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〈38〉弟を迎えに 3

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 いつも見ているキノコたちよりも、大きな子が目の前にいた。

 縦も横も、2倍くらい。

 専用の道具を背負いながら、肩からロープをかける姿を見つめて、リリがゴクリと息をのむ。
  
「本当ですね? 本当に、落ちないんですね!?」

「えぇ、大丈夫よ。魔法を使って離れないようにしているもの。初めて柵を飛び越えた時も、落ちなかったでしょ?」

「そっ、そうですね……。それなら……」

 小さくうつむいたリリが、首をコクリと縦に振る。

 大きなキノコの上に乗って、目的地まで運んでもらう。

 それが、メアリが提示した、崖の登り方だった。

 正直、イヤだけど、メイドだから……。

 そんな思いを胸に、リリがゆっくりと近付いていく。

「えっと……。乗っても良い?」

「きゅ!」

 どうぞー、とでも言いたげな雰囲気で、大きなキノコが身を縮めてくれる。

 ぷにぷにな傘の上に、よっこいしょ、と乗り込んで、遠慮がちに ちょこん と乗せてもらった。

 視線が高くなった分だけ、崖がさっきまでよりも近く感じられて、思わずゴクリと喉が鳴る。

「高い、よね……?」

 重たくてごめんなさい。
 明日からは、腹八分目に抑えます。

 そう心の中で念じながら、いそいそと膝を後ろに曲げて、 ペタン と座り直した。

「あの、上、まで……」

 それでもやっぱり怖い。

 グルリと空に背を向けて、ぷにぷにの傘をガッチリと抱え込む。

 優雅じゃない、メイドらしくない、って言われるかもだけど、高いところが怖いのだから仕方がない。

「大丈夫そうね。準備は良いかしら?」

「はっ、はひ……」

「マッシュ、リリをお願いね」 

「きゅ!」

 乗せてくれた大きなキノコが ビシッと敬礼をして、ポテンポテンと跳ね始めた。

 かなり揺れるけど、耐えられないほどじゃない。

 メアリの言葉通り、意外と安定しているように思う。

 両手も両足も、絶対に離さないけどね!!

 そんな事を思いながら必死にしがみついたリリを乗せて、大きなキノコが聳え立つ崖に突っ込んでいく。

「えっ、えっ!? ちょっと待って、そのまま登るの!?」

「きゅ? キュッ!」

「待って待って! その装備の意味はぁぁぁぁああああ!!!!」

 減速する事もなく、巨大な崖目掛けて大きく跳んだ。

 小さな出っ張りに乗ったキノコが、大きく沈み込む。

「待って! 待って! もしかしてなんだけ ひぃゃぁぁぁぁああああ!!」

 予想よりも速い速度で ポーン と跳んで、次の出っ張りへ。

 そしてまた大きく跳ねて、遠くの出っ張りへ。

 そしてまた、

「うぃっ!? それダメ、小さいから! その足場小さいから! 無理だか  ヒィィィィィィ!!」

 跳んで、跳んで、跳んで。

 ちょっとだけ踏み外して落ちそうになって。

「もうダメ……。いっそ殺し ヒィッ! 傾いた、ねぇ、この石 グラって ギィ゛ャ゛ァ゛ァアアアアア」

「キュゥゥウウウウ!!」

 ちょっとだけ落ちて。


「ぃ、生きてた……。ごめんなさい、嘘です。死にたくないです。お姉ちゃんには、まだやること ギャァァアアアア!!」

 そんな事を繰り返しながら、マッシュが崖の上へと運んでくれる。

 可愛らしい叫び声が、着実に遠ざかって行く。

「あらあら、楽しそうね。リリも気に入ってくれたのかしら?」

 そんな言葉と共に、メアリがふふふと微笑んでいた。

 もし本人が聞いていたなら、メアリ様は本当にメアリ様なんですから!! と叫ぶに違いない。

 頭上から聞こえるリリの悲鳴をBGMに、メアリが2体分の魔力を1体に凝縮していく。

「さてと、私もお願いするわ」

「キュッ!」

 任せとけ! とばかりに胸を叩いた大きなマッシュに乗って、メアリも崖を登って行った。

 リリと同じ速度で、跳んで、跳ねて。

「あら、素敵な眺めね。やっぱり朝に来て良かったみたい」

 見えてくる黒一色の世界を眺めて、ホッと吐息を漏らす。

 崖の反対側では、夜露に塗れた木々が、太陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

 所狭しと並んだ黒い木々たちは、まるでホタルが飛び交う新月のよう。

「リリに頼んで紅茶を用意して貰えば良かったかしら?」

 豪華な馬車にでも揺られるかのように優雅に微笑んだメアリが、見えてくる風景を楽しんでいた。

「ギィャァァアアアアアア!!」

 優雅とは程遠い声も、長々と魔の森に響いていた。
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