ高校生の中にも何人か他にも居た。もっと居たかもしれないが残りは無関心を装っていた。でも年寄りが席の前に来ると、裕介君は必ず一番に席を譲っていたから、育ちの割には融通の利く子やと傍目には見えていた。
「何で声掛けへんかったん」
「だってみんな同郷の子ばっかりで迂闊に云えん。それで世間の均衡は保たれていたんや」
あの家には三人子供が居て裕介君は末っ子で上に姉と兄が居るが、男連中はそのお姉さんに夢中になっている。お姉さんも器量良しでみんなほっとかへん。
「そんな一家にみんなは見て見ぬ振りをしてやり過ごしているから、あたしもこれ以上は裕介君には近づけへん」
と高村の噂話はそこで終わった。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる