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〈62〉光の天使 2

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 チビでブスな男爵令嬢に、婚約者もらいての居ない準男爵家の三女。

 授業料すら払えない貧乏な騎士の娘に、田舎から出てきた準騎士の少女。

 この子たちって……。

「みんな、私の、お友達よ」

 桃子が顔を背けてそう言葉を漏らすけど、どう見ても挙動が怪しかった。

 表情を引き締めたアルスルンが、桃子の側へと近付いて行く。

「どうされました? 声が上擦っているようですか?」

「そんな事は無いわ!! みんな私の大切なお友達じゃない! それがどうしかしたの!?」

「お友達、ですか」

「えぇ、映ってる全員が大切なお友達。お友達なの!」

 額からは大粒の汗が流れ出て、視線も盛大に泳いでいる。

「では、こちらを見て頂けますか?」

 そんな言葉と共に、新たな写真が突き付けられた。

 そこに映るのは楽しげに笑うマリリンの姿と、哀れな4人の女性たち。

「なんで……」

「あなたの家のメイドが撮影していたようです。あなたは部下にも理不尽な命令をし続けていた。そのおかげで、様々な証拠の品を借りる事が出来ましたよ」

 手足をロープで縛られた4人の女性を踏みつけるマリリンの写真。

 髪を掴み、綱引きように両手で引く写真。

「準騎士の少女にいたっては、艶のある髪がムカつく、と言ってすべて切り落とした。身に覚えはありますね?」

 そう問いかけるアルスルンの瞳は、怒りと悲しみが入り乱れていた。

 どの写真も異様な光景で、周囲の人々はみな、思わず目を背けている。

 誰がどう見ても、マリリンの姿をした桃子の行動は異常で、理解に苦しむ。

ーーだけど、

「ええ、覚えているわよ? 楽しいお遊戯だったの」

 そんな言葉と共に写真を眺めた桃子は、ふー……、と大きく息を吐き出して、アルスルンを睨み返す。

 おもむろに1枚の写真に手を伸ばして、ニヤリと笑って見せた。

「これがいじめ? 違うわ。遊んでいただけじゃない」

「……これが、遊んでいただけだと?」

「ええ、お友達ですもの」

 ぐふふ、と失笑を浮かべた桃子が、唇の端をニヤリと吊り上げる。

 鞭で打ったのも、髪を引っ張ったのも、ハゲにしたのも。

「全部、お友達だったから」

 それに、

「もし仮にだけど、これがイジメだったとして、ーーだからなに?」

 私はマリリン、このゲームの主人公なのよ?

 王太子殿下の婚約者で、白竜様の嫁になる存在なの。

 最後はハーレムエンドになって、攻略対象ヒーローたちと幸せになるの。

「相手は、クソみたいな下級の貴族ばかりじゃない」

 そんな相手が私の気分を害したのよ。

 お友達の癖に、私よりも優秀な部分を見せ付けるんだもの。

 お仕置きの遊びをしなきゃダメに決まってるじゃない。

「私は未来の妃なの。わかるかしら?」

 光の天使の称号を剥奪して、権威を無くしたつもりなのかもだけど、残念でした。

 たったそれだけで、主人公を罪人に出来るはずないじゃない。

「未来の后をそんなつまらない罪で起訴するつもり? あなた、顔は良いけどーー」

「あの、后って、ご自分で辞められませんでしたか?」

「ぇ……?」

 不意に誰かの声がした。

 出所はどうやら、メイドの少女らしい。

 その少女を守るように、悪役令嬢メアリが彼女の肩に手を回す。

「そう言えば、逃げ出した貴族や護衛の兵士がそう噂していたわね。男爵令嬢のマリリンが一方的に婚約破棄をした、って」

「そ、それは……」

 白竜様と結婚するために、ノーマルエンドとの婚約が邪魔だったから。

「ちなみにですが、男爵家の当主ーーあなたのお父様から、『我が家に、他家の令嬢に暴行を加えるような娘はいない』と証言して頂きました」

 そう言って差し出されたのは、男爵家からの追放書類。

 光の天使の称号が取り消されて、

 王子の婚約者じゃ無くなって、

 貴族からも追放された。

「それって、つまり……」

「えぇ、あなたを守る者は、誰もいません」

 何を言っているの?

 まだ残っているじゃない!

「白竜様! 助けてください! あなただけは、私を守ってーー」

「残念だけど、守る気はないよ。どう見てもキミは罪人だ。罪は償わないといけないね」

「そんな……。違います! 私はあなたのルートを選んで、ふたりで幸せな家庭を!!」

 そう叫んだけど、白竜様は無言で顔を背けた。

「殺人未遂に暴行、恐喝、国家転覆罪。リアム王子が握り潰した案件も、すべて精査させて頂きますよ」

「そんな……。私はただ、楽しくゲームを……」

「ゲームが何かわかりませんが、あなたが行った行為は、犯罪であり、あなたには償う義務がある」

 おそらくは終身刑でしょうが、それは裁判で決まることです。

 私が出来るのは逮捕まで。

「男爵令嬢のマリリンをーーいいえ、桃子なる者を捕まえなさい!」

 そんな言葉と共に、駆け寄って来る兵士たちの足音が、桃子の耳に聞こえていた。
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