愛情不信聖女と魔術ばか王子のまったり研究ライフ

ゆるゆる堂

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第3話 第三王子の考え

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「どう思いますか?アルト殿下」

 ビアンカが部屋から出ると、扉の横の壁にもたれるように立っていたのは、第三王子のアルトだった。
 ビアンカは学生でもあるのだが、それよりも彼女の魔封じの加護の力から、どちらかというと国家魔法庁の職員としての立場で動くことの方が多い。今回は確かに自分の婚約者の後始末という部分が大きかったが、魔法庁としての仕事でもあった。
 そして、第三王子であるアルトは、魔法庁のトップだ。
 ビアンカと同じく魔封じの加護があり、魔道具の開発が得意な彼は、自身が作った魔道具が粉々になったということもあって、様子を見に来ていた。

「嘘は、なさそうだよね」

 アルトは手に持った、特性魔道具「うそみっけ」の数値を確認しながらそう呟く。

「もちろん、うそみっけは開発途上の作品だからこの結果は絶対じゃないけれど」
「私も、彼女が嘘をついているとは思えなかったのですが、……無意識に魅了を使い続けるなんてこと、可能なのでしょうか」
「うーん、そこだよねぇ」

 そもそも、魔法を発動するのには魔力が必要になる。彼女は魅了の他に癒し手として治癒魔法も頻繁に使っていた。
 それも、かなり上位のものを。
 普通なら魔力切れで失神待ったなし。
 魅了の魔法は禁忌と言われているし、使える人間なんてほとんどいないため(実際アイラの前に魅了が確認されたのは百年以上前のことだ)そこにどれほどの魔力が必要なのかもわからないから、不可能とも言い切れないが、それ以前に、わからないことが多すぎて、実はアイラの魔法が本当に【魅了】なのか、というのも魔法庁での見解も別れているほどだ。
 また、魔法を使うには「イメージ」が重要と言われている。体の中にある魔力を、どのような形でどのように発現するかしっかりとしたイメージがないと魔力だけが空中霧散して魔法は発動しない、というのが現時点の常識だ。
 だからこそ、アイラが気を失っている間は魔封じを施さなかった。
 意識していないのに発動するなんて、魔法という概念に置いて、そんなことある?という眉唾ものでもあるのだ。
 それに、魔封じの魔道具は正確にいうと「精神支配系魔法を無効化する」という代物だ。
 使おうとしてもイメージが固定されないようにして、魔力だけ消費する、という魔法がかけられたもの。
 効かないだけならともかく、その魔道具が砕け散ったというのだから、さらに謎が深まる。
 しかし魔封じの加護を持ったビアンカやアルトに効かない、加護持ちが部屋にかけた魔封じは効力がありそうだ、というところから、やはり精神支配系魔法であるのではないか、とも言える。
 アルトは唸ったあとに、

「まあ、発展において常識ほど邪魔なものはないからね」といった。

 アルトは腕を組んだまま、「とりあえず、僕もあの子と話してみたいんだけど」とビアンカにいうが、ビアンカは首を横に振る。

「今は、少しそっとしておいてあげたほうが良いでしょう。この部屋の扉や窓は彼女の意志で開けることはできませんし、……そもそも逃げるとも思えませんので」
「そう。じゃあ、明日、どこかのタイミングで会わせてもらっていいかな」
「承知いたしました。…ですが」
「ん?」
「まずは、書類仕事終わらせておいてくださいね。アイラの件は確かに緊急重要案件ですが、普段の仕事がなくなるわけではないので」

 次長に叱られますよ、と付け加えたビアンカに、アルトはあはは、と首をすくめた。
 




 ビアンカがいなくなってから、少し眠るようにと言われたこともあって、アイラは再びベッドに横になっていた。
 眠気は来ないので、ぼんやりと天蓋を眺めて考える。どう生きたいか、とビアンカは聞いた。しかし。

「たぶん、死刑になるだろうな」

 死ぬのは怖い。もっと生きたい。それはある。
 けれどこれ以上、自分の魅了で人の人生を狂わせては行けないのだという冷静さもあった。無意識で魅了を使っていた、ということは、自分でこの能力を制御できないということだ。精神支配系の魔法はそのほとんどが禁忌とされている。そんな禁忌を垂れ流して人を狂わせるような存在が生きていていいとは思えない。
 せめて、制御できたなら。もしくは完全封印する術があるのなら。
 そんな夢を見ていいなら、癒し手として生きていきたい。穏やかに、本当に私を愛してくれる人と、結婚して子どもを産んで。
 ああ、だめだ。魔法の才能というのは高い確率で遺伝する。両親は違っていたけれど、もし魅了の魔法が子どもに遺伝してしまったら、と考えるとゾッとした。

「やっぱりすぐに死ぬのが一番な気がしてきたなぁ」

 処刑になるのだとしたら、あんまり痛いのは嫌だなぁと思う。なんだっけ、ギロチンだっけ。そんな一瞬で、天に召される方法がいいな、なんて。

 思考が暗い、というのはどこかで思っていたが、そういう思考にならざるを得ないような状況であることには本人は気づいていなかった。

 彼女は、ただ、「自分が悪かった」という一点だけに、心底打ちのめされていた。
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