31 / 65
〈31〉敬意と決意
しおりを挟む
双子の王子様を掘り起こした翌日。
「大丈夫……。お姉ちゃんのも……、食べ……」
むにゃむにゃ、と口を動かしていたリリが、差し込む朝日にぼんやりとまぶたを開いていた。
未だに馴れない天井を見上げて、クスリと肩を震わせる。
「幼い2人を見た日に、弟の夢を見るなんて、ほんとバカみたい。メイドの頂はまだまだ遠いよ、ってことなのかな」
ふふっ、と笑ってみるけど、メアリ様の優雅さには、ちょっとだけ届いていないと思う。
双子王子のような元気も、弟のような可愛さも、たぶん足りてない。
「もっと頑張らなきゃね」
最高のお手本が近くにいるのだから。
そんな思いを胸に、リリはふかふかな掛け布団を押し上げた。
大丈夫、あの頃には戻らない。
メアリ様は優しくて、信用出来る雇い主だ。
弟と2人で飢えをしのぐ未来は、もういらない。
「大丈夫。きっと大丈夫!」
もうすぐ迎えにいけるから。
そしたら、この大きな家で、美味しいご飯を2人で、お腹いっぱいになるまで。
よし! と自分に声をかけたリリが、大きく息を吸い込んで、朝の空気を噛み締める。
「スカートはふわりと可愛いくして。腰のリボンは、全体のバランスを見ながら……」
メイド長に教えてもらってから、幾度となく繰り返した言葉と共に、リリが仕事着に着替えていく。
さすがに姿見なんてないけど、何百回と繰り返した動作だ。
姿見はあった方がもちろん良い。だけど、なくても無理じゃない。
「うん、これで大丈夫」
クルリと回って、肩越しに背中もチェックする。
今日からはメアリ様だけじゃなくて、2人の王子様も一緒だ。
出会った時の印象は悪かったけど、あの2人なら、たぶん大丈夫。
「ドワーフの王子様って言っても、弟みたいだからね! 気楽に行こ! 大丈夫、大丈夫!」
本人に言ったら怒るから言わないけど、可愛い子は嫌いじゃないし。
さてと、今日もメイドらしく頑張りますか!
よいしょ、と気合いを入れて、玄関のドアをガラリと開けた。
感じるのは、肌寒い朝の香りと、水平に照らす太陽の光。
「おい、誰が弟みたいだって?」
「う゛ぃ゛!???」
何故だろう。清々しい朝に相応しくない、ドスの利いた声が聞こえた気がする。
残念だけど、とても不機嫌そう。
ドキリと心臓が跳ねて、嫌な予想がリリの脳内を流れていった。
「あはは、気のせい、気のせい!」
そう自分に言い聞かせるけど、額に冷や汗が浮かんで止まらない。
ギギギギギー、と恐る恐る下を向くと、くりくりとした瞳にやんちゃな口元が見えていた。
幻術でもなんでもない、どう見ても本物。
「シラネ、王子……」
いやいや、早くない!?
この子、早起きし過ぎじゃない!?
王子様って、昼過ぎまで寝てるんじゃないの!?
ってか、何でこんなところにいるのよ!???
そう叫び声たい思いを胸に、リリはギュッと両手を握り締めた。
「えっと……、あのー……」
「あん?」
「ひぅ!?」
可愛らしい瞳と視線が交わるけど、イライラしているように見えるのは気のせいだろうか?
左手に握り締めているノコギリは、何に使うのだろう?
人を切るため、じゃないと思いたい!
ーーそんな時、
「ねぇ、兄さん? なんでリリ先輩を睨んでいるのさ」
不意に、ロマーニ王子の声がした。
ドアの影からロマーニ王子が姿を見せて、シラネ王子の前に割り込んでくれる。
そのまま素早く手を伸ばして、シラネ王子の頬を両手で挟み込んだ。
むぎゅぅ、なんて声が漏れ聞こえるけど、痛くはないと思う。
ってか、何してるの?
「昨日の話。ちゃんと覚えてる?」
「あん!? ……ちっ! わかったよ。悪かったなリリ姉さん」
「…………へ??」
リリ姉さん!???
「何がどうしたの!? 悪いものでも食べちゃった!? もしかして、メアリ様に怪しい薬でも飲まされたの!???」
なんて、思わず心の声が漏れていた。
慌てて両手で口を閉じたリリを後目に、シラネ王子がクルリと背を向ける。
「あー、なんだ……。悪かった、と思ってる」
表情は見えないけど、耳も首筋も真っ赤に染まっていた。
「えっと、え?? わっ、ちょっと!???」
「うるせぇ、敬意だ!」
「へ?? え? へ????」
意味もわからないうちに、シラネ王子が走り去っていく。
くくく、はははははは! と、膝をバシバシ叩きながら、ロマーニ王子が楽しげに笑っていた。
いや本当に、何がどうしたのよ?
「大丈夫……。お姉ちゃんのも……、食べ……」
むにゃむにゃ、と口を動かしていたリリが、差し込む朝日にぼんやりとまぶたを開いていた。
未だに馴れない天井を見上げて、クスリと肩を震わせる。
「幼い2人を見た日に、弟の夢を見るなんて、ほんとバカみたい。メイドの頂はまだまだ遠いよ、ってことなのかな」
ふふっ、と笑ってみるけど、メアリ様の優雅さには、ちょっとだけ届いていないと思う。
双子王子のような元気も、弟のような可愛さも、たぶん足りてない。
「もっと頑張らなきゃね」
最高のお手本が近くにいるのだから。
そんな思いを胸に、リリはふかふかな掛け布団を押し上げた。
大丈夫、あの頃には戻らない。
メアリ様は優しくて、信用出来る雇い主だ。
弟と2人で飢えをしのぐ未来は、もういらない。
「大丈夫。きっと大丈夫!」
もうすぐ迎えにいけるから。
そしたら、この大きな家で、美味しいご飯を2人で、お腹いっぱいになるまで。
よし! と自分に声をかけたリリが、大きく息を吸い込んで、朝の空気を噛み締める。
「スカートはふわりと可愛いくして。腰のリボンは、全体のバランスを見ながら……」
メイド長に教えてもらってから、幾度となく繰り返した言葉と共に、リリが仕事着に着替えていく。
さすがに姿見なんてないけど、何百回と繰り返した動作だ。
姿見はあった方がもちろん良い。だけど、なくても無理じゃない。
「うん、これで大丈夫」
クルリと回って、肩越しに背中もチェックする。
今日からはメアリ様だけじゃなくて、2人の王子様も一緒だ。
出会った時の印象は悪かったけど、あの2人なら、たぶん大丈夫。
「ドワーフの王子様って言っても、弟みたいだからね! 気楽に行こ! 大丈夫、大丈夫!」
本人に言ったら怒るから言わないけど、可愛い子は嫌いじゃないし。
さてと、今日もメイドらしく頑張りますか!
よいしょ、と気合いを入れて、玄関のドアをガラリと開けた。
感じるのは、肌寒い朝の香りと、水平に照らす太陽の光。
「おい、誰が弟みたいだって?」
「う゛ぃ゛!???」
何故だろう。清々しい朝に相応しくない、ドスの利いた声が聞こえた気がする。
残念だけど、とても不機嫌そう。
ドキリと心臓が跳ねて、嫌な予想がリリの脳内を流れていった。
「あはは、気のせい、気のせい!」
そう自分に言い聞かせるけど、額に冷や汗が浮かんで止まらない。
ギギギギギー、と恐る恐る下を向くと、くりくりとした瞳にやんちゃな口元が見えていた。
幻術でもなんでもない、どう見ても本物。
「シラネ、王子……」
いやいや、早くない!?
この子、早起きし過ぎじゃない!?
王子様って、昼過ぎまで寝てるんじゃないの!?
ってか、何でこんなところにいるのよ!???
そう叫び声たい思いを胸に、リリはギュッと両手を握り締めた。
「えっと……、あのー……」
「あん?」
「ひぅ!?」
可愛らしい瞳と視線が交わるけど、イライラしているように見えるのは気のせいだろうか?
左手に握り締めているノコギリは、何に使うのだろう?
人を切るため、じゃないと思いたい!
ーーそんな時、
「ねぇ、兄さん? なんでリリ先輩を睨んでいるのさ」
不意に、ロマーニ王子の声がした。
ドアの影からロマーニ王子が姿を見せて、シラネ王子の前に割り込んでくれる。
そのまま素早く手を伸ばして、シラネ王子の頬を両手で挟み込んだ。
むぎゅぅ、なんて声が漏れ聞こえるけど、痛くはないと思う。
ってか、何してるの?
「昨日の話。ちゃんと覚えてる?」
「あん!? ……ちっ! わかったよ。悪かったなリリ姉さん」
「…………へ??」
リリ姉さん!???
「何がどうしたの!? 悪いものでも食べちゃった!? もしかして、メアリ様に怪しい薬でも飲まされたの!???」
なんて、思わず心の声が漏れていた。
慌てて両手で口を閉じたリリを後目に、シラネ王子がクルリと背を向ける。
「あー、なんだ……。悪かった、と思ってる」
表情は見えないけど、耳も首筋も真っ赤に染まっていた。
「えっと、え?? わっ、ちょっと!???」
「うるせぇ、敬意だ!」
「へ?? え? へ????」
意味もわからないうちに、シラネ王子が走り去っていく。
くくく、はははははは! と、膝をバシバシ叩きながら、ロマーニ王子が楽しげに笑っていた。
いや本当に、何がどうしたのよ?
11
お気に入りに追加
3,867
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~
通木遼平
恋愛
この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。
家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。
※他のサイトにも掲載しています
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる