愛情不信聖女と魔術ばか王子のまったり研究ライフ

ゆるゆる堂

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第9話 アイラの加護を調べよう

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「じゃあ、次は加護の確認しようか」

 アルトがそういうと、にこりと笑ってアイラの前に座った。

「あの…、加護の鑑定は神官様がなさるのでは…」

 少なくとも前はそうだった、とアイラが言うと、基本的にはそうだね、とアルトも頷く。

「ただ、今回は特殊なパターンになるからね。魔封じの加護をもつ神官はそうそういない…というか、僕の知る限り一人しかいなくて、その彼はすぐにここに来ることができる人ではないからさ。だから代わりに、僕が“鑑定”の魔道具使って仮検査をします」

 魔道具だから、神官の使う鑑定ほどの精度はないんだけどね、と注釈をつけた上で、アルトはディックに声をかけた。
 ディックは頷いて、蓋の部分に小さな水晶の付いた小さな箱を持ってくる。
 細かい装飾が施されたそれには、指が一本入るだろうか、という小さな穴が空いていた。

「この穴に、中指を入れてもらっていいかな。そしたら、この上の水晶のところに加護の名前が浮かび上がる仕組みになってる。ただ、さっきのとんでも魔力量みたいに、なにかエラーが起きる可能性もあるから、ちょっとでも違和感や痛い、辛いっていう感覚があったらすぐ指を抜いてね」
「わかりました」

 アイラはふぅ、と一つ深呼吸してから、ゆっくりと穴へ中指を差し込んだ。
 痛いと言うのはない。ただ、妙に包まれるような暖かさ。1番近いのは、上級の治癒魔法をかけられているときの感覚だろうか。そういう感じがして、それが不思議だった。これは、伝えたほうがいいと思ってアルトの顔をみると、アルトの口がぽかん、と開いている。

「アイラ」
「は、はい」
「君の加護、女神の加護じゃなかったっけ?」
「え、ええ、そのはず…ですが…」

 一体なんて書いてあったんだろう、と不安になって、水晶を覗き込むと、そこに書かれていたのは『ごめんなさい』の一言だった。

 
「ごめんなさい、の、加護…?」
「いや、意味わかんないよね?」

 さっきまで顔を真っ赤にしていたはずのミィが水晶を覗き込んで首を捻る。ディックも続いて、唸った。

「精度がどうこう、って言う話でもなさそうだけど…」とアルトが魔道具を見ながらぽりぽりと頬を掻く。
「とりあえず、いまわかることは整理しておこーよ」

 リリーは持っていた資料の束をペラリとめくった。資料の次には白紙が挟まれていたようで、どうやらそこにメモをとるらしい。

「アイラが指を入れて、水晶に文字が描かれたという動き自体は正常だよね。だけど文字の意図は不明」
「アイラは?なにか変わった感じあった?」

 アルトからの問いに、アイラは少し考えてから、指を入れたときに上級治癒魔法を受けているような感覚を受けた、と伝えた。

「なるほど。そんな感覚があったって報告は他にもあったっけ?」
「聞いたことはないよねぇ」

 アルトの確認に返したのはディック。彼はそのまま続ける。

「暖かい、という反応は稀にあるけどさ…。ただ、上級の治癒魔法を受けるという経験自体あまり頻繁あることじゃないじゃん?だからなんとも」
「あ、じゃあ、俺が指入れてみるってのはどうだ?」

 トールが右手を上げた。

「前に左腕ヤった時に上級治癒魔法かけてもらったことあるし、完全に感覚おぼえてるわけじゃないけど、近いもの感じるかもしれないだろ?」

 提案に反対意見は出なかったため、ごめんなさいという文字が消えてから、今度はトールが魔道具に指を入れてみた。
 描かれた文字は「魔封じ」。彼の自認している加護と相違ない。

「トール、どう?」

 わくわく、と顔に書いてあるリリーが訪ねるが、トールは眉を寄せた。

「よくわからん。暖かい、というのも特にないな」
「そっかー。ね、せっかくだから全員試してみよーよ」

 リリーはトールの言葉を簡単にメモしてから、そう言った。結果、全員「魔封じ」という文字がでて、それ以外変わったこともなく、また首を傾げることになった。

「あ、あの、上級治癒魔法っぽいというのも、もしかしたら私の勘違いかもしれませんし…」

 居た堪れなくなったアイラがそういうが、アイラ以外が首を横に振る。

「そう言うのは良くないわ、アイラちゃん」
「そうそう!研究なんてのは、トライアンドエラーエラーエラー!って感じで進むものだよ。その時に大事なのが『違和感』だったりするんだ」
「勘違い、どんとこいってことだ。何か違和感を感じたら、それについて徹底的に調べて、本当に勘違いだったかどうか検討する」
「そうやって、一つ一つ可能性を潰していくのがまた面白いんだよねー!」

 ミィたちが口々にそう笑って、最後にアルトが付け足した。

「だからね、アイラ。思いついたこと、気になったことは全部言葉に出して欲しいんだ。協力してくれる?」

 アイラは、なぜか少しだけ泣きそうな気持ちになって、こくん、と小さく頷いた。
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