公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

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〈51〉令嬢の戦力 3

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 乗りかけていた足を止めたメアリが、騒いでいた女性に視線を向ける。

 幼い顔立ちに、可愛らしいドレスと髪飾り。

 彼女は、リアム殿下に羽交い締めにされながらも、ツインテールを振り回すかのようにもがいていた。

「退けよ、ノーマルエンド! 私と白竜様との逢瀬を邪魔するな!!」

 いまはちょっとだけ取り乱しているみたいだけど、確かに、バカな王太子リアム殿下が好みそうなタイプに見える。

「マリリン、どうしてなんだ! 正気に戻ってくれ!」

「うるさい! 白竜様、違うの! このうるさい虫は、全然知らない人でー、私はあなたがーー」

「神殿長! 混乱解除の魔法をかけろ! 今すぐにだ! 白竜に光の天使マリリンを奪われる!」

「奪うだなんて、そんな……。奪って、くれる、よね?」

 少しばかり、場が混乱しすぎている。

 見た目は素直な良い子だけど、中身が残念なタイプなのだろう。

 周囲からの視線を気にしないどころか、始めからいない者として扱っているように見える。

「すべての兵士に告ぐ! あのトカゲを殺せ! 次期王である余の命令だ!」

「きっ、聞いたか! 報酬は教会が出す! いくらでも出す! あの偽物のトカゲを殺すのだ!」

「……ぉ、ぉぉ。了解しま、した?」

「ぉぃ、本当に行くのか? どう見ても、本物の古竜様ただろ?」

「あぁ、だが、上の命令に背くわけには……」

 戸惑いを隠しきれずに、ひそひそと話す兵士たちに対しても、マリリンは見向きすらしていなかった。

 彼女はただ、白竜であるドレイクだけを見上げている。

「私は白竜様ルートだけを目指して来たの! 信じて! 私にはあなたしかいないの!」

 背を向けても、空を見ても、尻尾で追い払おうとしてみても、

 マリリンはずっと、見上げていた。

 さすがに無視も出来なくなったドレイクが、少しだけ視線を下げる。

「ぁぁ……、白竜様、やっと、私を見て……」

 ついには、泣き出してしまった。

 はぁ……、と大きく溜め息を付いたドレイクが、諭すように言葉を紡いでいく。

「ルートとは、何の話かな? そもそも、キミと会うのは今日が初めてーー」

「違います! 何千回、何万回と愛し合った仲です! 白竜様は、私を絶対に幸せにしてくれるんです!!」

「…………」

 いったい、なんの話だろうか。

 思い込みが激しくて、理解力も乏しい。

 周囲の冷ややかな視線も気付かない。

 マリリンと呼ばれる生物は、どうやら、そんな人間らしい。

「ふざけるな! 清らかな天使であるマリリンが、余以外と愛し合うはずがない! そのような言葉を言わせたキサマは極刑だ!」

「あなたこそふざけないで! 白竜様を処刑するなんて、主人公ヒロインであるこの私が許さないわ! あなたが死になさいよ!」

「くっ! 余の天使が、有り得ない言葉遣いを……、よくも!!」

「放しなさい! 離して!」

 ドングリ背比べ、いや、似た者夫婦とでも言うべきか。

 理解力の無さも、思い込みも、どちらも同じように見える。

 この2人が互いに手を取り合って、国を治めていれば、教会の素敵な操り人形になっていただろう。

 ぼんやりと そのような事を思っていると、不意にドレイクが振り向いた。

「すまないね、メアリくん。人間の時の姿も、竜の時の姿も、白竜の名も知っているってことは、少なくともーー」

「その女と話さないで! 白竜様は、私以外の女と話をしたらダメなの! 私を幸せにして」

「…………」

 面倒が過ぎるね。頭からバリバリと食べても良いと思わないかな?

 悲しげに見下ろす視線が、そう訴えていた。

 だけど、それもまた、次なる面倒が起きるだけ。

「ここは、私に任せてもらえるかしら? 彼女とは、一度話をしたかったのよ。それに、私の監督不行き届きも、問題の一端なのよね」

 そう声に出して、ドレイクの前へと進み出る。

 凛々しい顔が降りてきて、耳元で小さく囁いた。

「知り合いなのかい?」

「えぇ。とは言っても、ついさっき気付いたのだけどね。私を魔の森に追放した元凶って、あの子みたい」

「……ほぉ、あの娘が」

 不意に、ドレイクの声に厳しさが紛れて、鋭い視線が前を向いていた。

 踏み出そうとしていた足を、手を掲げて押し止めて、ふわりと微笑む。

「大丈夫よ。私なら気にしてないわ」

 むしろ……。

 そんな言葉を飲み込んだメアリが、男爵令嬢であるマリリンに視線を向ける。

 まずは、初対面の挨拶からだろう。

「ごきげんよう。貴方には一度会って見たかったのよ」

 淑女らしく膝を軽く曲げて、スカートをちょこんと摘まんで見せたけど、相手は当然のように無反応だ。

 そんな様子は気にもとめずに、言葉を続ける。

「リアム殿下を引き取ってくれてありがとう。あなたのおかげで、毎日伸び伸びと暮らせているわ」

 心からの笑みが、口元に広がっていた。
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