愛情不信聖女と魔術ばか王子のまったり研究ライフ

ゆるゆる堂

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第4話 ビアンカと魅了の解けた婚約者

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「さて、そろそろ目は覚めましたか、テオ様」

 魅了にかかったと判断されたものは、魔封じが施された部屋でその魅了が解けるまで隔離されることとなった。
 魅了魔法をはじめ精神支配、精神汚染系の魔法の厄介なところはその対象から離れてもしばらくは支配から逃れられないところだ。
 第五王子テオは、1週間ほどこの部屋に閉じ込められていた。
 はじめのうちは、僕はあの子を愛している、幸せにできるのは僕だけだ、こんなふうに引き離されようと心は変わらない、などと言っていたテオだったが、今日、完全に解けたらしく、ビアンカが部屋を訪ねると、ベッド上で頭を抱えてうずくまっていた。

「テオ様?」
「穴があったら入りたい……」

 もともと、テオは真面目で穏やかな青年だ。クールなビアンカとも良い関係を築いていた。

 魅了に、かかるまでは。

「すまないビアンカ。婚約を破棄されても文句の言えないようなことを君にしてしまった。心の底から謝罪するよ……」

 先ほどまでは、自分の発言などに苦悶していたテオだが、ビアンカに向き直すと、深く頭を下げた。
 魅了にかかったと判断されたものは、現時点でほとんど解けているというが、テオのように恥じ入る者は少なく、「深い愛があれば魅了に洗脳されることはない」などという俗説をもって相手に逆ギレする人が多かった。
 精神支配系魔法は、魔封じの加護か、よほど強い精神力がないと抵抗は難しいと言われている。
 魔封じの加護を持つ人間は、決して多いわけではない。
 愛を精神力とするなら、確かに強い愛は抵抗の一助にはなるだろうが、それだけで強い魅了を跳ね除けるのは困難だ。

「テオ様、顔をあげてください」
「しかし、僕は君にどんな顔をみせればいいのか分からない」
「あら。いつも通りでいいのですよ。なんだか頼りなさげに微笑んでくだされば、それで」
「頼りなさ気…」

 ビアンカの言葉選びにこちらへの思いやりが見えて、テオは眉を下げて笑った。

「君のその心遣いに、感謝するよ。ビアンカ」
「こちらこそ、テオ様のお心が魅了後も変わらず優しいものであったことに、感謝をいたします」

 テオが魅了から解放されたことを確認して、ビアンカはメイドにお茶の準備をさせた。そのお茶を飲みながら、テオは自信が魅了にかかっていた時のことを思い出す。

「恋に落ちる、というのが確かに一番近い気がするな。だんだん目で追うようになって、彼女がいかに素晴らしいかということばかりが頭を染める。ただ、可愛いとかドキッとするとかよりも、彼女がいなければ世界が終わる、みたいな気持ちになるんだ」

 テオは報告書として自分がビアンカに語る内容を紙にも書き起こす。

「僕はビアンカのことを愛しているけれど、その気持ちとは、似ているようで違う。そばにいたい、安心する、そんな思いは全くなくて、全部「しなければならない」に変換されていたともいえるかな。愛さなければいけない。そばにいなければいけない、彼女が絶対でなければいけない、というふうに…。あれ、どうしたんだい、ビアンカ」
「…いえ」

 本当に魅了だったんだな、とビアンカは内心で思っていた。
 クールで表情が出にくい分ビアンカが第五王子に対してそっけないと評価されることは多いが、実際のところ、この二人は相思相愛であった。だからこそ、【魅了】というワードがあったとしても、「もしかして」と思うビアンカが傷つかなかったわけではない。
 だから、何ともなしに「愛してる」や「君への想いとは違っていた」などと言われると、その傷がじわりと癒えていくような気持ちになって、少しだけ目が潤んでしまった。
 人の気持ちに聡いテオはすぐに理解して、「抱きしめてもいいかな」とビアンカに尋ねた。はい、とビアンカが頷くと「本当に、ごめんなさい」と呟いてからぎゅう、と強く抱きしめた。

「傷つけて、ごめんね」
「いいえ、いいえ。戻ってくださって、本当によかったです」

 小さなキスは、すこしだけ涙の味がした。
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