12 / 19
第11話 アイラの父とトールの関係
しおりを挟む
そのあと可能であれば血を調べさせてほしい、と言われたので、アイラは快諾した。
「どれくらいでもいるだけ取ってください」という言葉に、ディックが慌てて「ほんのちょっとで大丈夫だからね!?」と返す。そして、準備があるから、と一旦部屋を出ていき、ビアンカとアルトも別の用事があるからと退出したので、今日最初に担当だといった三人が残った。
「なあ」
三人になって、じゃあ一旦休憩でお茶でも飲もうとミィとリリーが準備しに行ったところで、トールが鞄の中にしまい直した写真を指さして、「少しだけ見せてくれねぇ?」と頼んできた。
トールが写真を乱暴に扱うとは思えなかったので「どうぞ」と渡すと、しばらく写真を眺めた後、アイラに写真を返しながら、「アイラの父親って、ウィルスさん、だよな?」と言った。
父親の名前を突然言われて、きょとん、と瞬きをしたアイラに「あれ、違ったか?」とトールが少し慌てたので、「いえ、あってます」と返す。
「やっぱりだよな。うん。資料で名前見た時にもしかして…とは思ったんだけどさ」
「父が、なにか…?」
トールがうんうん頷く様子に、アイラが首を傾げると、トールは左腕の肘のあたりまで袖を捲って見せた。
そこには、大きな古い傷跡があった。
「さっき、上級魔法使ってもらった経験があるっていっただろ?」
「はい」
「俺、昔は魔法騎士団に配属されてたんだ。で、その時に大型の魔獣との戦闘になって、危うく左腕引きちぎられかけてな」
魔法騎士団は、魔法庁の管轄にある、魔法と剣をどちらも使用するエリートである。主に、大型の魔獣の討伐や、大きな災害の復興に魔法が必要な時などに活躍する。
「で、その引きちぎられかけたぶらぶらの腕を引っ付けてくれた癒し手がいたんだけど、それが、アイラのお父上だったんだなーと思って」
アイラにとってはかなり幼い頃の記憶だが、大きな戦いがあるから癒し手として参加する、と父が出かけたことがあった。もしかしたら、その時の話なのかもしれない。
「魔物の牙でやられた傷って、治りが遅い上に高確率で毒で死ぬってのは、アイラは知ってるか?」
「はい。父から教えてもらったので」
「じゃあ、それをくっつけた上で動くようにできるってのがどれくらいすごいことかも?」
「わかります」
そこまで言ったあとに、トールはニカッと笑って見せた。
「あの時は意識朦朧としてたから、ちゃんとお礼言えなくてさ。解毒薬まで処方してもらってたってのに」
「父も、討伐が終わった後はすぐ引き上げたと言ってましたから」
上級治癒魔法で治したと言っても、それは完治ではないから、安静期はしばらく続く。毒による衰弱の危険があるならなおさらだ。
しかし、ウィルスはウィルスで、地元に残してきた患者を、いくら妻が居るとはいえ、いつまでも放っておくことはできなかった。
「動けるようになってからも、騎士団から研究室に移る関係でバタバタしててさ。そのうちに、亡くなったって噂だけは聞いてた。…だから、写真に向かってではあるけど」
トールはアイラの手にある写真に向かって頭を下げる。
「命を救っていただき、ありがとうございました」
父が繋いだ命が、罪を償うためにやってきたはず場所で、いま目の前に在る。
その不思議な縁に、アイラの目にはまた、じわりと涙が浮かんだ。
「どれくらいでもいるだけ取ってください」という言葉に、ディックが慌てて「ほんのちょっとで大丈夫だからね!?」と返す。そして、準備があるから、と一旦部屋を出ていき、ビアンカとアルトも別の用事があるからと退出したので、今日最初に担当だといった三人が残った。
「なあ」
三人になって、じゃあ一旦休憩でお茶でも飲もうとミィとリリーが準備しに行ったところで、トールが鞄の中にしまい直した写真を指さして、「少しだけ見せてくれねぇ?」と頼んできた。
トールが写真を乱暴に扱うとは思えなかったので「どうぞ」と渡すと、しばらく写真を眺めた後、アイラに写真を返しながら、「アイラの父親って、ウィルスさん、だよな?」と言った。
父親の名前を突然言われて、きょとん、と瞬きをしたアイラに「あれ、違ったか?」とトールが少し慌てたので、「いえ、あってます」と返す。
「やっぱりだよな。うん。資料で名前見た時にもしかして…とは思ったんだけどさ」
「父が、なにか…?」
トールがうんうん頷く様子に、アイラが首を傾げると、トールは左腕の肘のあたりまで袖を捲って見せた。
そこには、大きな古い傷跡があった。
「さっき、上級魔法使ってもらった経験があるっていっただろ?」
「はい」
「俺、昔は魔法騎士団に配属されてたんだ。で、その時に大型の魔獣との戦闘になって、危うく左腕引きちぎられかけてな」
魔法騎士団は、魔法庁の管轄にある、魔法と剣をどちらも使用するエリートである。主に、大型の魔獣の討伐や、大きな災害の復興に魔法が必要な時などに活躍する。
「で、その引きちぎられかけたぶらぶらの腕を引っ付けてくれた癒し手がいたんだけど、それが、アイラのお父上だったんだなーと思って」
アイラにとってはかなり幼い頃の記憶だが、大きな戦いがあるから癒し手として参加する、と父が出かけたことがあった。もしかしたら、その時の話なのかもしれない。
「魔物の牙でやられた傷って、治りが遅い上に高確率で毒で死ぬってのは、アイラは知ってるか?」
「はい。父から教えてもらったので」
「じゃあ、それをくっつけた上で動くようにできるってのがどれくらいすごいことかも?」
「わかります」
そこまで言ったあとに、トールはニカッと笑って見せた。
「あの時は意識朦朧としてたから、ちゃんとお礼言えなくてさ。解毒薬まで処方してもらってたってのに」
「父も、討伐が終わった後はすぐ引き上げたと言ってましたから」
上級治癒魔法で治したと言っても、それは完治ではないから、安静期はしばらく続く。毒による衰弱の危険があるならなおさらだ。
しかし、ウィルスはウィルスで、地元に残してきた患者を、いくら妻が居るとはいえ、いつまでも放っておくことはできなかった。
「動けるようになってからも、騎士団から研究室に移る関係でバタバタしててさ。そのうちに、亡くなったって噂だけは聞いてた。…だから、写真に向かってではあるけど」
トールはアイラの手にある写真に向かって頭を下げる。
「命を救っていただき、ありがとうございました」
父が繋いだ命が、罪を償うためにやってきたはず場所で、いま目の前に在る。
その不思議な縁に、アイラの目にはまた、じわりと涙が浮かんだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

神嫌い聖女と溺愛騎士の攻防録~神様に欠陥チートを付与されました~
咲宮
恋愛
喋れない聖女×聖女を好きすぎる護衛騎士の恋愛ファンタジー。
転生時、神から祝福として「声に出したことが全て実現する」というチートを与えられた、聖女ルミエーラ。しかし、チートに欠陥が多いせいで喋れなくなってしまい、コミュニケーションは全て筆談に。ルミエーラは祝福を消そうと奮闘するもなかなか上手くいかない。
そして二十歳の生誕祭を迎えると、大神官は贈り物と称して護衛騎士の選択権を授けた。関係構築が大変だとわかっているので、いらないのが本音。嫌々選択することになると、不思議と惹かれたアルフォンスという騎士を選択したのだが……。
実はこの男、筆談なしでルミエーラの考えを読める愛の重い騎士だった!?
「わかりますよ、貴女が考えていることなら何でも」
(なんか思っていたのと違う……!?)
ただこの愛には、ある秘密があって……?
※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しております。
完結いたしました!!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【番外編完結】聖女のお仕事は竜神様のお手当てです。
豆丸
恋愛
竜神都市アーガストに三人の聖女が召喚されました。バツイチ社会人が竜神のお手当てをしてさっくり日本に帰るつもりだったのに、竜の神官二人に溺愛されて帰れなくなっちゃう話。

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく
おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。
そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。
夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。
そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。
全4話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる