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第5話 君の魅了にめっちゃ興味あります
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「初めまして。僕はアルト。一応3番目の王子ではあるけど、堅苦しいのはなしにして、いろいろお話したくてここにいます!」
ビアンカに引き取られた翌日、眠ったか眠ってないかわからない夜を過ごしたアイラの前に現れたアルトは、頭の上にワクワクという文字が見えるかのような笑顔を浮かべていた。それが少し怖くて、アイラが困ったようにビアンカを見ると、ビアンカも小さく苦笑を返す。
「変わった方ですが、怖い人ではありません。それに、アルト様も私と同じ魔封じの加護を持っておりますので、その点も安心して大丈夫ですよ」
「ええと、はい…」
何故、王子様が自分の目の前で「お話ししたい」などと言っているのか。今日にでも処刑されるのではないかとすら思っていたアイラには、今の状況がわからない。
「どこから話そうかな」
アルトはうーん、と少し考えてから、続けた。
「とりあえずね。君には研究室に来て欲しいんだ」
「研究室、ですか」
「そう。国家魔法庁についてはどれくらい知ってる?」
「国の魔術師や、魔術、魔道具についての登録や確認、魔術に関係する事故や事件などが起きればその調査をする機関…ですよね?」
「そうそう。教科書通りの解答すばらしい!」
褒められているのだろうか。
「僕やビアンカは魔法庁の所属なんだけど、そこにね、いろんな魔術の可能性だったり、魔道具だったり、そういうのを研究、実験、試作してる部署があるんだ。その部署を僕らは研究室って呼んでるんだけども」
ずいっとアルトがアイラに近づく。
「僕は君の魅了魔法について、ぜひ!とも!調べてみたい‼︎」
「ひっ」
思わず漏れたアイラの悲鳴に、我に帰ったらしいアルトがすぐに離れてこほんと小さく咳払いをした。
「魔法庁の中でもね、君の魅了が魔法なのか、別のものなのかというのも意見が分かれているんだけどね。そもそも精神に作用する魔法というのはそれ自体が非常にレアだからさ。禁忌とされているというのものあるけど、そもそも使える人がほとんどいないんだ。魅了を実際に使える人がいるなんて、是非とも研究に協力してほしいっていう、僕と研究室からの強い要望。どう、悪い話じゃないでしょ?」
アルトの話を聞きながら、自分の父が薬草について語るときこんな感じだったな。好きなものについて語ると人間は饒舌になるものなのかな、と考えてから、アイラはでも、とその言葉を遮った。
「私、罪人ですよね」
「そうだね」
アルトの即答に、ずきりと胸が痛む。
「でもだからこそだよ」
「え?」
「魅了魔法を使ったということは確かに罪だ。それも、相手に王族がいたしね。だけど、その罪を償う方法として、国家魔法庁への協力という形をとってどうかっていう提案でもあるんだよね」
というか、そっちがメインの建前だった、ごめんごめん、と続けられてアイラの口がポカンと開いた。
「陛下の許可は取ってありますよ」
ビアンカが補足する。
「でも…」
ビアンカは魔法庁の所属と聞いた。婚約者に魅了をかけたような人と一緒にいるのは嫌じゃなかろうか。
「テオ様の件でしたら、気にしないでください。ちゃんと、仲直りしております」
「いやー、あんなテオ初めてみたから面白かったよね」
魅了にかかった人の人格が変わる、というのはアイラ自身何度も見てきたが、面白いと表現しているのは初めて聞いた。
「面白がらないでください、アルト様」
呆れてため息をついてから、ビアンカがアイラに向き直す。
「私見ですけれど、あなたは研究室に行くべきだと思います。もしかしたら、魅了を使えないようにできるかもしれませんし。私は、この魅了があなたの罪だとは、思えないのです」
ビアンカがアイラの手をとる。
少し冷たいその手が、アイラにはとても心地よくて、涙が滲む。
「あ、あとね!君の治癒魔法もやばいんだよ!」
「え?」
「治癒魔法も上位ものだと思うんだけど、同じ魔法を使ってるはずの人と比べると、効果が高いんだ。これについてもね、正直めっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ調べたいから、よろしく!」
ビアンカの手ごと手を掴まれて、その勢いに、アイラは「は、はい」と頷くのが精一杯だった。
「じゃあ、僕は環境と人員配置を整えてくるから!」と言い残してスキップでもしそうな浮かれ具合で去っていくアルトに、ビアンカが「まったく…」と苦笑する。
「怖くないと言いましたが、ある意味で怖かったですね。すみません」
「えっ、あ、いいえ、大丈夫?です」
いくらビアンカが侯爵の娘で第五王子の婚約者だからといって言い方が明け透けすぎないだろうか、とアイラは思ったが、それに気付いたらしいビアンカが小さく笑った。
「私にとっては、アルト殿下というより、直属上司のアルト様というほうが大きいので、つい」
なるほど、と頷いてから、ふと浮かんでくる不安が溢れた。
「あの、研究室って…」
いろんな実験とかされるんだろうか。
たくさん血を抜かれたり、治癒魔法についても言っていたから、どこまで治せるのか、アイラ自身を傷つけて自己治癒魔法をかけさせられたりとか。
昨日までの死へのイメージが、どんどん悪い実験のイメージを運んでくる。
どうやら声にも出ていたようで、ビアンカが目をぱちくりとさせていた。
「そんな非人道的な実験はされませんよ」
「でも」
「別に、極刑の代わりに行くというわけでもないのですから。あなたの魅了についてはわからないことが多すぎるので、まずはきちんと調べてみないことには、どのような罪が適切なのかもわからない、というのが陛下のお考えです」
それは、研究の結果次第では極刑もあり得るということだろうか、とアイラは思ったが、それは心の中だけで呟く。
「良くも悪くも研究室は変わった人の多い場所。貴族も平民もまぜこぜで、…そうですね、アルト様のような人がたくさんいると思ってください」
ビアンカの最後の言葉に、アイラ別に意味で、少し研究室に行くのが怖くなった。
ビアンカに引き取られた翌日、眠ったか眠ってないかわからない夜を過ごしたアイラの前に現れたアルトは、頭の上にワクワクという文字が見えるかのような笑顔を浮かべていた。それが少し怖くて、アイラが困ったようにビアンカを見ると、ビアンカも小さく苦笑を返す。
「変わった方ですが、怖い人ではありません。それに、アルト様も私と同じ魔封じの加護を持っておりますので、その点も安心して大丈夫ですよ」
「ええと、はい…」
何故、王子様が自分の目の前で「お話ししたい」などと言っているのか。今日にでも処刑されるのではないかとすら思っていたアイラには、今の状況がわからない。
「どこから話そうかな」
アルトはうーん、と少し考えてから、続けた。
「とりあえずね。君には研究室に来て欲しいんだ」
「研究室、ですか」
「そう。国家魔法庁についてはどれくらい知ってる?」
「国の魔術師や、魔術、魔道具についての登録や確認、魔術に関係する事故や事件などが起きればその調査をする機関…ですよね?」
「そうそう。教科書通りの解答すばらしい!」
褒められているのだろうか。
「僕やビアンカは魔法庁の所属なんだけど、そこにね、いろんな魔術の可能性だったり、魔道具だったり、そういうのを研究、実験、試作してる部署があるんだ。その部署を僕らは研究室って呼んでるんだけども」
ずいっとアルトがアイラに近づく。
「僕は君の魅了魔法について、ぜひ!とも!調べてみたい‼︎」
「ひっ」
思わず漏れたアイラの悲鳴に、我に帰ったらしいアルトがすぐに離れてこほんと小さく咳払いをした。
「魔法庁の中でもね、君の魅了が魔法なのか、別のものなのかというのも意見が分かれているんだけどね。そもそも精神に作用する魔法というのはそれ自体が非常にレアだからさ。禁忌とされているというのものあるけど、そもそも使える人がほとんどいないんだ。魅了を実際に使える人がいるなんて、是非とも研究に協力してほしいっていう、僕と研究室からの強い要望。どう、悪い話じゃないでしょ?」
アルトの話を聞きながら、自分の父が薬草について語るときこんな感じだったな。好きなものについて語ると人間は饒舌になるものなのかな、と考えてから、アイラはでも、とその言葉を遮った。
「私、罪人ですよね」
「そうだね」
アルトの即答に、ずきりと胸が痛む。
「でもだからこそだよ」
「え?」
「魅了魔法を使ったということは確かに罪だ。それも、相手に王族がいたしね。だけど、その罪を償う方法として、国家魔法庁への協力という形をとってどうかっていう提案でもあるんだよね」
というか、そっちがメインの建前だった、ごめんごめん、と続けられてアイラの口がポカンと開いた。
「陛下の許可は取ってありますよ」
ビアンカが補足する。
「でも…」
ビアンカは魔法庁の所属と聞いた。婚約者に魅了をかけたような人と一緒にいるのは嫌じゃなかろうか。
「テオ様の件でしたら、気にしないでください。ちゃんと、仲直りしております」
「いやー、あんなテオ初めてみたから面白かったよね」
魅了にかかった人の人格が変わる、というのはアイラ自身何度も見てきたが、面白いと表現しているのは初めて聞いた。
「面白がらないでください、アルト様」
呆れてため息をついてから、ビアンカがアイラに向き直す。
「私見ですけれど、あなたは研究室に行くべきだと思います。もしかしたら、魅了を使えないようにできるかもしれませんし。私は、この魅了があなたの罪だとは、思えないのです」
ビアンカがアイラの手をとる。
少し冷たいその手が、アイラにはとても心地よくて、涙が滲む。
「あ、あとね!君の治癒魔法もやばいんだよ!」
「え?」
「治癒魔法も上位ものだと思うんだけど、同じ魔法を使ってるはずの人と比べると、効果が高いんだ。これについてもね、正直めっっっっっっっっっっっっちゃくちゃ調べたいから、よろしく!」
ビアンカの手ごと手を掴まれて、その勢いに、アイラは「は、はい」と頷くのが精一杯だった。
「じゃあ、僕は環境と人員配置を整えてくるから!」と言い残してスキップでもしそうな浮かれ具合で去っていくアルトに、ビアンカが「まったく…」と苦笑する。
「怖くないと言いましたが、ある意味で怖かったですね。すみません」
「えっ、あ、いいえ、大丈夫?です」
いくらビアンカが侯爵の娘で第五王子の婚約者だからといって言い方が明け透けすぎないだろうか、とアイラは思ったが、それに気付いたらしいビアンカが小さく笑った。
「私にとっては、アルト殿下というより、直属上司のアルト様というほうが大きいので、つい」
なるほど、と頷いてから、ふと浮かんでくる不安が溢れた。
「あの、研究室って…」
いろんな実験とかされるんだろうか。
たくさん血を抜かれたり、治癒魔法についても言っていたから、どこまで治せるのか、アイラ自身を傷つけて自己治癒魔法をかけさせられたりとか。
昨日までの死へのイメージが、どんどん悪い実験のイメージを運んでくる。
どうやら声にも出ていたようで、ビアンカが目をぱちくりとさせていた。
「そんな非人道的な実験はされませんよ」
「でも」
「別に、極刑の代わりに行くというわけでもないのですから。あなたの魅了についてはわからないことが多すぎるので、まずはきちんと調べてみないことには、どのような罪が適切なのかもわからない、というのが陛下のお考えです」
それは、研究の結果次第では極刑もあり得るということだろうか、とアイラは思ったが、それは心の中だけで呟く。
「良くも悪くも研究室は変わった人の多い場所。貴族も平民もまぜこぜで、…そうですね、アルト様のような人がたくさんいると思ってください」
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