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〈46〉地上の戦い 2

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 ヘッドフォン越しに初めて声を聞いた、あの日。

 私は恋に落ちていた。


 続編はもちろん、中の人が同じゲームはすべてやった。

 休みの日は、朝から寝る直前まで。

 学校がある日も、親や先生に怒られても、ずっと聞いていた。

 ファンクラブに入って、事務所に乗り込んで、部屋に盗聴器を仕掛けて、逮捕されたりもした。

 あの楽しかった日々と同じように、心臓が高鳴っていく。

「なのに、なんで……」

 視線が合わないの?

「心の優しい君たちに、贈り物をあげるよ。僕の魔力だ」

 どうして、こっちを向いてくれないの?

 私の体は、主人公マリリンの体なのに、なんで無視するの?

 顔を空に向けて、口の中からキラキラ光る玉を飛ばす姿も格好いいんだけど、

 なんで、そのキラキラを私にくれないの?

「白竜、さま……?」

 子供の健康を願うようなクズにはあげるのに、なんで私にはくれないの?

 出稼ぎのクズにもプレゼントしているのに、なんで私には……、

「どう、して……」

「あぁ、言い忘れていたのたけど、邪な者に与える気はないからね。それを他者から奪おうとは思わない方が良いよ。複数の竜族が襲ってくる」

 聞き慣れた優しい声音とは裏腹に、ピリピリとした空気があたりを包んでいく。

 どれだけ周囲を見渡しても、私の分の光はない。

「なんで……」

 邪な者?

 主人公の体を持った私が??

 そんなはずない!

 だって、主人公だもの!

「……そっか。主人公だから!」

 量産品のプレゼントじゃなくて、私だけの特別な物がもらえる!

 そうね! そうよね!

 王道の展開じゃない!

「2人とも、もう降りて大丈夫だよ。今も邪な気配がするのは、そこにいるお嬢ちゃんだけだから」

「……ぇっ?」

 睨まれた?

 あの優しい白竜様に?

 私が!?

「なん、で……」

「それでは、メアリ様。先に降りますね?」

「わかったわ。足下に気をつけるのよ?」

「わかりました」

「ぇ……?」

 白竜様の背中に、人が……?

 そこに乗れるのは、好感度MAXになったヒロインだけーー私だけの特等席なのに!!

「誰よ! 私の席に座るクズ……
、は…………」

 淡い色のドレスに、

 長い、髪……、

 それに、その顔って!!

悪役令嬢メアリ!?」

 アンタ、死んだはずじゃ?

 と言うか、なんでそんな所に乗っているのよ!?

 悪役令嬢が好感度MAX?

 有り得ない!
 そんなことは絶対にあり得ない!!

「何をした……。私の白竜様に何をした!!!!」

 全身が白いから、邪竜落ちじゃない。

 そもそも、邪竜にしても、メアリは乗れなかったはず……。

 なのに、どうして!?

「………ば、ぐ?」

 もしかして、またバグなの!?

 そうね、そうなのね!!

「ふざけるなよ、プログラマー!!」

 メアリもそうだけど、クソみたいなメイドまで背中に乗せるなんて、 

 そんなの白竜様じゃない!

「浄化しなきゃ……、今すぐ浄化しなきゃ!!!!」

 私が愛した白竜様は、クソみたいなメイドが降りやすいように、翼を広げて足場になんかしない!

 大きなキノコに手を引かれて降りようとしているクソみたいなメイドに、優しい視線なんて向けたりしない!!

「光の聖霊たち! 私に力を貸しなさい!!」

 浄化しなきゃ、

 浄化しなきゃ、

 浄化しなきゃ!!

「最愛の人に取り付く悪霊を消し去り、本来の姿を取り戻せ!」

 練習じゃ一度も成功したことないけど、今なら出来る。

 絶対に浄化しなきゃダメ!!

 メアリだか、バグだか知らないけど、全部浄化しなきゃ!!

 悪役は、負けるためにいるのよ!!!!

「〈ホーリーライト・エクスプローション〉」

 でき、た。

 やっぱり出来た!

 胸の前で組み合わせた手から、思い描いた光が飛んでいく!

 悪役に浮気する攻略対象ヒーローなんて、プレーヤーは見たくないのよ!!

「死ねや! メアリーーーーー!!!!」

 光がさらに強くなって、範囲も広くなる。

 白竜様にも当たるけど、愛しの彼は光の竜だから素通りする。

 そして、背中にいる悪役は、邪悪な存在だか、ら……、

「ぇ……?」

 パキン、って音がして、光の弾丸が弾かれた……?

 まさかあれって、魔法障壁!?
 障壁に防がれた!???

 でも、どうして!?

 メアリに光の魔法は、使えないはず!

「すまないね、お嬢ちゃん。僕の長女に、攻撃をしないでもらえないかな?」

「ぇっ……?」

 もしかして、白竜様が、守った……?

 メアリの前に、障壁を張って?

「あえない……」

 それに、長女って。

 白竜様が娘だって言い始めるのは、すべての攻略が終わってからで……。

「キミは次女にも手を出しそうだからね。少しの間、拘束させてもらうよ」

「次女……」

 どうして白竜様が、クソみたいなメイドを優しい瞳で見てるのよ!

 光の檻が私を閉じこめる!?

 有り得ない!
 すべてが有り得ない!!

 なんで!? どうして!?

「バグ!!」

 いや、もしかして、

「転生、者……?」

 主人公わたしの知らないところで追放されて、白竜様と一緒に帰ってくるなんて、攻略法を知らなきゃ無理!

「お前も転生者だったのかぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!」

 白竜様の上から不思議そうな目でメアリが見下ろしているけど、それも絶対に演技!!

「殺してやる! 私が絶対にお前を殺してーー」

「すまないね。口を閉じさせて貰うよ」

「待って、白竜様! 貴方は騙されーー」

 不意にその場から、音が消えた。

 どれだけ叫ぼうと思っても、声が出ない。

 サイレントの魔法を使われてしまった。

 口を開いても音が出ない。

 やめて!

 そんな顔で、メアリを見ないで!!

 人の姿に戻って、メアリをお姫様抱っこなんてしないで!

 クソみたいなメイドに微笑むのもやめて!!

 アナタが微笑んで良いのは、私だけなの!!!!

 私だけなんだから!!!!!!!!!!!!!!!


 そんな思いも、声にはならなかった。
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