公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

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〈44〉 上空の戦い

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 崖の中腹にあった洞窟を出てから、30分足らず。

 白い竜の姿になったドレイクの背に乗ったリリが、楽しそうに進行方向を指さしていた。

「メアリ様、王都が見えてきました! 本当に早いですね!」

「そうね。近道だったでしょ?」

「はい! 鳥になれたみたいで、気持ちいいです!」

 大きなキノコたちが持ち込んでくれた白い椅子から立ち上がったリリが、両手を大きく広げる。

 頬を撫でるひんやりとした風の感触が、なぜかとても心地よかった。

 ふと、視線をおろすと、空になったカップとお皿が見える。

「メアリ様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

 一瞬にして、メイドの表情を取り戻したリリの側に、様々な種類のお菓子を携えた大きなキノコが寄ってきた。

 優雅に微笑んで、その中の1つを手に取る。

「この気温と風景でしたら、こちらの焼き菓子が最適だと思います」

「そうね、お願いするわ。リリもどんどん食べて良いわよ」

「はい! ありがとうございます!」

 お菓子の誘惑に、ちょっとだけメイドらしさが剥がれていった。

 新しいカップに紅茶を注いでテーブルに置いて、もう1つ用意する。

 真っ白い椅子に座り直したリリが、太陽と雲、雄大な山々をモチーフにした焼き菓子を口いっぱいに頬張った。

「美味しいです!」

「そう、それは良かったわ。それにしても、白竜ドレイクの上で飲むお茶は、何だか優雅ね」

「そっ、そうですね」

 うふふふ、なんて乾いた笑いが、リリの口から漏れていた。

 チラリと横を見ると、真っ白い翼が優雅に羽ばたいていて、後方には竜の尻尾が揺れている。

 大空を雲よりも早く飛び回っているのに、揺れなどは何も感じない。

 新雪を思わせる大きな背中は、お茶会が出来るほどの広さと安心感が溢れていた。

 雲と同じ高さで、森の木々を下に見る。

 王国の権威を示すために作られた巨大な城も、煌びやかな教会も、今はちっぽけな物に見えていた。

「王子どころか、国王ですら見ることの出来ない光景ね」

「その通りだよ。君たちの基準で言うと、神々の見る景色、と言ったところかな」

 それにしても、良い香りの紅茶だね。一緒に楽しみたかったよ。

 なんて、振り向いた白い竜の口が、そう言葉を紡いでいた。

「忘れているのかも知れないけど、普通は僕に会うことすら出来ないのからね」

 そう言って、白い竜がふわりと笑った。

 ドレイクは、教会に神として崇められる古竜の1人。

 そして、お父さんが竜の王だから、彼は本物の王子だった。

 本人からも、メアリ様からも、そく聞いたけど、いまだに意味がわからない。

 それに……、

「神の背中でお茶会とか、もう、なんなんだろう?」

 罰当たりとか、そんなレベルじゃないのは確かだ。

 それでも、メアリ様は普段と変わらない様子で、空の旅と紅茶を楽しんでいる。

「あら、良いじゃない。友達になったのなら、立場なんて気にしない方が楽しいわよ。相手の為にもね」

「……そうですね」

 うん、まぁ、メアリ様が言っていることも、たぶん間違ってない。

 ドレイクさんは、メアリ様と一緒で気さくな感じだから、彼も垣根のない距離を望んでいると思う。


 でも、友だちの背中でお茶会って、おかしいよね!?


 まぁ、メアリ様だから、気にしないけど。

「あのドレイクさん。今更ですけど、私たちが乗ってて、重たくないですか?」

 お菓子を1つ頬張って、紅茶を飲んでから、顔の方に問いかけてみる。

 小さく振り向いてくれた竜の口元が、楽しげに笑っているように見えた。

「平気だよ。メアリくんには、引き籠もりだって思われているみたいだけど、筋肉はそれなりにあるからね。リリくんは心配性なのかな?」

「いっ、いえ。そんなことはないんですが、最近はちょっと……」

 食べ物が美味しすぎて……。なゆて、リリがモゴモゴ言い訳をする。

 それでも、重たくないと口にした言葉に、嘘偽りないようだ。

 ちなみにだが、ドレイクさんのお腹は、それなりに割れているらしい。

「見習わなきゃ……」

 なんて言葉にしながら、リリがテーブルの上のお菓子に視線を向ける。

 お茶会を始めてから、20分くらい。

 王都の上空を飛ぶドレイクは、ゆっくりと旋回しながら、高度を下げていた。

 着陸までどれほどの時間があるのかもわからないけど、残りは5分とかからないだろう。

「メアリくん。どこに着陸する予定なのかな?」

「そうね。城の庭か、教会の前なら広い場所があるわね。リリの家なら、教会の方が近いかしら?」

「教会だね。了解したよ」

 そんな言葉を聞きながら、リリがゴクリと喉を鳴らす。

 残すと勿体ないよね、と誰かにいいわけをして、最後のお菓子をパクリと頬張った。
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