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その花だれの?龍のもの
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幼い頃からずっと、「あなたは龍神様のお嫁になるのだから」と厳しい修行を強いられた。
龍神様に支えている一族の本家の娘。一番最初に生まれた娘。それだけで、神に嫁ぐとく役割を押し付けられた。
龍神様は優しい神様だったから、自分の嫁になる娘がズタボロになりながら必死に霊力を磨いているのを見てはオロオロなさっていて、絶世の美形のオタつく姿はそれはそれで可愛らしくて…、いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく、ずっとずっと頑張ってきたのだ。嫁ぐために。一族のために。
それなのにさ、なんだよもう。
分家のかなり端の方にある家に、花のあざをもって生まれてきた子がいる。
そして、我が一族には花の乙女と呼ばれる、龍神様の番になる魂を持った少女の言い伝えがあって、特徴は、持って生まれた花のあざ。
もう何十年も生まれていなかったらしいその乙女が生まれていたことを、分家のみんなは隠していたんだって。その子の未来を守りたいとかなんとか言ってさ。
その子と私は同い年だ。
「まったく、ひどい話だと思いませんか?龍神様」
「実花ちゃん、ミニスカートであぐらはかかないほうが…」
「龍神様のことは好きですけども、そんな存在がいるなら、もっと早く言ってくれたら、私あんなしんどい思いして修行しなくてもよかったと思うんですよね」
「あの、ぱ、ぱんつ見えちゃうから…」
「ああでも、どんな子か会ってみないと。龍神様にふさわしいかちゃんと見極めないと!」
「実花ちゃんってば!」
「え?」
まずは花の乙女ちゃんに会わねば!と決意を固めたところで、龍神様が大きな声をだした。そちらをみると、両手で顔を覆って、耳まで赤くなった龍神様が
「勘弁してよぉ」とへにょへにょ言った。
「下、ズボン履いてるから大丈夫ですよ?」
「めくらないでーっ!」
僕、今日は帰るね、と龍神様は空気に溶けるように姿を消した。
本来、龍神様と嫁になる少女は、嫁ぐその時までは会わないらしいけれど、私と龍神様はたまたま修行中に鉢合わせて、そこからなんか時々こういう会話をする仲だ。
めんどくさそうだから一族の誰にも言っていないけれども。
「んー、龍神様帰っちゃったし、私も帰るかー。今日の分の修行…はどうしようかな」
花の乙女がいるなら私が修行する意味ある?
少し考えてから、まあ、もう毎日のお風呂くらいの習慣だしな、と修行はサボらないことに決めた。
「あなたが花の乙女なのね?」
「は、はい」
「名前は?」
「花奏、と申します…」
数日後、本家にやってきた花の乙女。同席しろと言われたので、当主のおばあさまの横に座って、その人となりを観察してみた。
青い顔した両親に挟まれて目の前に座っている少女は、十人いたら十人が「美少女」だと頷くだろう美少女だ。つやっつやの黒髪を肩の下くらいまで伸ばしていて、目も大きくてまつ毛はばっさばさ。色白だし、唇のかたちもきれい。私の語彙力じゃとてもじゃないけど、表現できない。とにかく可愛い。不安そうな表情すら、いやもう、可愛い。
「今日から本家で過ごしなさい。龍神様に嫁ぐための準備を始めます」
おばあさまの言葉に、そんなっと息を呑んだのは本人ではなく両親だった。
「龍神様には実花様がいらっしゃるではありませんか」
「黙りなさい」
花奏ちゃんのお父さんの言葉を、おばあさまがぴしゃりと遮った。
「実花が修行していたのは、花の乙女がいなかったから。花の乙女が産まれていた以上、実花に嫁の資格はありません」
じゃあ、なんで私いまここに同席してるんでしょーか。
しないけどさ、しないけど、これ、私が花奏ちゃんいじめようとしたりしてもおかしくない状況じゃないでしょーか。
「輿入れは十八歳。花奏はもう十七でしょう。よくもまあ十七年間も本家を騙したものです」
おばあさまの声は、とても威圧的だ。声に霊力を載せているとかなんとか言ってた気もするけど、少なくとも花奏ちゃんの両親は失神しそうなほど顔の色をなくしていて、本家のお手伝いさんたちに引きずられるように連れて行かれた。
かなで、かなで、と泣きそうな声で花奏ちゃんを呼んでいて、ちょっともらい泣きしそうになってしまう。
「実花」
「はい、なんでしょう」
「花の乙女を部屋に連れていきなさい。あなたの横の部屋を整えてあります」
そういればガタゴトいってたな。
「わかりました」
おばあさまはそれだけ言うと客間から出ていった。
花奏ちゃんは、不安そうな顔をしたまま、正座して、私の言葉を待っているようだった。
「ええと、とりあえず」
「はい」
「足、痺れてない?」
「え?」
私の言葉に、花奏ちゃんはきょとん、と目を丸くした。
「いや、正座って慣れないとひどいことになるでしょ?」
「あ、え、あ、…だ、大丈夫です、慣れてます」
「そう?じゃあ、とりあえず部屋行こっか。多分だけど、綺麗にはしてあると思うよ。龍神様のお嫁を雑に扱うなんてことはしないはずだし、まあ、修行はあれだけど」
立ち上がりやすいように手を出すと、花奏ちゃんはおずおずとその手をとってくれた。
花奏ちゃん用の部屋は、殺風景だけどきちんと整えられていた。
今日からここに住むなんてつもりはなかっただろう花奏ちゃんの私物は全くないが、後日たぶん送られてくるだろう。本家に分家が勝てるはずがないから。
「ね、ちょっとだけ喋らない?」
「え?」
花奏ちゃんが、ちょっとだけ警戒したのが分かった。うんうん。流されるだけの子じゃないのは高得点ですよ。
「ベッド座っていい?」
「は、はい」
「あなたもどうぞ?」
「え、あ、はい」
隣に座った花奏ちゃんからは、なんか、いい匂いがする。
美少女は匂いまで美しいものなのかしら。なんて。
「花奏ちゃん、って呼んで大丈夫?」
「はい」
「敬語じゃなくていいよー。同い年だし、花奏ちゃんがお嫁さんになるなら、立場的には花奏ちゃんのが上になるし。あ、私は実花。実る花って書いて実花だよー」
「みか、さん」
「ちゃんがいいな」
「実花ちゃん」
「そうそう」
実花ちゃん、と呼んだあと、花奏ちゃんはほぅ、と息を吐いた。
「その、実花ちゃんは、…私の存在って邪魔とかじゃないの?」
「おお、いきなりすごい所ついてくるね」
「あ、ご、ごめん」
さあ、と青くなった顔に嘘はなく、性格もいいのではないか?いやいやまだそんな早く判断するわけにはいかない。
龍神様をきちんと支える子であって欲しいもんね。なんて考えながら、ぽんぽんと背中を撫でた。
「実花ちゃん?」
「とりあえず、なんだけど」
「う、うん」
「今は感情が追いついてないってのが、多分正解なんだよねぇ」
物心ついてから、そうだな、多分十年くらいはずっと自分は龍神様のお嫁さんになると思っていた。
言葉通り血が滲むような修行は辛かったし、泣きながらなんで私がと思ったことも一度や二度じゃない。
逃げ出そうと思ったこともあった。
そう言う意味では、本来それをするはずだった花奏ちゃんがずっと守られていたことに思うところがないわけではない。
けれど、花奏ちゃんが自身が花の乙女だと知ったのが本当につい最近だというのも情報として知っているせいか、花奏ちゃんの両親にふざけんなとは思っても、本人へのヘイトはなんか浮かんでこない。
「とりあえず、龍神様はいい人だよ」
「え?」
いやまあ、人ではないのだけど。
「花奏ちゃんを苛めたり、乱暴するような神様じゃないから、そこは安心して」
「…、実花ちゃんは、龍神様にお会いしたことがあるの?」
「内緒だけどね」
余計なことを言ってしまっただろうか。
というか、十年位隠したことをぽろっと言ってしまったことに自分でもちょっと驚いている。
「そっかぁ…」
花奏ちゃんは、少し考えて、意を決したように私の目を見た。
近い。美少女が近い。なんか無駄にドキドキしてしまう。
「実花ちゃん。私ね、心に決めた方がいてね」
むむ、それは聞き捨てならぬぞ?
「その方がね…、龍神様なんだ」
「へ?」
ひどく、間抜けな声と顔で返事をしてしまった気がする。
そこから説明を受けていると、どうやら花奏ちゃんの住んでいた場所にちょくちょく現れていた「龍神」がいたらしい。
貴方は私の番だ、と言って。
一族については、本家分家というものがある、というくらいの情報しか与えられていなかったらしい花奏ちゃんは自分が花の乙女という存在であることは知らなかったというけれど、自分が龍神に嫁ぐ存在であるというのは、実はずっと知っていたのだという。
まさか、よく遊びにきていた龍神様の棲家がこんな遠いとは思わなかったけれど、と付け加えられて、私はぐるぐると回る、なんだろう、嫉妬?失望?そんな気持ちと戦っていた。
花奏ちゃんに対してじゃない。
今度は龍神様に対してだ。
一言も聞いたことがなかった。自分以外の女性を嫁にしようと思っていたことも、花の乙女を見つけていたことも。
いつだって私に優しかったのは、花の乙女を修行から守るためだったのだろうか。
私はていの良い生贄だったのだろうか。
「実花ちゃん?」
「…むかつく」
「え?」
「花奏ちゃん!」
「は、はい!」
私は花奏ちゃんの手を握って、言った。
「今から龍神様に会いにいくよ!」
龍神様は、修行で使う山の中の特定の場所に行くと、大概姿を表してくれる。だから、今日もその場所にいって、大きな声で呼んだ。
「龍神様!龍神様!実花です、いらっしゃいませんか!」
山登りに慣れてない花奏ちゃんが後ろで息を切らしているのは申し訳なかったけど、とりあえず腹が立って仕方がなかった私は、龍神様をどうにか問い詰めねばと鼻息を荒くしていた。
だってひどいもん。
絶対ひどいもん。
花奏ちゃんが嫁になることだって、本当は認めたくない、というのはさっきの話で気がついた自分の感情だった。
「み、実花ちゃん?どうしたのこんな遅くに…」
いつも通り、ふわり、と空気がゆれて龍神様が現れる。
「龍神様のばか!あほ!」
「え、ええ⁉︎」
唐突な私からの罵倒に龍神様がおろおろと眉をハの字に下げた。
「花の乙女見つけていたなら、なんで言ってくれたかったんです。私に優しくしたんです。私が修行でボロボロになってるの、なんで止めてくれなかったんですか。ひどいです」
「ちょ、ちょっとまって実花ちゃんなにを」
「私は貴方なら嫁いで良いって思ってました。貴方を支えるためなら霊力だって高めようと思ってました!だから痛くても辛くても踏ん張って耐えてたのに、なのになんの裏切りですか!貴方も知らなかった、なら良かった。貴方も私を騙していたなんて知りたくなかった‼︎」
そして、自分が龍神様に対して恋愛感情を持っていたなんてこのタイミングで知りたくなかった。
「ひどいです」
ぼたぼた、と涙が溢れたのがわかった。
「み、実花ちゃん…?」
龍神様はわけがわからない、という声色で私を見つめる。
ここにきてシラを切ろうと言うのか。
だけど私は今日、花奏ちゃんを連れてきているのだ。
「貴方の、本当の嫁です」
そう言って後ろを振り返ると、花奏ちゃんがものすごく困った顔をしていた。
そんな花奏ちゃんを見て、龍神様は「なんで君がここに?」とぽつりとこぼす。ああやっぱり知り合いだったのか、と思った次の瞬間に、花奏ちゃんが言った。
「あ、あの実花ちゃん、このかたは、私の龍神様じゃない、みたい…?」
「落ち着いた?」
「はい…」
とりあえず涙の止まらない私を座らせて、花奏ちゃんと龍神様が背中をぽんぽんと撫でてくれた。
さっきの花奏ちゃんの言葉がよくわからなくて、聞き直す。
「あの、花奏ちゃんさっきのって」
「ええと、…私にもよくわからないのだけど…」
花奏ちゃんの言う「龍神様」と私が嫁ぐ予定だった「龍神様」は違うらしい、というのは花奏ちゃんの表情でわかったけれど、それがどう言うことなのかはわからない。
龍神様が「僕から説明するね」と苦笑して口を開く。
「あのね、まずね、龍神って存在はひとつじゃないんだ」
「どういうことですか?」
「ええと、まず、龍神って土地を守る存在というのは知ってると思うけど、その土地を守るって存在、土地神といわれる存在だね、っていうのは日本にはたくさんいるんだよ。その土地神のうちの一人がぼく。龍が守ってる土地もあるし、狐が守ってる土地もあるし、いろいろあるんだけど…」
「…私は、龍神様がこの日本すべてを守っていると聞きましたが…」
「さすがにそれは無理かなぁ」
十七年信じていた大前提が崩れてちょっと混乱中。
「そっか、うん、そんなふうに伝えられちゃったんだね、立上のお家では」
立上は私たちの家のことだ。
「とにかくね、土地神は日本にいっぱいいて、土地神には土地神のの情報網もあってね。花奏さんだっけ、君のことも知ってるよ」
突然話を振られた花奏ちゃんがびくっと震えた。
「西の黒龍のところの土地の子でしょ?ほら、僕とは違って真っ黒い髪の毛でワイルド~な感じの」
目の前の龍神様は真っ白な長髪でほやほやした雰囲気の、ワイルドさなんてカケラもない穏やかな容姿だ。
「え、あ、そ、そうですね…?」
なんて返したらいいのか困っているのがひしひしと伝わってきたよ花奏ちゃん。
「花の乙女っていうのは、確かに龍神の番に選ばれやすい子ではあるけど、そもそも龍神と呼ばれる存在が一人じゃないってところがいろいろすっぽ抜けてたんだねぇ」
長く龍神様ー本来は白龍様というらしいーにお仕えしているうちに、全国へ一族の血が広がっていき、情報もどんどん歪んで削れていった。
その結果、今回のようなことが起きたのだそうだ。
「黒龍の番を僕が掻っ攫うなんてことはできない。そもそも僕には実花ちゃんがいるし、実花ちゃん以外を貰い受けるつもりはないしねぇ」
ほわ、と微笑まれて、ぼんっと顔が赤くなるのがわかった。
「あれ、実花ちゃん?」
「っっ、りゅ、あ、ちが、白龍様!」
「なぁに?」
「なんで、この間の愚痴った時に、それを教えてくれなかったんですか!」
そこで言ってくれたらあんな泣き顔を晒すこともせずに済んだのに!と睨むと、今度は白龍様が顔を真っ赤にしていた。
「あ、あのときは」
「?」
「実花ちゃんの、ぱんつが見えそうで、それどころじゃなくて…」
ふざけんな、とそう思った私は間違っていないと思う。
「さて、じゃあこの話をどうおばあさまに信じていただくか、かなぁ」
不敬にも白龍様を一発殴らせていただいてから、私は話を戻した。
「一番手っ取り早いのは、僕が直接話すことだとは思うんだけど」
白龍様は顎に手をやりながら、うーんと唸る。
「あとは、黒龍にもきてもらったほうがいいかもね、神が複数いるということを信用してもらないとだから。ああでも、神気が2人分になっちゃったら…きみたちは大丈夫だとして、当主さんは耐えられると思う?」
「私たちにきかれても…」
私と花奏ちゃんは顔を見合わせた。
神気と言われて初めて、空気が澄んでいるなそういえば、と気づくぐらいには私たちは体が龍神様の力に馴染んでいる。
神気というものがあるというのは知っていたけれど、花奏ちゃんがあてられる可能性を考えてなかったことに今更ながら気づいて反省した。
「大丈夫、私も龍神様に会っていたし、結果オーライだよ」
にっこりと微笑んでくれる花奏ちゃんはやっぱり美少女で、ドキドキする。
「うーん、夢での神託って手もあるにはあるんだけど、今まで割と詐欺っぽい使われ方もしてきたせいで、いまいち神託に信憑性がないだよねぇ」
「良いから俺たちが話せばいいだろ。俺の花奏を連れて行こうとしたババァに気を使う必要がどこにある」
突然空気が重くなったかと思うと、そこには黒い髪のワイルドイケメンが立っていた。
「龍神様!」
花奏ちゃんの声にハッとして、ああ、この人が黒龍様か、とすぐにわかる。
「花奏!ひどいことされてないか?辛いことはなかったか?」
「龍神様は相変わらず心配性なんだから」
くすくすと、名前の通り花が音楽を奏でるごとく可憐に笑う花奏ちゃんと、凛々しい顔を心配に歪めて花奏ちゃんを抱きしめる黒龍様は非常に絵になる。素晴らしい、眼福である。
「実花ちゃんが優しくしてくれたし、私もここに来るまでここの龍神様が私の龍神様だと思い込んでたし、何も怖いことなんてなかったよ」
「でもっ、俺はお前が白龍に嫁ぐかもしれないと聞いて、気が気じゃなかった!」
ぎゅう、と花奏ちゃんを抱きしめている腕に力がこもったのがわかる。愛されてるなぁ、花奏ちゃん。と思ったら私も白龍様に抱きしめられた。
「嫁が奪われるかもって恐怖は、ほんと、無理だよねぇ…」
「は、白龍様…っ」
とりあえず、と龍神様二人は私たちを抱きしめたまま、「じゃ、明日にでも行くか」という話でまとめていた。神気の話はもういいのだろうか、と思ったけれど、気合を入れている龍神様に私たちから言える言葉もなく、ひとまずと家に帰ることになった。
「なんか、怒涛の展開だったね」
「本当に…、でもその、花奏ちゃんが白龍様に嫁ぐんじゃなくて、良かったなーとは…思った」
家に帰って、無駄にでかい我が家のお風呂に二人で入ることにした私たちは、湯船に浸かりながらまったりと喋っていた。
花奏ちゃんは体もナイスバディでした。
あ、でも、でも私だってスタイルにはちょっと自信がある。…ってなんの話だ。
「ふふっ、そうだね。実花ちゃんが白龍様にベタ惚れなのもすごく伝わってきたし」
「っ!花奏ちゃんだって似たようなものでしょ…っ」
私たちは今日初めて会ったけれど、なんだろう、初めてあったような気がしない。龍の嫁同士だからなのか、波長があうというか、そばにいるのが心地よい。
「龍神様たち、明日、って言ってたね」
「そうだね。うまく行くといいのだけど」
花奏ちゃんの言葉に「本当に」と頷く。
明日、白龍様と黒龍様はおばあさまの元に行くと言っていた。
何事もなく終わりますように。
私が、白龍様に無事に嫁げますように。
お風呂から上がった私たちは、どちらからともなく無事を祈ってハグをして、それぞれの部屋に戻った。
「おばあさま、お話がございます」
「今日の修行はどうしました、実花」
翌日、龍神様がおばあさまの前に現れる前に、と思っておばあさまの執務室を訪れた私たちにおばあさまはこちらをチラとも見ないでそう言ってくる。
おばあさまの中では私はもう嫁じゃないはずなのに、なんで修行しろといわれなあかんのじゃ!と内心だけで突っ込んで、「修行よりも大切なお話なのです」と返す。
「そんなものあるわけないでしょう」
「あるんです。おばあさま」
さっきよりも語気を強くしてそう返すと、おもいきり眉間に皺を寄せたおばあさまとやっと目があった。
霊力を込めた視線で睨まれて、私の斜め後ろにいる花奏ちゃんが小さく震えたのが見えた。
ふざけんなよクソババア、なんて、お口の悪いことを考えてから、睨み返す。
「こちらの花の乙女は、すでに番を見つけておりました」
「は?なにを」
「龍神様は、おひとりではなく、日本のあちこちにいらっしゃるそうです。花奏さんは、そのうちのお一人と、すでに心を通わせております」
私の言葉に「何を馬鹿なことを」を嘲笑を向けられる。
「龍神様が複数いらっしゃるなんて、そんなわけないでしょう。気でも触れましたか、実花」
「いいえ、私はいたってまともですよ、おばあさま」
「ふざけるのも大概になさい!」
「…っ」
本気のおばあさまの“声”に、押し負けたのかくらり、と視界が一瞬揺れた。花奏ちゃんもだったようで、しまった、と思ったけれど、私たちは倒れることなくしっかりと支えられる。
「白龍様」
「黒龍、様」
龍神様と呼んでいたから、いまいちまだ呼び慣れない、白龍様、黒龍様という呼び方で支えてくれた主を呼ぶと、二人は私たちにふわりと微笑んでから、おばあさまをみた。
睨みつけているわけではないのに、おばあさまはカタカタと震えている。
「ま、さか、…え?」
「さすがご当主。二人分の神気を前に気を失わずに耐えてるねぇ」
「ふん、耐えてもらわんと困る。話ができないからな」
それでもこれ以上は近づけないと判断したのか、龍神様たちは、私たちを支えたまま、その場で話を始めた。
「さっき実花ちゃんが言った通りだよ。僕らはただの土地神。ひとつの神が日の本の国全てを支えるなんてできるはずがない」
「我々と同じ神はこの国のあちこちにいる。神の嫁もまた、お前の一族だけではない」
黒龍様の声が少し怒っている。
「立上の当主よ。花奏は俺の番。白龍の番はそこの娘だ」
「そう。僕の嫁は実花ちゃんだよ。そこの花の乙女じゃない」
龍神二人の声に、おばあさまは「あ、あ」と声にならない声が喉から漏れているだけで、いつもの威厳ある姿なんてどこにもなかった。
神気ってすごいんだな、と思う。
「たしかに立上の一族は霊力が強いし、花の乙女の生まれる確率も高いけどね」
白龍様はそう微笑んで続ける。
「僕らは自分で番を見つける。だからね、自分達の一族だけが特別だなんて思わない方がいい」
おばあさまは、わかりました、と蚊が鳴く様な声で返事をした。後で聞いたことだけど、あそこで返事を返せるだけ、おばあさまは優秀なのだそうだ。
「じゃあ、また会おうね、実花ちゃん」
「うん、私もそっち遊びに行くよ」
また数日がたって、おばあさまから連絡があったのか、花奏ちゃんの両親が花奏ちゃんを迎えにきた。
もう十七なのだから自分で帰れるのにね、と花奏ちゃんは笑っていたけれど、黒龍様も心配していた(自分は行き来できるけど人を連れて長距離は移動できないらしい)から良かったと思う。
ただでさえ、花奏ちゃん超絶美少女だしね。それにしても、龍神様に嫁がなくて良くなったと思ったら違う龍神様に見染められていたとか、花奏ちゃんのご両親も大変だなぁ。まあでも、間違いなく花奏ちゃんが自分で選んだ道だもん、どうにでもなるだろう。
花奏ちゃんの乗った電車を見送ってから、私は白龍様の待つ山へ向かった。
「白龍様ーっ」
「あ、実花ちゃん!」
ぱぁ、と微笑んでくれる白龍様が可愛くて、思わず抱きつくと、白龍様はあわあわと赤くなる。自分から抱きつくのは大丈夫だけど、抱きつかれるのは照れるらしい。ううむ、わからなくはない。
「ねえ、白龍様」
「なぁに?」
「ききたかったことが二つあるんだけど、聞いてもいいですか?」
「答えられることならね」
白龍様がそう頷いてくれたので、私は意を決して聞いてみた。
「じゃあ、まず一つ目。白龍様のお嫁さんって過去にもいっぱいいたんですよね?」
白龍様はぱちくりと瞬きしてから、「それ、わりとややこしくてね」と言う。
「どういうことです?」
「白龍って存在はずっと変わらないんだけどね。白龍の中の意識、具現化している身体というか?みたいなのは、お嫁さんの死と一緒に入れ替わるんだ」
白龍という存在、土地神としての白龍がいなくなるわけではないけれど、嫁いで来てくれた人の生の終わりと共に、生まれ変わるのだという。
「一部記憶の継承はあるけれど、僕の記憶ではなくて、そうだな、物語を呼んだ後、あらすじって記憶に残るでしょ?あんな感じ」と白龍様は言った。
存在の根幹である魂は変わらないけど身体も新しいものに生まれ変わるらしく、「ってことは、白龍様のこの身体って童貞?」と聞いたら流石に少し怒られた。
とりあえず、その生まれ変わりシステムは、嫁を取る土地神は皆そうなんだって。
「なるほど。じゃあ、白龍様と交わるのも、その体をしるのも、私だけってことですよね」
「つ、慎みをもって、実花ちゃん…」
そうは言われても、私以外を抱いたことのある白龍様だったらちょっと嫌だなーとか思っちゃってたから、嬉しかったのは事実だ。
「もう一つの質問はなに?」
赤くなった白龍様に促されて、ああ、と頭を切り替える。
「白龍様は、私を嫁…番として決めてくださったじゃないですか。で、とても大事に思ってくださってるじゃないですか」
「うん」
「じゃあ、なんで修行は止めてくれなかったのかなぁと思って」
私の問いに、白龍様が泣きそうな顔になったから、あ、やばい質問だった?と焦る。
「ごめんね。僕、強いんだ」
「へ?」
「白龍って、龍神の中でも神気の強い龍でね。こないだみたいにしゃべるだけなら、神気を意識的に抑えることはできるんだけど、交わるってなったらそうも行かなくて」
へにょへにょとどんどん白龍様の眉が下がっていく。
「君の体を守るためには、あの修行で霊力を高めてもらう必要があったんだ。本来なら十八まで会わないのをおして、先に君の体を神気にならしていたのも、同じ理由。…ごめんねぇ…」
ぼたり、と白龍様の瞳から涙が落ちた。
「傷だらけになって、なんで私がって泣いてる君をずっと見ていたのに、僕は、君を諦めることはできなかったんだ」
「大丈夫ですよ」
「え?」
白龍様を恨んでるとかじゃなくて、単なる疑問だった。
白龍様を傷つけるつもりなんてなかったのに。まったく私ときたら。
「大丈夫。私を強く願ってくれてありがとうございます、白龍様」
白龍様を抱きしめる。
私だけの龍神様。優しいこの人が、私が傷つくのをおしても私を欲してくれたことが、非常に嬉しい。
被虐趣味はないはずなんだけどな。
この人のために頑張ってた私も偉い。よく頑張ってきた過去の私。
「もう、受け入れて大丈夫なんですか?」
「え?」
「私の体、出来上がってますか?」
「う、うん。今の君なら大丈夫だよ」
涙が揺れる白龍様の色っぽさはなかなかやばい。
「明日で、私は十八になります」
「うん。うん?」
「じゃあ明日、早速抱いてくれますよね!」
「ええ⁉︎」
な?え?あ?などと言葉を忘れてしまった白龍様に、私は約束ですよ!と指切りをして、「じゃあ、身を清めて待ってますね!」と言い残して自室に戻った。
そして次の日の夜。
私は、心も体も白龍様の嫁となったのだった。
完
龍神様に支えている一族の本家の娘。一番最初に生まれた娘。それだけで、神に嫁ぐとく役割を押し付けられた。
龍神様は優しい神様だったから、自分の嫁になる娘がズタボロになりながら必死に霊力を磨いているのを見てはオロオロなさっていて、絶世の美形のオタつく姿はそれはそれで可愛らしくて…、いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく、ずっとずっと頑張ってきたのだ。嫁ぐために。一族のために。
それなのにさ、なんだよもう。
分家のかなり端の方にある家に、花のあざをもって生まれてきた子がいる。
そして、我が一族には花の乙女と呼ばれる、龍神様の番になる魂を持った少女の言い伝えがあって、特徴は、持って生まれた花のあざ。
もう何十年も生まれていなかったらしいその乙女が生まれていたことを、分家のみんなは隠していたんだって。その子の未来を守りたいとかなんとか言ってさ。
その子と私は同い年だ。
「まったく、ひどい話だと思いませんか?龍神様」
「実花ちゃん、ミニスカートであぐらはかかないほうが…」
「龍神様のことは好きですけども、そんな存在がいるなら、もっと早く言ってくれたら、私あんなしんどい思いして修行しなくてもよかったと思うんですよね」
「あの、ぱ、ぱんつ見えちゃうから…」
「ああでも、どんな子か会ってみないと。龍神様にふさわしいかちゃんと見極めないと!」
「実花ちゃんってば!」
「え?」
まずは花の乙女ちゃんに会わねば!と決意を固めたところで、龍神様が大きな声をだした。そちらをみると、両手で顔を覆って、耳まで赤くなった龍神様が
「勘弁してよぉ」とへにょへにょ言った。
「下、ズボン履いてるから大丈夫ですよ?」
「めくらないでーっ!」
僕、今日は帰るね、と龍神様は空気に溶けるように姿を消した。
本来、龍神様と嫁になる少女は、嫁ぐその時までは会わないらしいけれど、私と龍神様はたまたま修行中に鉢合わせて、そこからなんか時々こういう会話をする仲だ。
めんどくさそうだから一族の誰にも言っていないけれども。
「んー、龍神様帰っちゃったし、私も帰るかー。今日の分の修行…はどうしようかな」
花の乙女がいるなら私が修行する意味ある?
少し考えてから、まあ、もう毎日のお風呂くらいの習慣だしな、と修行はサボらないことに決めた。
「あなたが花の乙女なのね?」
「は、はい」
「名前は?」
「花奏、と申します…」
数日後、本家にやってきた花の乙女。同席しろと言われたので、当主のおばあさまの横に座って、その人となりを観察してみた。
青い顔した両親に挟まれて目の前に座っている少女は、十人いたら十人が「美少女」だと頷くだろう美少女だ。つやっつやの黒髪を肩の下くらいまで伸ばしていて、目も大きくてまつ毛はばっさばさ。色白だし、唇のかたちもきれい。私の語彙力じゃとてもじゃないけど、表現できない。とにかく可愛い。不安そうな表情すら、いやもう、可愛い。
「今日から本家で過ごしなさい。龍神様に嫁ぐための準備を始めます」
おばあさまの言葉に、そんなっと息を呑んだのは本人ではなく両親だった。
「龍神様には実花様がいらっしゃるではありませんか」
「黙りなさい」
花奏ちゃんのお父さんの言葉を、おばあさまがぴしゃりと遮った。
「実花が修行していたのは、花の乙女がいなかったから。花の乙女が産まれていた以上、実花に嫁の資格はありません」
じゃあ、なんで私いまここに同席してるんでしょーか。
しないけどさ、しないけど、これ、私が花奏ちゃんいじめようとしたりしてもおかしくない状況じゃないでしょーか。
「輿入れは十八歳。花奏はもう十七でしょう。よくもまあ十七年間も本家を騙したものです」
おばあさまの声は、とても威圧的だ。声に霊力を載せているとかなんとか言ってた気もするけど、少なくとも花奏ちゃんの両親は失神しそうなほど顔の色をなくしていて、本家のお手伝いさんたちに引きずられるように連れて行かれた。
かなで、かなで、と泣きそうな声で花奏ちゃんを呼んでいて、ちょっともらい泣きしそうになってしまう。
「実花」
「はい、なんでしょう」
「花の乙女を部屋に連れていきなさい。あなたの横の部屋を整えてあります」
そういればガタゴトいってたな。
「わかりました」
おばあさまはそれだけ言うと客間から出ていった。
花奏ちゃんは、不安そうな顔をしたまま、正座して、私の言葉を待っているようだった。
「ええと、とりあえず」
「はい」
「足、痺れてない?」
「え?」
私の言葉に、花奏ちゃんはきょとん、と目を丸くした。
「いや、正座って慣れないとひどいことになるでしょ?」
「あ、え、あ、…だ、大丈夫です、慣れてます」
「そう?じゃあ、とりあえず部屋行こっか。多分だけど、綺麗にはしてあると思うよ。龍神様のお嫁を雑に扱うなんてことはしないはずだし、まあ、修行はあれだけど」
立ち上がりやすいように手を出すと、花奏ちゃんはおずおずとその手をとってくれた。
花奏ちゃん用の部屋は、殺風景だけどきちんと整えられていた。
今日からここに住むなんてつもりはなかっただろう花奏ちゃんの私物は全くないが、後日たぶん送られてくるだろう。本家に分家が勝てるはずがないから。
「ね、ちょっとだけ喋らない?」
「え?」
花奏ちゃんが、ちょっとだけ警戒したのが分かった。うんうん。流されるだけの子じゃないのは高得点ですよ。
「ベッド座っていい?」
「は、はい」
「あなたもどうぞ?」
「え、あ、はい」
隣に座った花奏ちゃんからは、なんか、いい匂いがする。
美少女は匂いまで美しいものなのかしら。なんて。
「花奏ちゃん、って呼んで大丈夫?」
「はい」
「敬語じゃなくていいよー。同い年だし、花奏ちゃんがお嫁さんになるなら、立場的には花奏ちゃんのが上になるし。あ、私は実花。実る花って書いて実花だよー」
「みか、さん」
「ちゃんがいいな」
「実花ちゃん」
「そうそう」
実花ちゃん、と呼んだあと、花奏ちゃんはほぅ、と息を吐いた。
「その、実花ちゃんは、…私の存在って邪魔とかじゃないの?」
「おお、いきなりすごい所ついてくるね」
「あ、ご、ごめん」
さあ、と青くなった顔に嘘はなく、性格もいいのではないか?いやいやまだそんな早く判断するわけにはいかない。
龍神様をきちんと支える子であって欲しいもんね。なんて考えながら、ぽんぽんと背中を撫でた。
「実花ちゃん?」
「とりあえず、なんだけど」
「う、うん」
「今は感情が追いついてないってのが、多分正解なんだよねぇ」
物心ついてから、そうだな、多分十年くらいはずっと自分は龍神様のお嫁さんになると思っていた。
言葉通り血が滲むような修行は辛かったし、泣きながらなんで私がと思ったことも一度や二度じゃない。
逃げ出そうと思ったこともあった。
そう言う意味では、本来それをするはずだった花奏ちゃんがずっと守られていたことに思うところがないわけではない。
けれど、花奏ちゃんが自身が花の乙女だと知ったのが本当につい最近だというのも情報として知っているせいか、花奏ちゃんの両親にふざけんなとは思っても、本人へのヘイトはなんか浮かんでこない。
「とりあえず、龍神様はいい人だよ」
「え?」
いやまあ、人ではないのだけど。
「花奏ちゃんを苛めたり、乱暴するような神様じゃないから、そこは安心して」
「…、実花ちゃんは、龍神様にお会いしたことがあるの?」
「内緒だけどね」
余計なことを言ってしまっただろうか。
というか、十年位隠したことをぽろっと言ってしまったことに自分でもちょっと驚いている。
「そっかぁ…」
花奏ちゃんは、少し考えて、意を決したように私の目を見た。
近い。美少女が近い。なんか無駄にドキドキしてしまう。
「実花ちゃん。私ね、心に決めた方がいてね」
むむ、それは聞き捨てならぬぞ?
「その方がね…、龍神様なんだ」
「へ?」
ひどく、間抜けな声と顔で返事をしてしまった気がする。
そこから説明を受けていると、どうやら花奏ちゃんの住んでいた場所にちょくちょく現れていた「龍神」がいたらしい。
貴方は私の番だ、と言って。
一族については、本家分家というものがある、というくらいの情報しか与えられていなかったらしい花奏ちゃんは自分が花の乙女という存在であることは知らなかったというけれど、自分が龍神に嫁ぐ存在であるというのは、実はずっと知っていたのだという。
まさか、よく遊びにきていた龍神様の棲家がこんな遠いとは思わなかったけれど、と付け加えられて、私はぐるぐると回る、なんだろう、嫉妬?失望?そんな気持ちと戦っていた。
花奏ちゃんに対してじゃない。
今度は龍神様に対してだ。
一言も聞いたことがなかった。自分以外の女性を嫁にしようと思っていたことも、花の乙女を見つけていたことも。
いつだって私に優しかったのは、花の乙女を修行から守るためだったのだろうか。
私はていの良い生贄だったのだろうか。
「実花ちゃん?」
「…むかつく」
「え?」
「花奏ちゃん!」
「は、はい!」
私は花奏ちゃんの手を握って、言った。
「今から龍神様に会いにいくよ!」
龍神様は、修行で使う山の中の特定の場所に行くと、大概姿を表してくれる。だから、今日もその場所にいって、大きな声で呼んだ。
「龍神様!龍神様!実花です、いらっしゃいませんか!」
山登りに慣れてない花奏ちゃんが後ろで息を切らしているのは申し訳なかったけど、とりあえず腹が立って仕方がなかった私は、龍神様をどうにか問い詰めねばと鼻息を荒くしていた。
だってひどいもん。
絶対ひどいもん。
花奏ちゃんが嫁になることだって、本当は認めたくない、というのはさっきの話で気がついた自分の感情だった。
「み、実花ちゃん?どうしたのこんな遅くに…」
いつも通り、ふわり、と空気がゆれて龍神様が現れる。
「龍神様のばか!あほ!」
「え、ええ⁉︎」
唐突な私からの罵倒に龍神様がおろおろと眉をハの字に下げた。
「花の乙女見つけていたなら、なんで言ってくれたかったんです。私に優しくしたんです。私が修行でボロボロになってるの、なんで止めてくれなかったんですか。ひどいです」
「ちょ、ちょっとまって実花ちゃんなにを」
「私は貴方なら嫁いで良いって思ってました。貴方を支えるためなら霊力だって高めようと思ってました!だから痛くても辛くても踏ん張って耐えてたのに、なのになんの裏切りですか!貴方も知らなかった、なら良かった。貴方も私を騙していたなんて知りたくなかった‼︎」
そして、自分が龍神様に対して恋愛感情を持っていたなんてこのタイミングで知りたくなかった。
「ひどいです」
ぼたぼた、と涙が溢れたのがわかった。
「み、実花ちゃん…?」
龍神様はわけがわからない、という声色で私を見つめる。
ここにきてシラを切ろうと言うのか。
だけど私は今日、花奏ちゃんを連れてきているのだ。
「貴方の、本当の嫁です」
そう言って後ろを振り返ると、花奏ちゃんがものすごく困った顔をしていた。
そんな花奏ちゃんを見て、龍神様は「なんで君がここに?」とぽつりとこぼす。ああやっぱり知り合いだったのか、と思った次の瞬間に、花奏ちゃんが言った。
「あ、あの実花ちゃん、このかたは、私の龍神様じゃない、みたい…?」
「落ち着いた?」
「はい…」
とりあえず涙の止まらない私を座らせて、花奏ちゃんと龍神様が背中をぽんぽんと撫でてくれた。
さっきの花奏ちゃんの言葉がよくわからなくて、聞き直す。
「あの、花奏ちゃんさっきのって」
「ええと、…私にもよくわからないのだけど…」
花奏ちゃんの言う「龍神様」と私が嫁ぐ予定だった「龍神様」は違うらしい、というのは花奏ちゃんの表情でわかったけれど、それがどう言うことなのかはわからない。
龍神様が「僕から説明するね」と苦笑して口を開く。
「あのね、まずね、龍神って存在はひとつじゃないんだ」
「どういうことですか?」
「ええと、まず、龍神って土地を守る存在というのは知ってると思うけど、その土地を守るって存在、土地神といわれる存在だね、っていうのは日本にはたくさんいるんだよ。その土地神のうちの一人がぼく。龍が守ってる土地もあるし、狐が守ってる土地もあるし、いろいろあるんだけど…」
「…私は、龍神様がこの日本すべてを守っていると聞きましたが…」
「さすがにそれは無理かなぁ」
十七年信じていた大前提が崩れてちょっと混乱中。
「そっか、うん、そんなふうに伝えられちゃったんだね、立上のお家では」
立上は私たちの家のことだ。
「とにかくね、土地神は日本にいっぱいいて、土地神には土地神のの情報網もあってね。花奏さんだっけ、君のことも知ってるよ」
突然話を振られた花奏ちゃんがびくっと震えた。
「西の黒龍のところの土地の子でしょ?ほら、僕とは違って真っ黒い髪の毛でワイルド~な感じの」
目の前の龍神様は真っ白な長髪でほやほやした雰囲気の、ワイルドさなんてカケラもない穏やかな容姿だ。
「え、あ、そ、そうですね…?」
なんて返したらいいのか困っているのがひしひしと伝わってきたよ花奏ちゃん。
「花の乙女っていうのは、確かに龍神の番に選ばれやすい子ではあるけど、そもそも龍神と呼ばれる存在が一人じゃないってところがいろいろすっぽ抜けてたんだねぇ」
長く龍神様ー本来は白龍様というらしいーにお仕えしているうちに、全国へ一族の血が広がっていき、情報もどんどん歪んで削れていった。
その結果、今回のようなことが起きたのだそうだ。
「黒龍の番を僕が掻っ攫うなんてことはできない。そもそも僕には実花ちゃんがいるし、実花ちゃん以外を貰い受けるつもりはないしねぇ」
ほわ、と微笑まれて、ぼんっと顔が赤くなるのがわかった。
「あれ、実花ちゃん?」
「っっ、りゅ、あ、ちが、白龍様!」
「なぁに?」
「なんで、この間の愚痴った時に、それを教えてくれなかったんですか!」
そこで言ってくれたらあんな泣き顔を晒すこともせずに済んだのに!と睨むと、今度は白龍様が顔を真っ赤にしていた。
「あ、あのときは」
「?」
「実花ちゃんの、ぱんつが見えそうで、それどころじゃなくて…」
ふざけんな、とそう思った私は間違っていないと思う。
「さて、じゃあこの話をどうおばあさまに信じていただくか、かなぁ」
不敬にも白龍様を一発殴らせていただいてから、私は話を戻した。
「一番手っ取り早いのは、僕が直接話すことだとは思うんだけど」
白龍様は顎に手をやりながら、うーんと唸る。
「あとは、黒龍にもきてもらったほうがいいかもね、神が複数いるということを信用してもらないとだから。ああでも、神気が2人分になっちゃったら…きみたちは大丈夫だとして、当主さんは耐えられると思う?」
「私たちにきかれても…」
私と花奏ちゃんは顔を見合わせた。
神気と言われて初めて、空気が澄んでいるなそういえば、と気づくぐらいには私たちは体が龍神様の力に馴染んでいる。
神気というものがあるというのは知っていたけれど、花奏ちゃんがあてられる可能性を考えてなかったことに今更ながら気づいて反省した。
「大丈夫、私も龍神様に会っていたし、結果オーライだよ」
にっこりと微笑んでくれる花奏ちゃんはやっぱり美少女で、ドキドキする。
「うーん、夢での神託って手もあるにはあるんだけど、今まで割と詐欺っぽい使われ方もしてきたせいで、いまいち神託に信憑性がないだよねぇ」
「良いから俺たちが話せばいいだろ。俺の花奏を連れて行こうとしたババァに気を使う必要がどこにある」
突然空気が重くなったかと思うと、そこには黒い髪のワイルドイケメンが立っていた。
「龍神様!」
花奏ちゃんの声にハッとして、ああ、この人が黒龍様か、とすぐにわかる。
「花奏!ひどいことされてないか?辛いことはなかったか?」
「龍神様は相変わらず心配性なんだから」
くすくすと、名前の通り花が音楽を奏でるごとく可憐に笑う花奏ちゃんと、凛々しい顔を心配に歪めて花奏ちゃんを抱きしめる黒龍様は非常に絵になる。素晴らしい、眼福である。
「実花ちゃんが優しくしてくれたし、私もここに来るまでここの龍神様が私の龍神様だと思い込んでたし、何も怖いことなんてなかったよ」
「でもっ、俺はお前が白龍に嫁ぐかもしれないと聞いて、気が気じゃなかった!」
ぎゅう、と花奏ちゃんを抱きしめている腕に力がこもったのがわかる。愛されてるなぁ、花奏ちゃん。と思ったら私も白龍様に抱きしめられた。
「嫁が奪われるかもって恐怖は、ほんと、無理だよねぇ…」
「は、白龍様…っ」
とりあえず、と龍神様二人は私たちを抱きしめたまま、「じゃ、明日にでも行くか」という話でまとめていた。神気の話はもういいのだろうか、と思ったけれど、気合を入れている龍神様に私たちから言える言葉もなく、ひとまずと家に帰ることになった。
「なんか、怒涛の展開だったね」
「本当に…、でもその、花奏ちゃんが白龍様に嫁ぐんじゃなくて、良かったなーとは…思った」
家に帰って、無駄にでかい我が家のお風呂に二人で入ることにした私たちは、湯船に浸かりながらまったりと喋っていた。
花奏ちゃんは体もナイスバディでした。
あ、でも、でも私だってスタイルにはちょっと自信がある。…ってなんの話だ。
「ふふっ、そうだね。実花ちゃんが白龍様にベタ惚れなのもすごく伝わってきたし」
「っ!花奏ちゃんだって似たようなものでしょ…っ」
私たちは今日初めて会ったけれど、なんだろう、初めてあったような気がしない。龍の嫁同士だからなのか、波長があうというか、そばにいるのが心地よい。
「龍神様たち、明日、って言ってたね」
「そうだね。うまく行くといいのだけど」
花奏ちゃんの言葉に「本当に」と頷く。
明日、白龍様と黒龍様はおばあさまの元に行くと言っていた。
何事もなく終わりますように。
私が、白龍様に無事に嫁げますように。
お風呂から上がった私たちは、どちらからともなく無事を祈ってハグをして、それぞれの部屋に戻った。
「おばあさま、お話がございます」
「今日の修行はどうしました、実花」
翌日、龍神様がおばあさまの前に現れる前に、と思っておばあさまの執務室を訪れた私たちにおばあさまはこちらをチラとも見ないでそう言ってくる。
おばあさまの中では私はもう嫁じゃないはずなのに、なんで修行しろといわれなあかんのじゃ!と内心だけで突っ込んで、「修行よりも大切なお話なのです」と返す。
「そんなものあるわけないでしょう」
「あるんです。おばあさま」
さっきよりも語気を強くしてそう返すと、おもいきり眉間に皺を寄せたおばあさまとやっと目があった。
霊力を込めた視線で睨まれて、私の斜め後ろにいる花奏ちゃんが小さく震えたのが見えた。
ふざけんなよクソババア、なんて、お口の悪いことを考えてから、睨み返す。
「こちらの花の乙女は、すでに番を見つけておりました」
「は?なにを」
「龍神様は、おひとりではなく、日本のあちこちにいらっしゃるそうです。花奏さんは、そのうちのお一人と、すでに心を通わせております」
私の言葉に「何を馬鹿なことを」を嘲笑を向けられる。
「龍神様が複数いらっしゃるなんて、そんなわけないでしょう。気でも触れましたか、実花」
「いいえ、私はいたってまともですよ、おばあさま」
「ふざけるのも大概になさい!」
「…っ」
本気のおばあさまの“声”に、押し負けたのかくらり、と視界が一瞬揺れた。花奏ちゃんもだったようで、しまった、と思ったけれど、私たちは倒れることなくしっかりと支えられる。
「白龍様」
「黒龍、様」
龍神様と呼んでいたから、いまいちまだ呼び慣れない、白龍様、黒龍様という呼び方で支えてくれた主を呼ぶと、二人は私たちにふわりと微笑んでから、おばあさまをみた。
睨みつけているわけではないのに、おばあさまはカタカタと震えている。
「ま、さか、…え?」
「さすがご当主。二人分の神気を前に気を失わずに耐えてるねぇ」
「ふん、耐えてもらわんと困る。話ができないからな」
それでもこれ以上は近づけないと判断したのか、龍神様たちは、私たちを支えたまま、その場で話を始めた。
「さっき実花ちゃんが言った通りだよ。僕らはただの土地神。ひとつの神が日の本の国全てを支えるなんてできるはずがない」
「我々と同じ神はこの国のあちこちにいる。神の嫁もまた、お前の一族だけではない」
黒龍様の声が少し怒っている。
「立上の当主よ。花奏は俺の番。白龍の番はそこの娘だ」
「そう。僕の嫁は実花ちゃんだよ。そこの花の乙女じゃない」
龍神二人の声に、おばあさまは「あ、あ」と声にならない声が喉から漏れているだけで、いつもの威厳ある姿なんてどこにもなかった。
神気ってすごいんだな、と思う。
「たしかに立上の一族は霊力が強いし、花の乙女の生まれる確率も高いけどね」
白龍様はそう微笑んで続ける。
「僕らは自分で番を見つける。だからね、自分達の一族だけが特別だなんて思わない方がいい」
おばあさまは、わかりました、と蚊が鳴く様な声で返事をした。後で聞いたことだけど、あそこで返事を返せるだけ、おばあさまは優秀なのだそうだ。
「じゃあ、また会おうね、実花ちゃん」
「うん、私もそっち遊びに行くよ」
また数日がたって、おばあさまから連絡があったのか、花奏ちゃんの両親が花奏ちゃんを迎えにきた。
もう十七なのだから自分で帰れるのにね、と花奏ちゃんは笑っていたけれど、黒龍様も心配していた(自分は行き来できるけど人を連れて長距離は移動できないらしい)から良かったと思う。
ただでさえ、花奏ちゃん超絶美少女だしね。それにしても、龍神様に嫁がなくて良くなったと思ったら違う龍神様に見染められていたとか、花奏ちゃんのご両親も大変だなぁ。まあでも、間違いなく花奏ちゃんが自分で選んだ道だもん、どうにでもなるだろう。
花奏ちゃんの乗った電車を見送ってから、私は白龍様の待つ山へ向かった。
「白龍様ーっ」
「あ、実花ちゃん!」
ぱぁ、と微笑んでくれる白龍様が可愛くて、思わず抱きつくと、白龍様はあわあわと赤くなる。自分から抱きつくのは大丈夫だけど、抱きつかれるのは照れるらしい。ううむ、わからなくはない。
「ねえ、白龍様」
「なぁに?」
「ききたかったことが二つあるんだけど、聞いてもいいですか?」
「答えられることならね」
白龍様がそう頷いてくれたので、私は意を決して聞いてみた。
「じゃあ、まず一つ目。白龍様のお嫁さんって過去にもいっぱいいたんですよね?」
白龍様はぱちくりと瞬きしてから、「それ、わりとややこしくてね」と言う。
「どういうことです?」
「白龍って存在はずっと変わらないんだけどね。白龍の中の意識、具現化している身体というか?みたいなのは、お嫁さんの死と一緒に入れ替わるんだ」
白龍という存在、土地神としての白龍がいなくなるわけではないけれど、嫁いで来てくれた人の生の終わりと共に、生まれ変わるのだという。
「一部記憶の継承はあるけれど、僕の記憶ではなくて、そうだな、物語を呼んだ後、あらすじって記憶に残るでしょ?あんな感じ」と白龍様は言った。
存在の根幹である魂は変わらないけど身体も新しいものに生まれ変わるらしく、「ってことは、白龍様のこの身体って童貞?」と聞いたら流石に少し怒られた。
とりあえず、その生まれ変わりシステムは、嫁を取る土地神は皆そうなんだって。
「なるほど。じゃあ、白龍様と交わるのも、その体をしるのも、私だけってことですよね」
「つ、慎みをもって、実花ちゃん…」
そうは言われても、私以外を抱いたことのある白龍様だったらちょっと嫌だなーとか思っちゃってたから、嬉しかったのは事実だ。
「もう一つの質問はなに?」
赤くなった白龍様に促されて、ああ、と頭を切り替える。
「白龍様は、私を嫁…番として決めてくださったじゃないですか。で、とても大事に思ってくださってるじゃないですか」
「うん」
「じゃあ、なんで修行は止めてくれなかったのかなぁと思って」
私の問いに、白龍様が泣きそうな顔になったから、あ、やばい質問だった?と焦る。
「ごめんね。僕、強いんだ」
「へ?」
「白龍って、龍神の中でも神気の強い龍でね。こないだみたいにしゃべるだけなら、神気を意識的に抑えることはできるんだけど、交わるってなったらそうも行かなくて」
へにょへにょとどんどん白龍様の眉が下がっていく。
「君の体を守るためには、あの修行で霊力を高めてもらう必要があったんだ。本来なら十八まで会わないのをおして、先に君の体を神気にならしていたのも、同じ理由。…ごめんねぇ…」
ぼたり、と白龍様の瞳から涙が落ちた。
「傷だらけになって、なんで私がって泣いてる君をずっと見ていたのに、僕は、君を諦めることはできなかったんだ」
「大丈夫ですよ」
「え?」
白龍様を恨んでるとかじゃなくて、単なる疑問だった。
白龍様を傷つけるつもりなんてなかったのに。まったく私ときたら。
「大丈夫。私を強く願ってくれてありがとうございます、白龍様」
白龍様を抱きしめる。
私だけの龍神様。優しいこの人が、私が傷つくのをおしても私を欲してくれたことが、非常に嬉しい。
被虐趣味はないはずなんだけどな。
この人のために頑張ってた私も偉い。よく頑張ってきた過去の私。
「もう、受け入れて大丈夫なんですか?」
「え?」
「私の体、出来上がってますか?」
「う、うん。今の君なら大丈夫だよ」
涙が揺れる白龍様の色っぽさはなかなかやばい。
「明日で、私は十八になります」
「うん。うん?」
「じゃあ明日、早速抱いてくれますよね!」
「ええ⁉︎」
な?え?あ?などと言葉を忘れてしまった白龍様に、私は約束ですよ!と指切りをして、「じゃあ、身を清めて待ってますね!」と言い残して自室に戻った。
そして次の日の夜。
私は、心も体も白龍様の嫁となったのだった。
完
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