公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

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〈54〉マリリンの魔法 2

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 兵士たちが掲げる剣の先から、青い光が飛び出していく。

 小さな光の玉がとめどなく吸い取られて、リアム王子の元へと集められていた。

「くっ……」

「こいつは苦しいな……」

 その1つ1つが、一般の兵士には大きな負担であり、

 全速力で走り続けるような負担が襲い来る。

 だけど、止まるわけには行かなかった。

「何も言わずに耐えろ。家族を思い出せ。王子の命令だぞ」

 下手をすると処刑だ。

 言葉にこそしないが、全員がわかっていた。

「……ジュリアンナ、マリンナ。父ちゃんは頑張ってるぞ……」

「そうだ。それでいい。……生きて、帰るぞ」

「はい……」

 影でコソコソと励まし合いながら、時には肩を貸して支え合う。

 予想以上の魔力が体から抜け出していく中で、兵士たちはグッと歯を食いしばって耐えていた。

 そうして集まった青い光を宝剣の輝きに変えながら、リアム王子が言葉を紡いでいく。

「主神たる光の神よ。万物をつかさどる古竜たちよ。余の願いに答えて彼女に巣くう魔を払い、真の姿を示せ!」

「 〈永遠の愛トゥルー・ラブ〉!!!!」


 聞いてる者が恥ずかしくなる魔法名を堂々と叫んだリアム王子が、力強く宝剣を切り下ろしていた。

 二メートル近い灰色の玉が浮かび上がり、ビョンビョン、ベロンベロンと、その形を変えていく。

 それはまるで、小さな子が粘土で作ったかのような、竜の姿。

 そして不意に、その体がドロドロと崩れはじめた。

「うわっ、きしょい! グロすぎでしょ! 何よこれ!」

 そう叫ぶマリリンの前で、ゾンビ映画のように、竜の体がボタボタと流れ落ちていく。

 そしてゆっくりと動き出したソレが、宙に固定されたマリリンに迫っていく。

「ちょっ、ちょっと待ちなさいって! 怖いから! もうちょっとマシな形はないの!? どう見ても汚物の敵ーー」

「許せ、マリリン!」

「イヤーーーーーーー!!!!」

 のそのそと近付いたソレの口がカパリと開いて、

 滴り落ちる何かが、マリリンの髪をベットリと濡らしていた。

 聞こえてくる悲鳴も、かつてのリリと比べると、可愛らしさの欠片も感じない。

「魔力の変換効率も最悪ね」

「えぇ、あれでは、魔力を貸した兵士たちが可哀想だ」

「形を真似られた竜に対しても冒涜だと思わないかな? 原型を留めていないね」

「アベ@ル6ymベルベwルーー」

ーーパクリ。

 紅茶で唇を湿らせながら口々に感想を述べるメアリたちの前で、マリリンがゾンビ竜らしき物に飲み込まれていた。


 もぐもぐもぐ……、


 もぐもぐもぐ……、




 ペッ。


「ぐべっ」

 結局は、三十秒も経たずに、味を失ったガムのように捨てられて、

 マリリンの体が、土の上を転がっていく。

 その姿をまじまじと見詰めるリアム王子は、宝剣を切り下ろしたままの体制で、肩を大きく上下させていた。

 どうやら、魔力が切れたみたい。

 それはさておき、

「今の魔法のどこのあたりが、永遠の愛だったのかしら?」

「……考えるだけ無駄でしょう。相手はあの兄さんです」

「……そうね。私としたことが愚問だったわ」

 最終的には考える事を放棄して、ゆったりとした椅子に座りながら、事の行方を見守ることにした。

 とは言っても、マリリンに洗脳の魔法なんてかかっていない。

「……やったか!?」

「おい、クズ王子! なんのフラグよ、それ! 主人公マリリンを殺す気なの!?」

「くそっ!! ダメか! さすがは竜を自称することはあるな。まさか、余の魔法を振り切るとは……。だが、余は負けぬ!!」

 フンスと鼻息を荒くしたリアム王子が、腰に履いた鞘から、二本目の宝剣を引き抜いた。

 先ほど使った一本目も、今の二本目も、

 本来ならば、宝物庫で保管されるべき国宝であり、

「次期王の命令だ」

 と言って、無理やり持ち出したもの。

「余の本気を見せてやろう!」

 右手に、時渡りの剣。

 左手に、真実のつるぎ。

 気を失ってバタバタと倒れていく兵など気にもとめずに、リアムが二度目の詠唱に入っていく。
 
「だからやめなさいって言ってるでしょ! 無駄なのよ!」

 そう叫ぶマリリンの訴えも聞く気はないらしい。

「私も無駄だと思うのよね」

「えぇ、無駄ですね」

「そうだね。誰も洗脳の魔法なんて使ってはいないからね」

 無論、結界内にいる三人の言葉にも、止まることはない。

 そうして放たれた二度目の魔法が、マリリンを襲い、


「…………え?」


 誰しもが大きく目を見開いて、言葉を失っていた。
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