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第4話 新人あるところ、新たな展開有り!

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夕食の時は皆一堂に揃うので、そこでカーラとアロンを紹介した。
「新しい演目に新しい団員か、ユウ、お前はホントに働き者だな」
と、マクセルが賛辞だか皮肉だかわからない感想を漏らす。
「変な運だけは持ってんのよ、ユウは」
「まぁな。そんな運を持つ俺が、メルにおすそ分けするものがある」
「え?な、なに?」
「カーラをお前のテントで引き取れ。アロンは俺が引き取る」
「「な、なんでよ!」」
メルとカーラ、二人から不満が。
「男女同じテントは、まぁ、風紀上好ましくないし、バードゥ教司祭様は困っているものに救いの手を伸ばす、だろ」
なんか、カーラが足で床をダンダン叩いている。ウサギと同じで不満を表しているんだろうが、うるさい。
ネーベラとルリハは既に二人で一つのテントのはずだ。いつまでもメルだけに贅沢なんかさせてやるものか。
「ユウ、あたしと一緒じゃイヤなの!」
「今日が初対面って忘れてないか、お前」
「時間なんて関係ないもの」
うん、重いんだよ。見た目と違って。俺、いずれ刺されるかもな。
「いいから、言うこと聞け。ここにいたいのなら、尚更だ」
カーラ、ぶんむくれ顔で黙った。こういう女をフォローすんのめんどくさいからイヤなんだよなぁ。
その様子をニヤニヤ笑って見ているルリハ。
「モテる男はつらいねぇ」
「お前に言われたくないぞ、ザムド」
「ん?だから、ぼくは、毎日が辛さの連続さ」
うざっ。
「そいつらの衣装、早めに発注してくれよ。わしも忙しい」
マイペース要求するデニガン。
カーラとアロンを長い舌を出し入れしつつ黙って見ているレイガ。餌?餌認定してる?トカゲだからウサギは餌?
「はいはい、お早くお食べになっていただけませんか!せっかくの料理が冷めてしまいますわ!」
なんてネーベラに叱られたので、皆、黙って食べ始める。
「「なにこれ、美味っ!」」
一口食べてカーラとアロンが叫んだ。
ネーベラは静かに微笑んで、カーラとアロンを見ていた。

翌朝、だらしなく寝こけているアロンを寝床から引きずりだし、朝食前の朝稽古の準備をしていると、カーラがすっかり準備を整えて、やってきた。
「おはよう、カーラ。準備万端とは感心だな」
昨晩、朝稽古をやるから動きやすい服装で来いとは言っておいたが、キチンと来るとは思っていなかった。
「アロンは、あたしが起こさないとちゃんと起きないんだもの。だから、ユウと一緒がいいのに」
「弟起こすために、男と同じテントで過ごそうとすんな」
「ユウって真面目だね」
というなり、カーラはアロンに腕を捻り上げた。
「え?え?痛い痛い!あれ?姉ちゃん?あ、痛い痛い」
毎朝こんなことしないと起きないのか?
馬鹿って凄いな。
「ほら、さっさと着替えて練習するよ!ここにいたいんだろ?」
「うん、うん、姉ちゃん、わかった、いたいいたいいたい」
どっちの「いたい」なんだよ、と思いつつ
「練習の後はネーベラの朝飯を数倍美味く感じるぞ」
「よっしゃ!」
と、アロンは素早くカーラの関節技から逃れ、着替えた。
実はポテンシャル高いんじゃ…
俺を飛び越えたんだもんな、そもそも。
毎日、姉の暴力を受けても生きてるしな。俺なら3日で殺されると思う。

カーラとアロンを連れて、町の広場へ来た。
早朝なんで、人通りも少ない。
「よし!それじゃ、準備運動からな」
「えー?」
と、文句を言う馬鹿。
「いくらお前らの身体能力が高かろうと、万が一でも怪我する可能性はある。きちんと俺の言うことを聞け。怪我して、仕事出来なくなりゃ、お払い箱だぞ」
「追い出されたくない!ほら、アロン、ユウの指示に従うの!」
「わかったよ、姉ちゃん」
この馬鹿、直接俺の指示に従う流れは無いんだろうか?
とにかく、準備運動を始める。異世界とは言え、身体の作りはほぼ同じ故、基本も同じはずだ。
軽く、ラジオ体操(曲無し…マクセルに弾かせるのもありだが、そのために早起きさせるのは鬼畜の所業か)。
そして柔軟を追加してから、本番へ。
「まずは俺の真似してみ?」
最初は簡単に側転。馬鹿が止まらずにどっか行っちゃいそうになるのをカーラが蹴り倒して止めたこと以外は問題ない。
お次はバク宙。これも問題ない。
で、次はロンダート。側転から身体を捻ってバク宙へ至る合わせ技。
カーラは成功。馬鹿アロンは首を捻っている。
「どうした?」
「ん?ちょっと複雑で覚えきれない。もう一回やってくれ」
「構わんが、この程度で覚えきれないなら、芝居は無理だ。土産の売り子かお払い箱か選べ」
「ちょっと待って、ユウ。ちゃんと、あたしが教える」
「いちいち、お前を通さないといけないのも、減点要因なんだが」
「お願い。ちゃんとさせるから、捨てないで」
人聞きの悪いこと言いやがるな。
「今日だけだぞ、いいか?」
凄い勢いでうなずくカーラ。
「いい?追い出されたくなかったら、ちゃんとして。昨日までの生活がいいなら、あたしは止めないけど」
「姉ちゃん…わかった…頑張る」
麗しい姉弟愛、のはずだが、絵面的にはカーラがアロンのこめかみを拳固でグリグリしながらなので、拷問や洗脳に近い。
「それじゃ、あたしと同じことして」
あ、カーラがお手本してくれるのか。
「わかった」
…出来やんの。
「次からはユウと同じことするの。わかる?あんたの好き嫌いは関係ないの。生きていける、仕事なんだから」
「わかった」
不安な返答な気もするが、ここは真面目に冷徹に。
「次はリアクションとしての背落ちだ。こいつが出来ると出来ないとじゃ、客への見栄えが違う」
要はその場で前宙をして、背中から落ちるわけだが、背中だけで落ちると、背骨や腰を破壊するだけなので、足や手を使い、受け身の要領で勢いを殺す。基本、敵に投げられたり、斬られたりしたときにやる動き。
で、手本を見せると
「ほいっ…あれ?」
「ははは、姉ちゃん、見本と違うのは、おいらでもわかるぜ!ほいっと…あれ?」
落ちずに前宙だけしちゃうんだ、この二人。
普段生きてく中で、不要な動きだもんな。身体能力が高すぎるのも原因だ。
出来なきゃできないでも問題ないが…俺だけがやるのもなぁ。殺陣、考えなきゃなぁ。
「わかったから。そこで狂ったように前宙しまくるのを止めろアロン」
「でも…出来ないと…追い出される」
「回りながら喋るな。とりあえず、今日はいいから、次の動きに入るぞ」
「わかった…あれれれ」
と、目を回して、その場に倒れるアロン。
俺の言うこと聞くのはいいが、行動が馬鹿のままなのが問題だ。
「めまいが止まるまで休憩」
そのあとはキックの蹴り方を教えた。実戦とは違う、見せるための動きのなので、最初は戸惑っていたが、すぐ慣れて覚えやがった。
それくらいで、朝食前の練習は終了。
実際の殺陣での動きは、ザムド、レイガ、ルリハも交えてやらないと。
なんだろう?俺、凄い充実感に支配されてる。
ここがどこであろうが、アクション出来るのは嬉しいんだな、俺。

異様に朝飯を食べまくるカーラとアロンの様子を微笑ましく見つめるネーベラと、うんざりした顔で見るデニガンの対比を鑑賞しつつ、俺も美味い朝飯を食べる。
「ねえ、わたしはいつまでカーラを預かればいいの?」
とメルが聞いてきたので
「ずっとに決まってるだろう。邪教司祭」
「ちょっと。女が出来たからって、わたしの扱いを邪険にしていいもんじゃないのよ」
「何様だ、おまえは。それにカーラは俺の女じゃねえ」
「え?カーラが昨日の夜、延々とユウとの将来設計を語って聞かせてくるから…」
「聞くな。妄想だ」
「あんだけ好かれてるんだから、相手にしてあげなさいよ」
「あ?」
「だから…わたしのこと口説いたことは内緒にしといてあげるから」
「口説いた?」
「初めて会った時、わたしのこと抱きしめて、付き合おうって言ったじゃない!」
「おちょくっただけなのに」
「何ですって!」
「ユウ、あたしじゃなく、そっちの貧乳エルフがいいんだ?」
いつの間にか背後にカーラがいた。
「ユウ、俺は、この修羅場を歌にしたいぞ!」
「うるせぇ、マクセル!空気読め!」
ケルシュマンに至っては、我関せずとばかりに、さっさと食べ終えて出ていく始末。
「「ユウ、どうなの!」」
うるせーなー。めんどくせえなー。
何やら、ギャンギャン喚くメルとカーラをいないものと考え、ケルシュマンに倣って飯を食い、食堂から逃げ出した。

俺はそのままテントに戻らず、町へと逃げ出した。
いい加減、ショーも公演しないといけないし、金儲けの手段も追加しなきゃいけないし、考えることが色々ある。
あまり売り物を増やすのも、目移りした客が安いものばかりに集中するような結果になりかねない。
とりあえず、売り物はデニガンとネーベラに頼んであるもので、見切り発車するしかなさそうだ。
ショーのシナリオはベタでいい。凝ったことをやっても現状ではボロが出る。
ザムドもレイガもルリハもカーラも、そつなくこなしてくれそうなんで、問題はアロンだ。あの天然っぷりを俺が上手く回せれば、逆に武器になる。必要な道化へと進化するはずだ。
メルは司会のお姉さんにしたいのだが、臨機応変な対応がまだ無理だ。ショーの開始と終了を告げるくらいの役でいいだろう。
マクセルは必要な曲は習得済みなんで、ショーの流れと弾く曲順さえ教えれ、問題ないはずだ。
グッズやお菓子の売り子は、ケルシュマンやネーベラにやらせる。金を直接扱うのだから、座長が出張るのは当たり前、のはず。
ネーベラも見た目はごついが人当たりは良すぎるほどなので、多分大丈夫。
デニガンは…諸々のサポート要員ってところで。
よし、今日の午後から殺陣を付けて、本格練習に入るとするか。カーラとアロンには死ぬ気で頑張ってもらうってことで。
うん、よし、やはり一人で考えるとスムーズだ。
「ユウ、考え事終わった?」
「ああ、まとまった…ってカーラ?」
「えへへ、尾行してみた」
考えに没頭していたとはいえ、まったく気づかなかった。
「グラスウォーカーは、こういうのも得意だから」
そんな設定いらない。
「ねぇねぇ、ビックリした?」
黙ってカーラを見つめてやる。
「ね、ねぇ、怒ってる?あの、ごめんなさい。どうしても、あの」
なんか泣きそうになってるので
「怒ってねぇよ。尾けてきたのはアレだが、考え事の邪魔はしなかったんだ。別にいいよ」
「ほ、ほんとに?」
「ああ」
「うふふ、ユウ好き」
と抱き着いてきた。
「話が繋がってないぞ」
「いいの」
首根っこ捕まえて引きはがしたい衝動もあったが、また泣きそうになると感じたので、このまま放っておく。
メルよりは胸があって、心地よい感触が腹に当たっていたから、という理由も付け加えておこう。
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