公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

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〈63〉2人の天使

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「ふざけないで! 誰でも良いから助けなさいよ!!」

 そんな叫び声をあげる桃子の肩に、兵士の手が伸びる。

 逃げようとしていた手首を掴まれて、腕を背後に回されて、2人掛かりで押さえられた。

 それでも彼女は、叫び続ける。

「離しなさい! 私を誰だと思っているの!? こんな事、許されないわ!!」

 グギギギと、歯をむき出しにしながら睨み続けて、兵士たちを罵倒する。

 それでも埒があかないからと、今度はリアム王子に視線を向けた。

 目を潤ませて瞳を見上げて、自分を可愛らしく見せる。

「ねぇ、リアムさま。この方々にお手を離すように命令をしてくださりませんか? わたくしは、あなた様だけがーー」

「黙れ! その下品な口を開くな! 耳障りだ!」

「くっ……」

 だが、その声も、途中で遮られた。

 目頭にシワを寄せた桃子が、奥歯をグッと噛み締める。

「ノーマルエンドのクセに! ノーマルエンドのクセに! ノーマルエンドのクセに!!」

 歯の隙間から漏れ聞こえる声は、もはや呪詛のよう。

 怒りの籠もった視線と、聞くに耐えない叫び声が、教会前の広場に垂れ流されていた。

 ラテス、ロマーニ、シラネ、アルスルン、ドレイク。

 次々と目標を変える視線に、誰しもが憐れみを浮かべて、顔を背ける。

 その反応が、桃子の苛立ちを加速させていた。

「なんなのよ! クソ! クソ! クソ! クソ!!!!」

 もう良いわよ!

 すべてを破壊してやる!!

 公式アカウントを炎上させて、
 クレームの電話をかけ続けて、
 低評価をいれ続けてやる!!

 大株主になって、関係者を全員クビにしてやる!!!!

「クソゲー! クソゲー! クソゲー! クソゲー! クソゲー!!!!」

 そんな言葉が、永遠と紡がれる。

 目を血走らせながら暴れ続けて、叫び続けて、

「なんなのよ、もぉ!!!!!!」

 やがて彼女は、ぐったりと肩を落とした。

 どうやら相応に疲れたらしく、見るからに息が上がっている。

 そんな状態で、ダンダンダンと足を地面に叩きつけた桃子が、攻略対象ヒーローに囲まれたメアリを睨み付ける。

 そしてなぜか、ニヤリと笑った。

「良いわ。今日のところは負けにしておいてあげる」

 ぐふふ、ぐふふふふ。

 むき出しにした歯の隙間から、奇妙な高笑いが漏れ聞こえる。

 見るからに怪しく、近寄り難い。

 それでも、抵抗の意志は無くしたらしい。

「アナタなんて、バグが直るまでの天下よ。首を洗って待ってなさい!!」

 口や視線はいくらでも動くものの、体はぐったりと兵士にもたれ掛かっていた。

「……連れていけ」

「「はっ!」」

 桃子の体がズルズルと引き摺られて、教会の中へと消えていく。

 その先には窮屈な檻があり、やがては裁判にかけられるのだろう。

 桃子の姿が見えなった広場に、誰かの大きなため息が流れ出る。

 はふぅ、と弛緩した空気の中で、メアリが晴れ渡る天に向かって大きく伸びをした。

「さてと。帰りましょうか」

 そして、何事もなかったかのように、リリに微笑みかける。

「弟くんが先頭ね。リリが真ん中で、私が後ろに乗るわ」

「え……? あっ、はい! ……え?」

 目を丸くしたリリが、桃子が消えた教会の入口と、竜の姿になったドレイクを見比べて、コテリと首を傾げて見せる。

「なんだか、すっごく敵対されていましたけど。後処理とか、良いんですか?」

「良いのよ。後のことは、アルスルンの役目ですもの。双子も乗りなさい、帰るわよ」

「了解です」
「……わかった」

 そうしてシラネとロマーニが、ドレイクの背中に乗り込んでいく。

 チラリとアルスルンに視線を向けると、ラテス王子と頷きあって、

「我々はまだやることがありますから」

「ここでの仕事を終えたら、また泊まりに行くよ」

 意味ありげな笑みと共に、背中を押してくれた。

 弟を迎えに来て、無事に連れて帰る。

 理解の及ばない事が、色々とあったけど、当初の目的は達成出来た。

「わかりました。それでは、失礼いたします。行くよ、ソラ」

「うん!」

 ぺこりと頭を下げた後で、弟と手をつないだリリが、ドレイクの背中に手をかけた。

「メアリ様、手を」

「あら、ありがとう」

 差し出された手に指先を添えて、メアリもその背に乗り込んでいく。

 そんな矢先、

「待て!」

 不意に、背後から声がした。

 振り向いた先に見えたのは、立派な服を着たリアムの姿。

「見ての通りだ。余は略奪の勇者に騙されていた。それは知っているな?」

「……えぇ、そのようね」

「従って、余とそなたの婚約破棄を解消する! メアリ、お前は余の后となるのだ。光栄に思え!」


「無論、お断りしますわ。殿下」

 ふわりと微笑んだメアリが、くるりと背を向ける。

 そしてもう一度振り向き、驚きに目を見開くリアムを見下ろした。

「すべての罪を他者に押し付けられる。そう思っていたのですか?」

「なにを、言って……」

「殿下には何を言っても無駄ですものね。それでは、ごきげんよう」

 ふわりと微笑み、リリの肩に手を乗せた。

「帰りましょうか。のびのびと暮らせる我が家に」

「そうですね」

 2人で微笑み、ドレイクが翼を広げる。

「メアリ、きさま!!!!」

 叫び続けるリアムを残して、大きな体が降り注ぐ日差しの中へと、飛んでいった。


 光の天使が偽物であった事に加えて、古竜と敵対した事実により、教会は大きく傾いた。

 リアムの政治基盤であった教会派も散り散りになり、その殆どをラテス王子がまとめあげる。

ーーだけどそれは、

「メアリ様、お茶が入りました」

「良い香りね。リリも一緒に頂きましょう」

「はい! ご一緒させて頂きます!」

 魔の森と恐れられた場所で、のんびり暮らす彼女たちには、関係のない物語。

 ~ fin ~

ーーーーーーーーーーーー


お読み頂き、ありがとうございました。

ほんの少しでも楽しんで頂けたのであれば、幸いです。
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感想 176

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みんなの感想(176件)

みみっく
2025.02.18 みみっく

見た目年齢ですが、60歳位で乙女ゲームって中々元気ですね

解除
asa☆ue
2020.09.07 asa☆ue

リリの弟の名前が二転三転…コウタ→ユウ→ソラ
ソラってことでいいですか(^_^;)?

最初から最後まで楽しく読みました!クズ王子はどこまで行ってもクズでしたねー(笑)マリリンがクズ王子の第2の剣で元の姿に戻るのは斬新で面白かったです!

2020.09.07 薄味メロン

えー、あー、はい。ソラでお願いします。(三転はひどい……)

ありがとうございます。
自分でも発想は悪くなかったと思うのですが、今見返すと展開がダメだったな、

って感じなので、時間があけばより良く修正したいと思っています。

解除
一
2019.12.09

「リアム、お前は余の后となる…」は「メアリ」のミスではないでしょうか?
完結お疲れ様でした。
最近登録して一気読みしました。
続編か番外編みたいにして、こまごました部分も読みたいと思っています。
これからも活動頑張って下さい。



解除

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