公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

文字の大きさ
上 下
52 / 65

〈52〉 令嬢の戦力 2

しおりを挟む
 焼け焦げた匂いと 肌を照らす熱量が、呆然と立ち尽くす人々を包み込んでいく。

 ふと隣に目を向けると、優しい笑みを浮かべたドレイクが、より強い魔力を両手に蓄えていた。

「役目を終えた教会に終焉を与えるよ。おつかれさま」

 口元だけでふわりと微笑んで、空を焦がすほどの火柱を打ち立てていく。

 その姿は本当に楽しそうで、その火力は、どう見てもやり過ぎだった。

 リリたちの到着を待ってから穏便に脱出する。
 そのために必要な措置なのだけど、私怨が過分に混じっているように思う。

「今までのイメージを壊しているわね。今のドレイク殿下は、神じゃなくて、悪魔にも見えるわよ?」

「おや、そうなのかい? でもまぁ、悪魔に転職するのも、悪くないね」

 私利私欲に走る者に使われる神なんて、必要ないと思わないかな?

 そう言ったドレイクが、爽やかな笑みを振りまいていた。

 リアム殿下も神殿長も、叫び続けていたあの女性も、

 面倒なメンバーを含めた広間にいる者すべてが、唖然とした表情で、燃え盛る教会を見上げ続けている。

「王都の、教会が……、私の財産が……」

「なによ……、何なのよ! こんなイベント知らない! こんなの、知らない……!!」

 教会のトップである神殿長と、聖女に認定された女性。

 本来なら彼らが中心になって消火に動くべきなのだが、神と崇める古竜様が放火の犯人だ。

 理解の及ばない状況ゆえに、逃げ出した者以外は、燃えゆく教会をただぼんやりと見上げる事しか出来ていない。

 そんな人々の注目を集めるように教会の前に立ったドレイクが、炎を背景にして両手を大きく広げて見せた。

「神の意志を伝えるよ。聞いてくれるかな?」

 有無を言わせない優しい微笑みが、淡い色の瞳に浮かんでいた。

 バチバチと爆ぜる木々の音を背中に聞きながら、ドレイクが言葉を紡いでいく。

「この世の中には、理不尽が溢れている。裕福な者が、飢えるものからパンを奪っている。違うかな?」

 でもね。それが悪いことだ、なんて言う気はないよ。

 弱肉強食が世の習いだからね。
 強い者がより強くなろうとする事を、否定する気はないよ。

 でもね、

「古竜の意志だから、古竜様に捧げる為だから。そう言って騙して、金品を巻き上げるのは、見苦しく思うよ」

 それにね。

「教会にとって邪魔な人物を、悪魔に認定する。魔女や魔物に認定する。そんな行為を竜は、絶対にしないよ」

 人にとっての善や悪なんて、竜には理解が及ばない範囲だからね。

「理解してもらえたかな?」

 そう言って、より一層笑みを深めたドレイクが、神殿長の姿を流し見ていた。

 人々の視線が、一斉に神殿長へと向かい、

 ボロボロの服を着た市民からは、親のかたきを見るような視線が向けられる。

 そんな中にあっても、顔を真っ赤に染めた神殿長が、唾を飛ばしそうな勢いで怒鳴り散らす。

「キサマ!! いったい何の権限があって、神殿長であるこの私にそのようなデタラメをーー」

「なるほど。キミは、崇める神と人との違いもわからないのか。嘆かわしい事だね」

 はぁー……、とわざとらしく溜め息を吐いたドレイクが、キラキラとした光をまとって、一瞬にして竜の姿へと形を変える。

「なっ!?」

 兵士に両脇を捕らえられたままの神殿長が、ガマガエルのような瞳を大きく見開いていた。

 だけど、その様子もたいして興味はない。

「まぁ、いいさ。忠告はしたからね」

 そう言葉にして、視線を空へと向けた。

「白竜様! あなたのマリリンが会いに来ました! メアリの呪いなんて、私がすぐに!!!!」

 キンキンとする声が聞こえて来るけど、そちらに割く魔力はないから、聞こえないふりをしておいた。

 メアリが歩み寄る方の翼を下げて、彼女が乗りやすいように体制を整える。

「マリリン! どうしてだ! 正気にもどってくれ! マリリン!!」

「うるさいのよ、クズ王子風情が! 私の邪魔をしないで! 離しなさいよ!」

「古竜じゃない……! そいつは、古竜を語る偽物だ! 兵士たちよ! この偽物を切り捨てろ! 報酬は言い値ではずんでやる!!」

 次第に慌ただしくなる人々に溜め息を吐き出して、歩み寄るメアリの足音を翼の端に感じる。

 そして不意に、その歩みが止まっていた。

 おそらくは、叫び続ける女性の方を振り向いたのだろう。

「マリリン? ……そう、あの子が、男爵家の令嬢だったのね」

 なぜか楽しそうに声を弾ませたメアリの声が、背中の上から聞こえていた。
しおりを挟む
感想 176

あなたにおすすめの小説

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~

いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。 誤字報告いつもありがとうございます。 ※以前に書いた短編の連載版です。

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

処理中です...