上 下
35 / 65

〈35〉王子と令嬢 2

しおりを挟む

 うわぁ、リアムくんのお肌びちゃびちゃ。乳液つけすぎじゃない?

 この世界の化粧品って、質が悪いし仕方ないかもだけどさ。

 画面越しのキミは、もうちょっと格好良かったよ?

 そんな思いを胸に押し込めて、少女が微笑んで見せる。

「ごめんねー、突然来ちゃって。でもでも、王都に帰って来て、1番最初にリアムくんに会いたかったの」

 顎の下に両手を添えて、目をパチパチする。

 ツインテールを揺らしながら、ちょっとだけ前屈みになると、ポイント高いよね。

 ゲームこのの世界に来てまだ半年だけど、何度も練習したからバッチリ出来る!

 そうしたら、

「いっ、いや、問題ない。マリリンなら、いつ来ても受け入れよう」

 うんうん、恥じらうよねぇ、キミは。

 攻略本に書いてあった通り、チョロ過ぎでしょ、この王子様。

 某チャンネルで、ノーマルエンド扱いされるはずだわ。

 でも、わかる! わかるよ、リアムくん!

 主人公マリリンって、胸はぺったんこだけど可愛いもんね!

 私が私だった頃と比べて、お手入れも簡単だし。

 食べても肥らないって、最高でしょ!

 名前が初期設定デフォルトから変更不可なのがムカつくけど、私は私だからOKってことで!

「でね、でね。ちょっと聞きたいんだけど、メアリさんってどうなったの?」

 今日の目的は、それだけ。

 それさえ聞けたら、リアム王子ノーマルエンドに用はないからね。

 さっさと終わらせて、帰らなきゃね!

 今日こそ、パフェとハンバーグを完成させないと!

 そんな思いで視線をあげると、リアム王子が誇らしげに胸を張ってた。

「あぁ、彼女なら魔の森に追放した。二度とマリリンの前には現れないから、安心していい」

「そっか、わかったよー」

 ゲームと一緒だから聞かなくても知ってるけどね。

 アリバイって大丈夫でしょ!

 あとは、閉じこめられてる牢屋に行って、いじめられるイベントをーー。

「……え? 追放?? 牢屋じゃなくて?」

「あぁ、あの女は竜に喰われて死んだはずだ。クズには上等過ぎる最後だな」

 えっ? 死んだ!?
 悪役令嬢が!???

悪役令嬢メアリさんを追放したの!? なんで!?」

「なんでって。お前に怪我を負わせたんだ。当然の処置じゃないか」

「…………まぁ、うん。そうかも」

 じゃないよ! あり得ない!!!!

 今後のイベントを悪役なしでどうやって進めるの!?

 バカなの? 死ぬの!? 

 もしかして、どこかで選択肢を間違えちゃった!?

 そもそも、なんで選択肢の表示が出ないのよ!! バグってるじゃん!!

「ねぇ、ノーマルえん……、じゃなかった、リアムくん!」

「なんだ?」

「えっと……」

 今後のイベントってとうなるの!?

 なんて聞いても意味不明だろうし。

 えっと……。

「なんでも、ない……」

「そうか。ならば良い」

 明らかに不思議そうな顔をしているけど、聞けることなんてないし……。

 でもきっと大丈夫、だよね?

 私のハーレムエンドは、終わっていないはず!

 悪役がいないってことは、ライバルがいないって事でしょ!

 むしろ、ラッキーなんじゃない?

 うん、そうだよ!

「ねぇ、リアムくん。テラスくんは?」

「テラス? 王都を出て行方不明になったままだが? メアリと一緒に死んだんじゃないか?」

「そっ、そうなんだ」

「なんだ? ヤツに会いたかったのか?」

「うっ、ううん。違う違う、バッタリ会っちゃったらイヤだなーって、あはは」

 なんでよ! あの子もハーレムの一員でしょ!?

 ってか、この子、ラテスくんの話題を振ると、目が怖すぎるでしょ。

 乙女ゲームの攻略対象ヒーローがそんなんでいいわけ??

第2王子ミントくんは?」

「アイツは相変わらず自室から出て来ないな。会うことはないから安心しろ」

「そっ、そうなんだー」

 何なのよ、もぉ!!

 このままじゃ、2セカンドどころか、隠しルートの白龍さまにも会えないじゃない!

 あの子が一番可愛くて、どの攻略対象ヒーローよりも好みなのにぃ!!

 なんて思っていると、不意にリアムが大きく息を吸い込んだ。

「そういえば、婚約の準備は順調か?」

「ん? 婚約? ……あー、うん! 婚約!」

 忘れてた。
 準備なんて全然してないどころか、婚約なんてする気ないし。

 でも、これってあれでしょ?

 イベント中に、白龍さまが来てくれるやつ!

 ノーマルエンドとの婚約事態に興味はないけど、イベントはきっちりしなきゃね!

「任せといてよ。まだ小さい子なんだけど、私が光を与えた幼竜には、乗れるようになったから。当日も成功間違いなし!」

「そうか、さすがはマリリンだな」

「でしょでしょ!」

 本当なら牢屋に入れられたメアリが、禁忌の術で呪われた白龍さまを召還して。

 私が光の魔法で、ズバー、って、浄化するはずなんだけど、それはまぁ、ゲームの強制力的な何かが頑張ってくれるでしょ!

「それじゃっ、私帰るね!」

「そっ、そうか……。だが、来たばかりではないか? もし疲れているのであれば、もう少しここに居てもーー」

「ううん、大丈夫。早く帰って婚約の練習しなきゃだから」

「……そうか、そうだな」

 白龍さまに会えるなら、リアム王子ノーマルエンドなんて要らないし。

 白龍さまルートは、光魔法の力に応じたイベントだもん、今からでも徹底的に鍛えるしかないよね!

 ゲームの時と違って、今は年齢的な制限なんてないし!

「もしかしたら、あんなことや、こんなことも……。ぐふ、ぐふふふふ!」

 やばい、妄想が溢れすぎてやばい!

 そんな思いを胸に、やすれ違うメイドや騎士に振り向かれながら、彼女は男爵家へと帰って行った。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

偽聖女ですが、ご不満ですか?〜婚約破棄され、追放された元最強のラスボス魔女は自由を満喫する

冬月光輝
恋愛
「君が偽物の聖女であることはバレてるんだぞ」 ある日、アーツブルグ皇国の聖女アリシアは婚約者であるこの国の皇太子にパーティーの席で偽聖女だと糾弾され、婚約の解消と国外追放を言い渡された。 しかし、アリシアはそれに納得がいかない。 何故なら、皇太子も宰相も彼女が千年生きた強大な力を持つ元魔王だということを知った上で聖女のフリをして欲しいと頼んでいたからだ。 どうやら皇王にすべてがバレてしまって、彼女を悪者に仕立て上げようとしてるみたいである。 「出ていくことは了承しましたが、責任は取って下さいね」 アリシアは考える。本物の聖女が弱すぎるから、自分に聖女のフリをして欲しいと頼んだのではなかったのかと。 故国の滅びを予感しながらもアリシアは数百年ぶりにかつて征服しようと思った世界へと踏み出した。 これはかつてラスボス魔女として恐れられた偽聖女が、自由気ままに旅をする物語。

公爵令嬢が婚約破棄され、弟の天才魔導師が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ずっと妹と比べられてきた壁顔令嬢ですが、幸せになってもいいですか?

ひるね@ピッコマノベルズ連載中
恋愛
 ルミシカは聖女の血を引くと言われるシェンブルク家の長女に生まれ、幼いころから将来は王太子に嫁ぐと言われながら育てられた。  しかし彼女よりはるかに優秀な妹ムールカは美しく、社交的な性格も相まって「彼女こそ王太子妃にふさわしい」という噂が後を絶たない。  約束された将来を重荷に感じ、家族からも冷遇され、追い詰められたルミシカは次第に自分を隠すように化粧が厚くなり、おしろいの塗りすぎでのっぺりした顔を周囲から「壁顔令嬢」と呼ばれて揶揄されるようになった。  未来の夫である王太子の態度も冷たく、このまま結婚したところでよい夫婦になるとは思えない。  運命に流されるままに生きて、お飾りの王妃として一生を送ろう、と決意していたルミシカをある日、城に滞在していた雑技団の道化師が呼び止めた。 「きったないメイクねえ! 化粧品がかわいそうだとは思わないの?」  ルールーと名乗った彼は、半ば強引にルミシカに化粧の指導をするようになり、そして提案する。 「二か月後の婚約披露宴で美しく生まれ変わったあなたを見せつけて、周囲を見返してやりましょう!」  彼の指導の下、ルミシカは周囲に「美しい」と思われるためのコツを学び、変化していく。  しかし周囲では、彼女を婚約者の座から外すために画策する者もいることに、ルミシカはまだ気づいていない。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

永遠の隣で ~皇帝と妃の物語~

ゆる
恋愛
「15歳差の婚約者、魔女と揶揄される妃、そして帝国を支える皇帝の物語」 アルセリオス皇帝とその婚約者レフィリア――彼らの出会いは、運命のいたずらだった。 生まれたばかりの皇太子アルと婚約を強いられた公爵令嬢レフィリア。幼い彼の乳母として、時には母として、彼女は彼を支え続ける。しかし、魔法の力で若さを保つレフィリアは、宮廷内外で「魔女」と噂され、婚約破棄の陰謀に巻き込まれる。 それでもアルは成長し、15歳の若き皇帝として即位。彼は堂々と宣言する。 「魔女だろうと何だろうと、彼女は俺の妃だ!」 皇帝として、夫として、アルはレフィリアを守り抜き、共に帝国の未来を築いていく。 子どもたちの誕生、新たな改革、そして帝国の安定と繁栄――二人が歩む道のりは困難に満ちているが、その先には揺るぎない絆と希望があった。 恋愛・政治・陰謀が交錯する、壮大な愛と絆の物語! 運命に翻弄されながらも未来を切り開く二人の姿に、きっと胸を打たれるはずです。 ---

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...