公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

文字の大きさ
上 下
59 / 65

〈57〉桃子の魔法

しおりを挟む
「マリリンさんーー、いえ、モモコさん、だったわね? 出身は、東京? 大阪? それとも京都かしら?」

「……え?」

 この世界に来て数年ぶりに聞く懐かしい響きに、桃子《ももこ》の口から、うわずった声が漏れていた。

 悪役令嬢であるメアリは、どこまでも優しい笑みを浮かべて微笑んでいる。

「黒髪だから、アメリカやロシアなんてことはないと思うのだけど、違ったかしら?」

 優雅に紅茶を飲む口から、そんな言葉が聞こえていた。

 東京、大阪、京都。
 それに、アメリカやロシアまで……。

「っ、ぁっ……、ちっ、千葉、だけど……」

「そう、千葉なの」

 まさか、日本を知ってる!?

 桃子がそんな思いで目を見開いて、メアリを見詰めて、


ーー後悔した。

 
「……そう。やっぱり」

 ついさっきまで浮かんでいた笑みが消え去って、メアリの暗い視線が向けられる。

 椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がった彼女が、さっと手を伸ばしていた。

 向けられた手のひらから、有り得ない量の光が漏れ始める。

 パッと見ただけでも、リアムがさっき集めた光の10倍はあった。

「なによ、これ……」

 気が付くと、見渡す限りに魔法陣が広がっている。

 その数は、100や200じゃない。

 ひしめき合う魔法陣の中から、マッシュと呼ばれていた大きなキノコが顔を出していた。

「モモコを取り囲みなさい!」

 さっきまでとは全然違う、的確で堅い命令。

「「「キュ!!!!」」」

「ちょっと! 何がどうなって! ひゅっ……」

 一瞬にして、無数の槍に囲まれていた。

 360°、すべての方向にある槍の先が、顔を向いている。

 その背後では、引き絞られた弓が、狙いを定めているのが見える。

「なん、痛っ!」

「動かないことね。槍も弓も、本物よ」

「……」

 右の頬が痛い。

 ほんの少し触れただけだけど、たぶん、血が出てる。

 身動きどころか、顔をひねることすら出来そうもない。

「なんで……、どうして……」

 私が何をしたって言うの!!

 力の限りに叫ぶと、なぜかメアリを守るように、白竜様がその隣に寄り添った。

「メアリくん、“簒奪の勇者”と言うのは、“強奪の魔王”のことかい?」

「えぇ、おそらくは同じ人物だと思うわ。やはり、竜族にも伝わっているのね。私は王妃の修行の一環として、王家の歴史書で読んだわ」

「なるほどね。それにしても、この国にこれほど邪悪な存在が紛れ込んでいただなんて、思わなかったよ」

 邪悪な存在?

 何の話をしているの!?

 どうして白竜様が、私をそんな目で見るのよ!?

 私が桃子の姿になったから?

 私がマリリンの姿じゃなくなったから?

ーー違う!

 白竜様は、そんな人じゃない!

 画面越しだった時でも、私を愛してくれていた!

 桃子だった時も、私たちは愛し合っていた!!

 だったら、……なぜ?

「これで3人目だね」

「あら? もうひとり居たのね。この国に残っていた記録は、1人だけよ」

「おや、そうなのかい? だとしたら、2人目だけかな。1人目は3000年も前の話しだからね」

 なんの話し??
 だから、何の話し!?

 主人公である私を差し置いて、何の話しをしているの!?

 なんて思うけど、聞きたかったのは、私だけじゃなかったみたい。

「メアリ嬢、よければ僕にも教えてくれないかな? 彼女は何者なんだい?」

 聞こえてきた声に少しだけ視線をずらすと、

 警戒心を瞳に宿した攻略対象ラテスが、悪役メアリの隣ーー白竜様の逆側に寄り添っていた。

 それは、最終話付近でメアリを断罪する時の姿に、良く似ている。

「そういえば、リアムに邪魔されて、王家の図書には近付けなかったわね」

「恥ずかしい限りだよ……」

 それは幼い頃からの嫌がらせで、第3王子ラテスのルートのカギになる話だ。

 攻略本に書いてあったから、当たり前のように知っているわ!

 だけど……、

「アルバルトルムの惨劇は知っているわね?」

「もちろん。1000年も昔に、ひとりの男がきっかけで大国が消滅した、そんな昔話しだよね?」

「えぇ、そうよ。でもね、ただの昔話しじゃないのよ。その男の見た目も、行動も、話した言葉のひとつひとつが残されているの」

 そんな話し、昔話の方すら聞いたこともなかった。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

愛しい義兄が罠に嵌められ追放されたので、聖女は祈りを止めてついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  グレイスは元々孤児だった。孤児院前に捨てられたことで、何とか命を繋ぎ止めることができたが、孤児院の責任者は、領主の補助金を着服していた。人数によって助成金が支払われるため、餓死はさせないが、ギリギリの食糧で、最低限の生活をしていた。だがそこに、正義感に溢れる領主の若様が視察にやってきた。孤児達は救われた。その時からグレイスは若様に恋焦がれていた。だが、幸か不幸か、グレイスには並外れた魔力があった。しかも魔窟を封印する事のできる聖なる魔力だった。グレイスは領主シーモア公爵家に養女に迎えられた。義妹として若様と一緒に暮らせるようになったが、絶対に結ばれることのない義兄妹の関係になってしまった。グレイスは密かに恋する義兄のために厳しい訓練に耐え、封印を護る聖女となった。義兄にためになると言われ、王太子との婚約も泣く泣く受けた。だが、その結果は、公明正大ゆえに疎まれた義兄の追放だった。ブチ切れた聖女グレイスは封印を放り出して義兄についていくことにした。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?

ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
 ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。  しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。  約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。  未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。  運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。 「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」  ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。 「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」  彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。  しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~

いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。 誤字報告いつもありがとうございます。 ※以前に書いた短編の連載版です。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...