13 / 19
第12話 リリーからも感謝を
しおりを挟む
血液の検査はすぐに行われるはずだったのだが、どうやらそれを調べる魔道具の調子が悪いということで、午後はもう一度加護の検査(何度やっても変わらず「ごめんなさい」と出た)をし、その次の日はフリーディとなった。
フリーといって部屋から出られるわけではないので、アイラは運んでもらった朝食を食べてから、ベッドの上で転がっていた。
魅了を使っていたとわかってから、環境が目まぐるしく変化し続けていて、そのせいなのか、すこし「すぐに死ぬほうがいい」という思考が遠のいている気がする。
それが良いこととは思えないが、どうしても、癒し手になるという目標をあきらめきれないのだ、ということにも気がついてしまった。
とくに、トールが父によって助けられた、と聞いたあたりから。
「この部屋は、部屋から外に魅了の効果がでないための魔封じの部屋。部屋に来た人にかかける魅了を弾くことはできない」
つまり、例えば治療院に魔封じをしたとしても、中でアイラが治療をおこなっているときに魅了を使用してしまったら、結局いつも通りの結果を引き起こすだろう。
魔封じの部屋と、魔封じの加護は効くのに、魔封じの魔道具は効かない、というのが良くわからない。魔封じの魔道具さえうまくハマれば、と考えてみるものの、治癒魔法は魔法なのだから、魔封じをされたら使えないのでは、と思う。いや、精神系魔法のみって言ってたな、そうなら治癒魔法だけなら使えるのか。
「アイラって結構いろいろ考えるタイプなんだねー」
「きゃあ⁉︎」
部屋に一人でいたはずなのに、いつのまにかベッドの横にはリリーがいて、思わず悲鳴をあげてしまった。
「あ、ごめん、ノックしても返事なかったから……。驚かせちゃった?」
「い、いえ…すみません」
「あはは、なんでアイラが謝るの?」
横に座っていいか、と聞かれたので、アイラはどうぞ、と少し場所を開ける。
よいしょ、と座ってから、リリーは僕にも、写真見せてくれない?と尋ねる。断る理由もなかったので、どうぞとアイラが渡すと、リリーはしばらくその写真を見つめたまま、「この人かぁ」と呟いた。
「あの…?」
「ああ、ええと。僕さ、ちょっと変でしょ?」
「ええと…?」
唐突の自分は変発言にアイラは戸惑って言葉を探す。
「あはは、ごめんごめん!困らせたかった分けじゃなくってさ。僕ってさ、自分の性ことを、あんまり女として自覚してないんだよね。だからと言って男だとも思ってないんだけど」
リリーはいつも男女兼用の洋服を着ているし、一人称が「僕」であることから、なんとなくそんな気がしていたアイラは曖昧に頷く。
「弱小だけど貴族の家に僕らは生まれたからさ、僕にとってはそれなりに窮屈で。でも、トールがいたから僕は僕のまま息ができたんだ。だから、トールは大事な兄弟であり、大事な恩人でもあるんだけど」
リリーは写真に視線を戻す。
「一回、失いかけたんだよね」
「魔獣との戦いのことですか?」
「そうそう。さっきさ、そのとき救ってくれたのがアイラのお父上だってトールから聞いて、僕も写真にお礼を言いたくなってさ。うん。ありがとうございました」
リリーは、先日のトールと同じように、写真に向かって深く頭を下げた。
「で、だ!」
頭を上げた後、リリーはパッと表情を変えて、アイラに笑った。
「僕にとって、君は恩人の恩人の娘なんだなーって思ったら、俄然やる気でちゃったわけ!それに、僕の研究テーマである『加護』とはなにか、ってこともなんか言及できそうな感じだし、むしろそっちがメインなんだけど、あ、いや、恩を感じてないわけではないんだよ、これはほんと!」
どっちも本音だから!と強調するリリーに、アイラは思わず、くす、と笑ってしまった。
「あ、笑ったね。いい感じ!」
リリーはそう親指を立てて、そうそう、これあげる、とアイラにアンクレットを一つ渡した。
「精神支配系の魔法に、かかってるかかかってないか、判断する魔道具だよ。かかってるか心配な相手に向けてみて。ここの真珠みたいなのが赤くなったらかかってるってこと。変わらなかったら、かかってないってこと。百パーセントの精度とまではいかないけれど、君の学園で魅了にかかった人を探すのに使った魔道具だから、結果は信じて大丈夫なはずだよ」
ほら、僕に向けてみてくれる?とリリーがいうので、アンクレットを腕にはめてそっとリリーに向けてみる。
色は、変わらなかった。
「ちょっとは、安心できるでしょ?」
「…ありがとうございます」
ここの研究員の人は、アイラの「自分の意志ではなかった」という言葉を、可能性を、少しずつ証明してくれようとしている。
そう思うと、少しだけ前を向いても許されるような、そんな気持ちになった。
フリーといって部屋から出られるわけではないので、アイラは運んでもらった朝食を食べてから、ベッドの上で転がっていた。
魅了を使っていたとわかってから、環境が目まぐるしく変化し続けていて、そのせいなのか、すこし「すぐに死ぬほうがいい」という思考が遠のいている気がする。
それが良いこととは思えないが、どうしても、癒し手になるという目標をあきらめきれないのだ、ということにも気がついてしまった。
とくに、トールが父によって助けられた、と聞いたあたりから。
「この部屋は、部屋から外に魅了の効果がでないための魔封じの部屋。部屋に来た人にかかける魅了を弾くことはできない」
つまり、例えば治療院に魔封じをしたとしても、中でアイラが治療をおこなっているときに魅了を使用してしまったら、結局いつも通りの結果を引き起こすだろう。
魔封じの部屋と、魔封じの加護は効くのに、魔封じの魔道具は効かない、というのが良くわからない。魔封じの魔道具さえうまくハマれば、と考えてみるものの、治癒魔法は魔法なのだから、魔封じをされたら使えないのでは、と思う。いや、精神系魔法のみって言ってたな、そうなら治癒魔法だけなら使えるのか。
「アイラって結構いろいろ考えるタイプなんだねー」
「きゃあ⁉︎」
部屋に一人でいたはずなのに、いつのまにかベッドの横にはリリーがいて、思わず悲鳴をあげてしまった。
「あ、ごめん、ノックしても返事なかったから……。驚かせちゃった?」
「い、いえ…すみません」
「あはは、なんでアイラが謝るの?」
横に座っていいか、と聞かれたので、アイラはどうぞ、と少し場所を開ける。
よいしょ、と座ってから、リリーは僕にも、写真見せてくれない?と尋ねる。断る理由もなかったので、どうぞとアイラが渡すと、リリーはしばらくその写真を見つめたまま、「この人かぁ」と呟いた。
「あの…?」
「ああ、ええと。僕さ、ちょっと変でしょ?」
「ええと…?」
唐突の自分は変発言にアイラは戸惑って言葉を探す。
「あはは、ごめんごめん!困らせたかった分けじゃなくってさ。僕ってさ、自分の性ことを、あんまり女として自覚してないんだよね。だからと言って男だとも思ってないんだけど」
リリーはいつも男女兼用の洋服を着ているし、一人称が「僕」であることから、なんとなくそんな気がしていたアイラは曖昧に頷く。
「弱小だけど貴族の家に僕らは生まれたからさ、僕にとってはそれなりに窮屈で。でも、トールがいたから僕は僕のまま息ができたんだ。だから、トールは大事な兄弟であり、大事な恩人でもあるんだけど」
リリーは写真に視線を戻す。
「一回、失いかけたんだよね」
「魔獣との戦いのことですか?」
「そうそう。さっきさ、そのとき救ってくれたのがアイラのお父上だってトールから聞いて、僕も写真にお礼を言いたくなってさ。うん。ありがとうございました」
リリーは、先日のトールと同じように、写真に向かって深く頭を下げた。
「で、だ!」
頭を上げた後、リリーはパッと表情を変えて、アイラに笑った。
「僕にとって、君は恩人の恩人の娘なんだなーって思ったら、俄然やる気でちゃったわけ!それに、僕の研究テーマである『加護』とはなにか、ってこともなんか言及できそうな感じだし、むしろそっちがメインなんだけど、あ、いや、恩を感じてないわけではないんだよ、これはほんと!」
どっちも本音だから!と強調するリリーに、アイラは思わず、くす、と笑ってしまった。
「あ、笑ったね。いい感じ!」
リリーはそう親指を立てて、そうそう、これあげる、とアイラにアンクレットを一つ渡した。
「精神支配系の魔法に、かかってるかかかってないか、判断する魔道具だよ。かかってるか心配な相手に向けてみて。ここの真珠みたいなのが赤くなったらかかってるってこと。変わらなかったら、かかってないってこと。百パーセントの精度とまではいかないけれど、君の学園で魅了にかかった人を探すのに使った魔道具だから、結果は信じて大丈夫なはずだよ」
ほら、僕に向けてみてくれる?とリリーがいうので、アンクレットを腕にはめてそっとリリーに向けてみる。
色は、変わらなかった。
「ちょっとは、安心できるでしょ?」
「…ありがとうございます」
ここの研究員の人は、アイラの「自分の意志ではなかった」という言葉を、可能性を、少しずつ証明してくれようとしている。
そう思うと、少しだけ前を向いても許されるような、そんな気持ちになった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~
上下左右
恋愛
クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。
疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。
絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。
一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。
本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる